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防災インタビューVol.105

地域コミュニティーづくりと人が死なない防災計画づくり

放送月:2014年6月
公開月:2015年1月

安部 俊一 氏

よこすか海辺ニュータウン連合自治会長

個人情報保護と人命尊重の優先順位

私のところのマンションでは極めてナイーブな個人情報を集めていますが、「命より大事な個人情報などない」というのが私たちの合言葉です。

今、全国の地方自治体と町内会自治会などの地縁団体が、災害時要援護者支援ガイドラインに沿って、独り暮らしの高齢者や発災時に自力で避難することが困難な要援護者の情報把握に取り組んでいますが、なかなか思うように進展していません。登録希望者による任意登録制を採用している自治体では、要援護対象者の3割ぐらいしか情報の把握ができていないのが現状のようです。この状況下で再度大規模な災害に見舞われた場合には、また多くの犠牲者を出してしまうでしょう。災害でいつも犠牲になるのは高齢者とか障害者などの、いわゆる災害弱者と呼ばれる人たちです。

計画通りに情報が集まらない最大の原因は、個人情報保護法への過剰反応だと思います。もともとこの法律が施行された背景には、高齢者などの判断力が低下した人たちを悪質商法の被害から守るという目的がありました。それがいつの間にか個人のプライバシーへの不可侵とか、さらには個人のわがまま身勝手を正当化するための屁理屈として使用されることが多くなってきています。地域防災のためには、どの家に誰が何人家族で住んでいるか、災害時に自力で避難できない人はいないかというような情報を、できるだけ正確に把握することが必要です。地域の自治会や自主防災組織が、このような情報を正確に把握して、災害時要援護者名簿に登録するだけではなくて、その要援護者ごとに複数の救助者を指名して、発災時に迅速に避難支援を行うことが災害死を減らすポイントになります。

今私が住んでいるマンションでは、世帯ごと、個人ごとに氏名、生年月日、血液型、診療履歴、かかりつけ病院と担当医、常用薬と禁忌薬、緊急時連絡先、災害時帰宅困難者に該当するか、これらを自己申告する居住者台帳という制度を採用しています。この台帳は災害時だけでなく、事件、事故、急病などの場合にも活用され、全世帯の96%がこの台帳を提出しています。これにより災害時要援護者や独り暮らしの高齢者を自主防災会が100%把握して、要援護対象者ごとに近隣の支援者も複数指名しています。過去には深夜に重病を発症した独り暮らしの高齢者が、自治会役員と救急隊の連携で救命された事例もあります。

災害発生直後に最優先でなすべきこと ~自分自身が災害で死なないこと~

これは私のマンションでも徹底して教育していることですが、「災害で、まず自分自身が死なないこと」です。災害で自分が死んでしまっては家族も守れないし、ご近所の仲間も救えなくなってしまいます。従ってまず自分自身が災害から生き延びること、これをとことん教え込んでいます。まず各自宅では住宅の耐震性能は大丈夫か、これは私のところはマンションですから大丈夫ですが、一般の戸建て住宅地域では耐震性能が低い住宅もまだまだたくさんあります。阪神大震災の時には家具・家電の下敷きになって死んだ人が大勢います。そういう意味で家具・家電の下敷きにならないか、きちんと家具の固定はされているか、自分の家が火元にならないか、地震で家屋が大きな被害を受けたとき、あるいは自分の自宅から火が出てしまったとき、脱出口は確保されているか、こういうことをきちんと各家庭でチェックする必要があります。

もし平日の昼間に首都直下地震が発生して、しかも自分自身が出先で帰宅困難者になってしまったらどうなるか、ということをイメージしてみてください。木造家屋とか旧耐震のビル、電柱とかブロック塀は倒壊の危険性が大です。高架橋も落下の恐れがあります。東京オリンピックの頃に建てられた首都高速道路なども転倒・落下する恐れがあります。古いトンネルも崩壊の恐れがあります。木造住宅密集地域は数軒から同時に火災が発生してしまうと、周辺に瞬く間に延焼してしまいます。そうすると大規模火災に発展してしまいます。首都直下地震が発生した場合に、東京都内で想定されている火災発生件数は約19万棟と言われています。しかし東京消防庁が持っているポンプ車は今673台、その他の消防車両を合わせても合計1974台しかありません。物理的に考えても消防能力の限界です。広域的な同時多発火災を鎮火できるはずはありません。そういう状況の中で、どうやって自分の命を守るかということを考える必要があるわけです。

