1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 企業の事業継続計画
  6. 地域コミュニティーづくりと人が死なない防災計画づくり
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.105

地域コミュニティーづくりと人が死なない防災計画づくり

放送月:2014年6月
公開月:2015年1月

安部 俊一 氏

よこすか海辺ニュータウン連合自治会長

巨大地震を引き金に災害の連鎖

地震のような災害というのは、地震だけで終わることはほとんどありません。地震に引き続いて次々に災害が連鎖的に発生していきます。次に何が起きるのか、災害の連鎖をイメージして、命を守る災害対応能力を身に付けることが大事です。

巨大地震は必ず連鎖的な二次災害、複合災害を誘発します。例えば巨大地震が発生すると、次に家屋が倒壊し、家具・家電の転倒・飛来、次に火災が発生し、周囲へ延焼していきます。火災が大規模になれば炎の竜巻である火災旋風が起きますし、地盤の弱い所では液状化、地盤沈下、地盤自体が海や川に流れ出してしまう側方流動現象も起こります。そのような軟弱地盤では、地下共同溝の破壊によるライフラインの寸断、崖崩れ、深層地盤崩壊が起こり、津波が起これば津波火災が発生します。湾岸の石油コンビナートやガスコンビナートの爆発炎上などが同時多発的、または連鎖的に発生します。一つの災害が次にどのような災害を誘発するか、平時から災害の連鎖をイメージして、自分の身の回りで次に起きる災害を予測して、被害を最小化する力を身に付けておくことが災害で死なない秘訣と言えます。

各地で防災組織が結成されていますが、防災組織のリーダー、危機管理のリーダーに必須の資質は何かということについてお話ししたいと思います。まず危機管理のリーダーに一番大事なことは、正確な情報収集力です。デマや風評に惑わされず、何が事実かを見極めること、これがリーダーが次の指示を与える上で一番大事なことです。2番目に情報の分析と判断力、次に何が起こるかを予見するための今後の展開の予測力、3番目に大事なことは大声で明確に具体的な指示命令を出す統率力です。「落ち着け」という一言が大衆のパニックを鎮めることもあります。周りの声にもぶれないリーダーシップ、これは3.11の東日本大震災の時にもありましたが、リーダーが逡巡する、判断に迷うと大川小学校の悲劇の二の舞になるわけです。血を見ただけでびびらない胆力、肝っ玉も必要です。巨大災害が発生すれば自分の身の回りにも損壊された遺体が散乱したり、重軽症者が大勢発生して、まさに阿鼻叫喚の世界が出現します。そのような状況下でも冷静さを失わない肝っ玉、これがリーダーには必要です。最後には、結果責任を背負い込む強い意志と志が必要です。「自分の判断が間違っていて、それで犠牲者が発生したらどうしようか」ということを考えて躊躇してしまうと、もっと大きな危機を招き寄せてしまいます。「この混乱の中で最適な判断を下せるのは今、自分しかいないんだ」という確信を持つ、これが危機管理のリーダーには大事な要素、資質です。こういうリーダーを地域で育てていくことが重要です。

人の命を守る防災計画

防災計画は、作ること自体が目的化してしまっているところが意外と多いです。特に自治体の地域防災計画などは立派な計画書を作って、それが書棚にはきちんと陳列されているが、住民向けにきちんと啓蒙、教宣活動がなされていない、防災計画が市民と共有されていないという事例がたくさんあります。「防災計画は作ることが目的ではなくて、作った計画で人の命を守るということが本当の目的なんだ」ということをお伝えしたいと思います。

防災計画を作る上では、まず自分が住んでいる地域、この地域にどのような災害が起こり得るのか、身の回りで想定される災害リスクを洗い出すことからスタートします。リスクの種別ごとに被害の最大値と最小値を予測します。災害による被害を最小化するための事前の備え、そしてこれをリスクの種別ごとに明確化しておきます。災害が発生したときの初動対応、応急対応、住民の役割分担も防災計画の中で明確化しておきます。大事なことは、大規模災害による避難生活は長期化することを念頭に置いて計画を立ててもらいたいと思います。事前の備えだけではなくて、避難生活の継続と復旧・復興を視野に入れた防災計画が必要です。

