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防災インタビューVol.129

健康で、幸せであるために ~魅力増進型防災のすすめ~

放送月:2016年6月
公開月:2017年1月

鍵屋 一 氏

跡見学園女子大学 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「魅力増進型防災」のすすめ

今まで防災がいかに重要かということを話してきましたけれども、こういう防災の対策というのは災害が来なければ無駄に終わるわけです。多くの方が東日本大震災後、食糧の備蓄、水の備蓄などをされたと思いますが、もう5年を超えていますから賞味期限が過ぎて、次のものに替えようかなと思っている時期かと思います。防災のための備品というものは、災害が来なかったらそれらは捨てられる運命になり、非常にもったいないです。そうすると、どうしても本気で防災をやろうということになかなか結び付きません。そこで防災と日常の生活向上を一緒にしよう、日常生活をもっと魅力あるものにして、その中に防災の種を仕込んでおこうというふうに考えたのが「魅力増進型防災」というものです。

これは気仙沼市で聞かせていただいたのですが、東日本大震災の時に大被害を受けた気仙沼市ですが、実は魚市場を高い建物にして、屋上を公園と駐車場にしていました。ここはとてもきれいな公園で、パティオなどもありまして、海がとてもきれいで、ここでゆっくりしていたいなと思うような場所です。ここは普段から市民が公園として親子連れで遊びに来たり、駐車場として利用して使ってきました。それに加えて、津波が発生した時には津波避難ビルになり、「その屋上に逃げれば津波から助かるよ」ということもPRしていました。普段使う所をとても使いやすい場所にして、しかも災害に強い場所にしたということで、実際に東日本大震災では、このビルに1000人以上の人が逃げ込んで命を守っています。

こういった災害の時に役に立つものを、実際に普段の生活でもとても使いやすく作っておくというのが、一番良い例だと思います。もうひとつ、気仙沼市に行った時に見たのですが、この街にはほとんどブロック塀がありません。これは以前、宮城県で大きな地震があった時にブロック塀が倒れて多くの方が亡くなったという悲しい事例がありましたので、恐らくそれが効いているのだろうということです。特にブロック塀をやめろという指導はしていないそうですが、ほとんどの住宅で生垣にしたり、簡易な木造の塀にしたりしながらも、プライバシーを守っています。それと同時に塀が低いので隣近所の人たちの話がうまく進みやすいのです。また、子どもたちがその塀の中をスルスルすり抜けながら遊んでいますが、このような光景は都会ではなかなか見られません。ブロック塀だとなかなか通っていくことができませんが、生垣や木の塀ならば、ササッと乗り越えながら子どもたち同士で遊ぶことができます。そういう姿を見ると、ブロック塀がないということがコミュニティづくりにも役立っていて、生垣にすることで緑を増やして景観も良くするといった日常の魅力増進と一緒につながっていることに感心しました。この他にも、神社に上がる道に手すりが付いています。手すりがなくても上がれそうなところですが、手すりがあることによって高齢者の方々がそれにつかまって避難できるわけです。普段その神社にお参りしやすくする手すりが、災害時にもよく目立つ黄色に塗ってあります。その手すりにつかまりながら、神社に行って助かったという人もいます。こういった意味では、日常の生活の魅力を高めることと防災というのは、かなり両立することだと思います。そういった対策をこれから考えていくことによって、防災が自然に身近なものになっていくのではないかと思っています。

健康で、幸せであるために

ハーバード成人発達研究所では、「人を健康で幸せにするものってなんだろう」ということを研究しています。ここでは、ハーバード大学の学生さんとボストンの貧しい階級の人たち、両方とも20歳の人たちを724人、75年にわたって追跡調査をしています。アメリカという国はそういうところで、すごいデータを取り続ける国です。その結果、人を健康で幸せにするものが何となく見えてきたと言っています。それは、コミュニティ。人と人のつながりです。人を健康で幸せにするものは、良い人間関係に尽きるということです。

ただ、成人発達研究所のリーダー、ロバート・ウォールディンガーさんは「良い人間関係をつくるのは非常に退屈でそして難しい仕事だ」と言っています。一人でいろいろこもってテレビを見たり、一人でやることをやっていれば気が楽なわけです。ところがそういうふうに孤独になると病気になりやすく、それから精神面も病みやすいと言っています。その言葉で言うと、「孤独は悪だ」ということです。私たちが良い人間関係をつくっていくことをこれからの人生の柱にするというのが良いことだと言っています。

これは平常時もそうですが、災害時にはまして大事なことです。災害時には、お金があっても物が買えない時期が来ますし、仕事があっても働けないこともあります。しかし人と人の間で良い人間関係があれば、その人たちの話し合いをすることによって、心の安らぎを得たり、あるいはものを貸し借りしたり、そういうことによって安全と安心が守られます。東日本大震災の後で、「絆」ということが非常に注目されました。やはり人と人のつながりというものが災害時の安心安全をもたらしますが、それは平常時の健康で幸福な生活をもたらすということにもなるわけです。日常から人と人のつながりを良くしようという努力を、特に家族、あるいは近くにいる人たちと築いていくことが非常に重要です。

特にリタイアした人たちは、仕事仲間ではなく、近所、あるいは趣味の仲間といった新しい仲間をつくったほうがいいとも言っています。リタイアするということは、つまり人生を2度生きることであり、2度目は別のメンバーと一緒にまた過ごしていくことが大事なんだということです。ただ、知り合いでない人と積極的に声を掛け合いながら良い人間関係をつくっていくのは、ちょっと日本人にとっては、恥ずかしかったり、なかなか難しいことかもしれません。

しかし、これが、やはり日常を健康で幸福なものにしていく鍵であるということですので、もしそういうことが最初から分かっていたら、私たちはどんな人生を歩いていたかなという気になりますね。普段からこういった形で人と人のつながりを良くし、そして魅力増進型防災で日常生活も過ごしやすく楽しくしていくことが、一方で災害時には安全と安心をもたらすことになります。それを心掛けていくことが、これからは大事だと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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