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防災インタビューVol.109

市民の危機管理と住民の責務 ~地域コミュニティーを通じ、平時から備える~

放送月:2014年10月
公開月:2015年5月

中澤 幸介 氏

新建新聞社取締役 リスク管理ドットコム編集長

「防災トイレサミット2014」

災害時におけるトイレというものが、まだまだ真剣に考えられていないと思います。実際、各フロアで共同使用されているオフィスのトイレも、災害時に本当に使えるのでしょうか。マンションでも水が止まってしまえば使えなくなりますし、水をくみ上げて流しているポンプアップのタイプだと、停電したら使えなくなってしまいますし、停電していなくても揺れによって配管が壊れたり、汚物を流す管が地面との接着点などで折れてしまって、詰まりを起こすケースもあります。災害時のトイレのことをよほど考えておかないと使えなくなってしまうので、このトイレを徹底的に考えようという趣旨の「防災トイレサミット2014」を12月11日の午前午後に分けて、東京都新宿区四谷区民ホールで開催します。参加費は無料で誰でも参加できます。防災メーカーや防災の専門でトイレのことを研究している方々や、ピクニック感覚で防災トイレを実際に使ってみている企業にも発表してもらいます。

発災時にやるべきこと

発災した直後にまずやらなければいけないことは、自分の身の安全を確保することです。
地震だったら机の下に入る、火事だったら一刻も早く非常用階段などから外に逃げ出す、あるいは津波ならば高台に逃げ出す、これは誰もが分かっているようなことなのですが、実際はなかなかできていません。それはなぜなのかというと、これは「正常性バイアス」と呼ばれ、「危機が起きても自分は大丈夫だろう」「安全でいられるだろう」というバイアス、日本語にすると「偏見」がかかってしまって、危険であるにもかかわらず危険という判断ができなくなってしまうからです。「そんなことあるのか?」と思われるかもしれませんが、実際に東日本大震災の時に岩手県の海岸にある大槌町の町役場で40人ほどの職員が津波にのまれて亡くなられました。なぜこれほど多くの方が役場に居ながら、役場で被災してしまったのかについて調査が行われ、2014年3月に検証報告が発表されました。そこに書かれていたのは「津波というのは下からじわりじわりと上がってくるものだと思っていた」「周りの風景を見ていると自分は大丈夫だと思った」「誰も逃げに行かないから逃げられる雰囲気ではなかった」というようなことが、たくさんの事実の証言としてまとめられています。

過去の災害を振り返ると、こういうことは非常に多く起こっています。例えば、火災報知機が鳴っても誤作動だろうと思ってしまうような体験が皆さんにもあるかもしれませんが、1980年に栃木県の川治プリンスホテルが火災になり、45名の死者を出しました。この時には火災報知機のベルが鳴ったのですが、従業員が確認をせずに「これはテストですからご安心ください」という館内放送を流してしまったために、宿泊客や従業員が避難できなかったというケースもあります。また2003年の韓国地下鉄火災では、発生時に報知機が鳴ったのですが、地下鉄の指令センターが状況を正しく把握しておらず、誤作動と勝手に思い込んで運転中止措置をとらなかったことから、192人という多くの死者を出しました。火災だけではなく、ある調査機関のアンケートによると、2013年に非常に大きな被害をもたらした台風18号が日本列島を襲った際に、避難勧告が発令された地域の方々のうち91.9%が、行政から出された避難勧告にもかかわらず避難行動をとらなかったという結果が出ています。その理由は「山側だから大丈夫だと思った」「マンションの2階に住んでいるので大雨による冠水は心配ないと思った」「被害がなかったし、周りも変わらず過ごしていたから」というようなアンケート結果が寄せられています。これらは皆、「正常性バイアス」と言っていいものではないかと思います。最初に身の安全を確保するということは、災害対応において一番重要なことです。自分が被災してしまったら元も子もありません。人も助けられませんし、逆に自分を助けに来た方々を危険な目に遭わせてしまうかもしれません。発災時には、そういう「正常性バイアス」というものがあるということを、ぜひ皆さん記憶の中に入れていただければと思います。

「正常性バイアス」を考えるときに、一つそれを避けるヒントとなる考え方があるのですが、それは「危機管理の情報の特性」を知っていただくということです。ちょっと厳しい言い方をすると、精度が悪い情報は危機判断を鈍らせます。先ほどの火災報知機にしても、何度も何度も実験や誤作動が起きていると、本当の火事の時、おおかみ少年ではないですが、その情報を信じられなくなります。「では、どうすればいいのか」というと、もちろんメーカーや行政側が精度の高い情報を出す努力は必要なのですが、そもそも危機管理の情報というのは曖昧な情報も多いと思っていないといけないということです。ですから大げさな判断をして避難したとしても、それはいいことだと思います。精度の悪い情報でも、繰り返し繰り返し自分は対応するという癖を、どんどん皆さんつけていただければと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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