防災の基本は頭で覚えることではなくて、実践的な防災訓練を通じて体で覚えることだとお伝えしましたが、大災害が発生して大混乱している中では、頭で覚えた記憶はすっ飛んでしまってすぐには出てきません。しかし体で覚えていることは自然に自分の体が動き始めます。従って防災の基本は頭で覚えることではなくて体で覚えることだということを、皆さんもしっかり記憶しておいていただきたいと思います。

防災訓練というのは具体的であればあるほど体に染み込みます。しかも経験を重ねるたびに体のほうが自然に動きだすようになってきます。私の防災組織の中では、こういう実践的な訓練を何度もやっています。3.11東日本大震災の時、私自身は東京都内で被災してしまったので横須賀のマンションで陣頭指揮を執ることができなかったのですが、私たちと一緒に防災訓練をやったり防災講習をやったりしている防災組織の役員たちが体で覚え込んでいますので、その時の初動対応、応急対応も迅速適切にやってくれました。

人が死なない防災訓練の実践

防災訓練というのは具体的な災害の連鎖をイメージして実践的に行うことが重要です。一般的な地域の防災訓練では、消防署があらかじめ用意した多様な訓練メニューの中から適当にピックアップし、ランダムに組み合わせて実施している事例が多いのですが、これでは本当に災害が発生したときには、ほとんど役に立ちません。

例えば首都直下地震などの災害が発生した場合には、どのように副次的な危機が時系列で襲い掛かってくるかということをイメージしながら、訓練内容をシミュレーションしていく必要があります。私が指導している自主防災会が24年度に実施した防災訓練では、南海トラフの東海、東南海、南海地震が5分から10分間の間隔で3連動し、直後に大津波警報が発表されたという、かなり難易度の高いシミュレーションを作りました。次々に襲い掛かる複合災害からいかにして住民の命を守るか、被害を最小化するかという訓練を行いました。平成25年度の防災訓練では、首都直下地震を想定したシミュレーションを行っています。まず東京湾北部を震源とする首都直下地震が緊急地震速報も間に合わずに発生し、埋め立て地に立つマンションが震度6強の烈震に見舞われたという想定で行われました。最初の地震動で、家具の固定が不十分な3戸の住宅で家具の下敷きになって負傷者が発生し、間もなくマンションの高層階4カ所から出火したという想定で災害対策本部を設置して、防災用無線機で各班から被害状況を聞き取って、出火した住戸へ消火班を派遣するとともに救助、救護班を負傷者宅に派遣して、折り畳み式の担架に乗せて応急救護車に搬送するというものでした。班別の避難誘導リーダーが、班内の全住戸にサイレンとハンドマイクで火災発生の事実を通知して、地上への一斉避難を指示すると同時に、サブリーダーに命じて全戸の安否確認と災害時要援護者の避難支援を指示しています。訓練参加者は避難完了マグネットシールを玄関の外に掲示します。これは「この家には逃げ遅れた人はいません、全員無事に脱出しました」という合図です。そのマグネットシールを玄関先に掲出して、非常階段を使って地上に避難させます。各班の班長は班別の指定避難場所に集合して、避難者の点呼を行います。逃げ遅れがないかを確認した上で、災害対策本部に無線機で通報します。この他にも13階のバルコニーに取り残された避難者を、はしご車で救助する訓練も行いました。次に11階のバルコニーに脱出した避難者3名が避難ハッチを下ろして下層階方向に8階まで避難して、8階の住戸内を通過して非常階段で地上に避難します。実はマンションには避難ハッチというのがありますが、この避難ハッチ脱出訓練をやっているところは、ほとんど聞いたことがありません。マンションとマンションの住戸の間には小境の隔壁、間仕切り壁がありますが、これをフライパンなどで破壊して横方向に避難する訓練なども行っています。このように実際に訓練することで、避難ハッチの脱出する下方に植木鉢を置いていたりすると上から脱出できないことを、身をもって知ることができますし、マンション全員がそういう意識を持って協力することが大事です。

その他に災害用トイレの組み立て訓練や、2台あるプロパンガス発電機を使った夜間照明訓練、災害用テントの組み立て訓練なども行っています。また私のところでは、5,6年前に2台のAEDをマンション内に導入しましたが、そのAEDによる救急救命訓練も行います。このように、実際の発災時には必ず必要となる訓練を参加者に体験させるわけです。実際に大災害が発生した場合には、さらなる混乱が予想されるため、実践的な訓練を繰り返し、繰り返し行うことで体で覚えることが必要で、この体験学習でしか上達の秘訣はないものと考えています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針