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防災インタビューVol.115

防災を文化として定着させるために

放送月:2015年4月
公開月:2015年11月

坂口 浩規 氏

㈱電通 ビジネス統括局 国内関係会社部長

文化としての定着するためのキーワード

防災と同じような社会的なテーマに「環境問題」がありますが、環境に関してはブームが起こり、現在はそれが文化になっています。この例は、防災が文化となっていくための一つのヒントになるのではないかと思っています。

環境問題の発端は、1979年に起きたオイルショックの際に、エネルギーを使いすぎてはいけないということで、「省エネ」という形で、国民に意識してほしいと当時の政府は考えました。時の首相であった大平首相が半袖のスーツを着て「省エネルック」ということでテレビに出たりしていましたが、これが逆にブームに水をかけたと笑い話にされているぐらいで、大失敗とまでは言わないまでも、省エネブームというのは結果起きませんでした。省エネルック、省エネという言葉は一時流行ったりしましたが、そんなに定着しなかったということです。

ただ、その後しばらくしてから、「エコブーム」というのが起きました。今度は省エネとは言わずに「エコ」という言葉が出てきたわけです。この「エコ」という言葉が、先ほどお話しした、韓流ブームを引き起こした「冬のソナタ」という言葉のように、一つの大きな転換となりました。これは、エコロジーとエコノミーから作られた和製英語の「エコ」という言葉の持つ力が大きかったといえると思います。これは1997年にトヨタ自動車が始めた「エコプロジェクト」が基盤にあり、この年に発売を開始したハイブリッドカー、まさにエコカーがプリウスです。プリウスに乗ることのほうがキャデラックに乗るよりかっこいいということでハリウッドセレブが、アカデミー賞の授賞式にキャデラックではなく、プリウスを横付けするシーンがテレビで紹介されて、「エコってかっこいい」ということが広がりブームになってきたということです。

このような流れでブームになった「エコ」もあるので、そう考えると防災もブームになる可能性があると思います。いまでは「エコ」と言う言葉を使わずに環境のことを語るのは難しいぐらいの定着の仕方なので、言葉の力というのはやはり大きいのではないかと思います。そういう意味でも「防災」に変わるキーワードが出てきてブームを起こせればと思います。われわれも仕事柄、「防災」に変わる言葉を開発しないといけないとは思っています。「レジリエンス」という言葉が出てきたりはしていますが、なかなか難しいです。

日本でブームが起きる場合に、なにか一つ言葉がはまればワッと広がる、というのは過去にも例があります。その一つに「クールビズ」というのもあります。「ノーネクタイ運動」と言ってもピンとこないですし、「あの人ノータイ運動しているから、ネクタイをしていないのね」と言われても、なんか格好悪いおじさんみたいな感じがしますが、「あの人クールビズなのね」と言うと違った感じがします。クールビズファッションとか、クールビズ特集とか、そういうふうにファッション雑誌の表紙を飾れるようなタイトルが、ブームを起こしたり、文化として定着するために、とても大切な役割を果たすと思います。

曖昧さが決め手のクールビズ

環境問題がなぜブームになって文化として定着したかということについて考察がありますが、それは「目的が実は曖昧だ」ということです。環境問題の解決、地球温暖化の解決、エコの解決、エコの文化などが行き着く先が何なのかということに対して、実は明確な答えというのは100人に聞いたら100人バラバラかもしれませんし、分からないという答えも多いかもしれません。つまり、環境問題、エコがブームになり、文化になって定着したのですが、実はその目的が曖昧なことで、生活者の方々が文化を共有化できる余裕というか遊びがあったために、逆に環境、エコが定着したのではないかという見方もできるわけです。地球温暖化というのは深刻なようでいて、実は深刻ではないわけです。地球温暖化が原因で、自然災害のように毎年たくさん人が死んでいるかというと、そうではないわけです。「地球温暖化を防ぐために私はクールビズをやっています」とか、「エコに配慮してエコカーを持っています」とか、そういうことなのです。

一方防災に関していうと、自然災害によって残念ながらわが国を含めて世界中で毎年数多くの方が命を落としています。防災をする目的も「自然災害で死なないこと」と非常に明確です。このように現実的で目的も明確なために、文化となるための曖昧な部分がないわけです。曖昧な部分を残したほうがより定着しやすいという観点からいくと、防災はなかなかブームや文化にはなりにくいのではないかということが専門家の分析の中では出ています。

ランキング、格付けで防災を語る

防災はなかなかブームになりづらいというお話をしましたが、「防災について話題にしやすくする」ためのヒントになると思っていることがあります。

日本人というのは、特にランキングや格付けが大好きです。例えばミシュランの三ツ星の店があると行ってみよう思いますし、ラーメン店にしても行列ができる所にわざわざ行ってしまうというように、皆がもともと持って共有化している価値観というのがあるわけです。その価値観をうまく利用して、その価値観の上に乗った形で、防災について皆が話題にしやすくすることで、防災を普通に語る文化ができてくるのではないかと思います。あえて、全く新しい形で防災を始めたり、防災に代わる言葉を開発したりすることも大切ですが、もともとわれわれが持っている文化である格付けや、人気のあるものが好きというものをベースにして、防災を定着させていくというやり方もあるのではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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