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防災インタビューVol.129

健康で、幸せであるために ~魅力増進型防災のすすめ~

放送月:2016年6月
公開月:2017年1月

鍵屋 一 氏

跡見学園女子大学 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

熊本で被害が増大した5つの理由

今回の熊本地震では、益城町が大変な被害を受けました。なぜこれほどの大被害になってしまったのかというお話をしたいと思います。熊本県の益城町の人口は約34000人です。町内に約10000強の建物があるのですが、そのうち約5300戸が全壊、半壊、一部損壊という住宅被害を受けてしまったわけです。東京で例えば半分の建物が壊れた状況をちょっと想像してみてください。しかも余震がものすごいので、丈夫な建物にいてもとても怖いのですが、壊れた建物の中にいると、本当に命の危険を感じるような、そういう怖さの中にあります。そこでその人たちはどうするかというと、安全な場所に移らなければいけませんので、避難所に行こうとします。しかし、これほどの大地震なので、避難所自体も壊れてしまって、なかなか入ることができないという問題が起こっています。

なぜこれほど建物が壊れたのかというと、5つほど大きな原因があります。1つは4月14日に震度7、そして4月16日に震度7という2回の震度7の地震が起こりました。これは観測史上初めてのことです。立て続けに震度7の地震が来ましたので、1回目の地震で耐えていた建物も2回目で倒れてしまうという例が非常に多かったと聞いています。2つ目としては、地震波の周期の問題です。建物というのは地震の波によってある程度壊れやすい波と壊れにくい波があります。2階建ての建物というのは、大体周期が1秒から2秒の地震波によって壊されやすいとされていますが、今回この地震波が多く出ているために、住宅被害を大きくしました。3つ目として、熊本というのは、水害が多い地域でもあり、台風が非常に多い所でもありますので、台風から家を守るために屋根瓦を重くしています。この重い屋根瓦が地震で揺さぶられると建物を壊す方向に作用するわけです。4つ目は、土地の問題です。熊本は、阿蘇山という非常に大きな山のある所で出来ている土地ですので、土壌は火山灰です。そうすると粘土質に比べると非常に地盤が弱いということになります。この地盤が弱い所に大きな地震が来たわけですね。それから5つ目ですが、新耐震と言われる新しい建物も結構壊れていました。これをよく調べてみると、熊本県は地震が少ないということで、耐震基準が0.8でよいということになっていて、なぜか低く設定されていました。この0.8の基準で建てた建物に、震度7が2回連続して起こったために、大きな被害が出てしまいました。

このようなことを振り返ってみると、地震対策としては何と言っても建物の耐震化が最重要だということを今回改めて気付かせてくれたのではないかと思います。東京にも古い木造住宅がたくさんあります。同じような状況になりますと、木造住宅が倒れ、益城町でも観測されましたが、火災が発生するわけです。その火災が発生したときに建物が倒れて、例えば消防自動車が行けないということになりますと大火事になってしまう可能性があります。建物が大きく倒れることによって大火事が発生し、丈夫な建物に住んでいた人も逃げ出さざるを得ないということになります。それが東京のようなものすごい大都市で、多くの人が逃げ出すということになってしまうと、これはもう想像を絶する災害になる可能性があります。

賃貸住宅の耐震性のチェック

今は基本的に耐震診断、耐震補強に対して、行政が持ち家を持っている人を対象に、補助金を出しています。この補助金というのは、持ち家が1981年6月より前、新しい耐震基準になる前の建物の場合は耐震診断をしてください、そして診断結果が悪かったら補助金を出しますので工事をしてくださいという対策です。

この制度によるとお金のある持ち家の人しか対象ではないわけです。問題は東京では6割ぐらいの人が賃貸住宅に住んでいます。賃貸住宅については、耐震性がどのくらいあるのか公表されていません。アパートやマンションの広告を見ていただけるとお分かりになるかと思いますが、書かれているのは、駅から何分、広さと家賃、それからガス水道電気が付いているかどうかです。当たり前ですが、駅から遠いと閑静な住宅街という表記をし、駅から近いと利便性良しと、良いことだけ書いて売っているわけですが、それは生活の利便に関わる情報です。耐震性というのは命を守る情報です。その命を守る情報が広告に全く掲載されていないというのは、非常におかしいことだと思います。

私たちは、これまで賃貸住宅の耐震性を公表すべきだということで運動を続けてきたのですが、その結果、ちょっと変わりました。建物が耐震診断をした場合には、診断の結果はどうだったのか、その後の補強をしたのかということを重要事項説明という形で建物の取引をする時には言わなければならないというふうに変わりました。そうなると明らかに耐震性のない古いアパートなどは、耐震診断さえしなくなってしまいます。古いマンションも耐震診断をするとその結果を重要事項説明で言わなければなりませんので、値段が下がる可能性があるということになり、古いマンションも耐震診断をしないという逆の効果を生んでいまして、これは非常に問題です。そこで、耐震診断を必ず義務付けて、その結果をアパートのチラシであるとか広告であるとか、あるいはマンションの取引をする際には必ず言わなければいけないというふうに方法を変える必要があります。そうしなければ耐震性を知らずに若い人たちがアパートに入って亡くなるリスクがあるわけです。かつて私は、400人のアパートに住んでいる大学生にアンケートを取ったことがあります。その時に「そのアパートを選ぶ基準に耐震性はありますか? 地震に強いということを考えてアパートを選びましたか?」という質問をしたのですが、答えた人で耐震性を考えたという学生さんは何人いたと思います? 結果はゼロでした。

阪神淡路大震災では20代前半の大学生や若いサラリーマンが多く亡くなっているのですが、それはほとんどが古いアパートの1階に住んでいて潰れて亡くなりました。今回の熊本地震でも南阿蘇村で大学生がアパートの1階に住んでいて、そして残念なことに亡くなってしまっています。そういうことを考えると、若い人の命を守るためにも耐震診断をし、そして耐震性のあるアパートと安全なアパートというものをきちんと分かってもらえるようにしなければいけないと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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