首都直下地震の被害想定では、一番早い地下鉄の運行再開が約1週間後、JRや私鉄の運行再開は1カ月後の見通しになっています。3.11の時は東京では震度5強ぐらいの揺れが襲いましたが、結局倒壊した家はほとんどありませんでした。せいぜい停電したり、電車が動かなくなったりしたくらいです。しかし本当に首都直下地震が発生した場合には、大規模な火災が各地で同時発生してきます。避難しようと思っている道路にも、木造家屋とか旧耐震のビルなどが倒れかかっている可能性もあります。そういう意味で3.11の時とは街の様相が全く違うわけです。「それでも危険を冒して徒歩帰宅を選びますか?」ということを私は皆さんに問い掛けています。3.11の発災直後に衝動的に帰宅行動を取った人々が各地で立ち往生していましたが、3.11の時は街の中は平穏でした。しかし首都直下地震の時には街中が大混乱に陥ります。その混乱した街の中を歩いて帰るという無謀な徒歩帰宅行動は、まさに自殺行為とも言えるわけです。従って無理に帰宅せず、勤務先とか学校にとどまって、今できることに専念していくことが大事です。災害で死なないためには、命を守るために必ずやらなければいけないこと、そして死なないために絶対やってはいけないこと、これを体で覚えることが大事です。

自分の身の回りに潜む災害リスク

日本というのは狭い国土ですが大変災害リスクの高い国で、場所ごとに災害のリスクが全く違ってきます。地震、津波、高潮、液状化、地盤沈下、河川氾濫、急傾斜地の崩落、深層地盤崩壊、延焼火災、火災旋風など、地域ごとに全く異なった要素の災害が発生します。東京湾岸の軟弱地盤のエリアであれば、長周期地震動によって揺れの増幅、そして揺れの時間が長引き、液状化、地盤沈下が起こってきます。津波は遡上し、最悪の場合、石油コンビナートからの大規模火災が発生することもあります。木造住宅の密集地域であれば、延焼火災、そして火災旋風などが起こり得ます。急傾斜地や切り盛りの造成した住宅地であれば、地盤の崩落、地滑り、深層地盤崩壊が懸念されます。都心部のオフィス街でも、オフィス街特有の災害リスクが付きまといます。例えばキャスター付きの事務機は大きな揺れで暴走し始めます。現代の新しいオフィスビルは腰壁が低くて全面ガラス張りになっているものも増えてきています。こういう所ではコピー機が窓ガラスを突き破って地上に落下することもあります。高層ビルの窓ガラスが割れて地上に落下した場合は、ガラス片は無防備の頭蓋骨さえ突き破ってしまいます。そういう意味で自分の周りの災害リスクをきちんと把握できれば、危機回避の方策も準備することができます。

私が住んでいるマンションでは、住民共助の防災読本、ソフィアステーシア危機管理マニュアルという70ページほどの冊子を製作して、マンションの全家庭に常備しています。避難誘導ブロックごとに毎年開催している防災講習会では、この冊子をテキストとして活用して、内容を繰り返し、繰り返し勉強しています。この冊子には各種の自然災害の他、マンション火災や犯罪、事故、熱中症や感染症、住民が遭遇する可能性があるリスクを抽出して、危機の種別ごとに平常時の備えである危険予知をし、それと非常時の対応としての危機回避の方策について具体的に記述しています。万一、住民が突発的な危機に遭遇した場合には、いかにして被害を最小にするかということについても詳しく記述しています。危機管理を単に文字による知識として理解するだけではなくて、非常時にも混乱を起こすことなく冷静に対応できるように、具体的な危機に遭遇した場面を想定して、防災訓練などの実地演習を通じて住民の一人一人が危機管理を体で覚えることに努めています。この冊子の裏表紙には「安全と安心はなんら努力もしない人たちに天から降ってくるものではありません。安全と安心の暮らしは自ら努力して、皆で力を合わせてつかみ取るものです」と書かれています。それこそが防災の大原則です。要するに安全と安心というのは自助と共助による自己責任だということです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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