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防災インタビューVol.130

大地震への備え ~熊本地震からの考察~

放送月:2016年7月
公開月:2017年2月

国崎 信江 氏

危機管理教育研究所代表

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

被災後の生活をイメージして対策を

このように、大規模マンションを指定避難所として指定するためには、やはり事前に行政との協議が必要です。現在は、帰宅困難者の受け入れや津波避難ビルとして行政との協定を結んでいるマンションもあります。外の人が避難所に物を取りに行くことを首都圏のマンション居住者がやった場合、避難所に大勢の人が移動をして、渋滞を引き起こしたり、救助や応急復旧活動などの支援活動の妨げになってしまう恐れもあります。これを防止するためにもマンション自体を避難所として位置付け、それを明確にして、必要な支援や助成制度を設け、マンションでは避難所運営組織やマニュアルを作成し、訓練の実施などの準備をやっていく必要があろうかと思います。

東京や関東周辺は人口も多いですし、マンションを災害時に有効に利用していかないと、大混乱になってしまうと思います。被災生活は長期にわたりますので、数日ならお風呂も我慢できますが、数カ月になるとそうはいきません。ガスが遮断して給湯ができずに近くの銭湯にも行けないとなると、自衛隊が設置してくれるお風呂に入りに行くことになります。今回の熊本地震もそうですが、お風呂を利用する時間というのは決まっています。例えば益城町ですと、15時から22時ですが、決まった時間にお風呂に入りに来るために1時間歩いて、1時間お風呂のために並んで、5分だけ入って、また1時間かけて戻るという方もたくさんいました。お風呂に入るために、決まった時間に大移動して、その間に時間がかぶって、夕食ももらい損ねてしまったというようなトラブルにもつながる事態も考えられます。また、お風呂は男女が別に設置されているので、当然のことながら女性のお風呂のほうが特に長い列になります。家族みんなで来ても、男性のほうが早く出てきて待たされるということもあって、こういった負担を考えてみても、やはりマンション居住者、特に大規模マンションで世帯数が多い場合には、マンション居住者専用の仮設のお風呂の設置も必要になると思います。

最近では、熊本地震のニュースは日に日に少なくなってきていますが、戸建てであってもマンションであっても、熊本地震で被災された方の生活をしっかりと見て、今どんな状況なのかというのを気にしていただきたいと思います。先ほど言ったように、被災したら自分の生活はどうなるのか、お風呂は、食事は、トイレは、というように自分たちの住んでいる地域特性を踏まえながらイメージを持って、事前に対策を取っていただきたいと思います。

高齢社会と災害について

熊本地震の際には、東日本大震災から5年の間に高齢化が一層進んだなと思えるぐらい、避難所には多くの高齢者の方がいました。特に後期高齢者です。足腰が不自由な年齢の方々も含めて、日中はそういった方々が避難所にいて、若い方々は働きに行ったり、後片付けに行ったり、買い物に行ったりということで留守にしていて、高齢者の方ばかりが日中に避難所にいることが多かったという印象があります。今回、福祉避難所の体制が整うのに時間がかかったということもあって、いざ福祉避難所が出来て、支援を必要とする方を福祉避難所に案内しても、「家族全員が入れないならいいよ」とか「今の避難所に慣れたから今更動きたくない」という方もいて、なかなか福祉避難所に入らなかったということもありました。それで、一般の避難所に高齢者の方が多いという印象につながったのかもしれないのですが、もしそういった方々も含めて、全て福祉避難所に入ったとしたら、実は入りきらなかったのかもしれないという問題もあるような気がします。

首都直下地震について考えてみても、いつ来るか分からないと言っている間に、わが国の高齢化率は一層上がっていくのではないかと思います。つまり今後の震災では、足腰の不自由な支援を必要とする高齢者の数に対して、支える若い世代の人数が少なくなるのではないかと思います。いわば年金問題のような状況が避難所でも起こりうると思っています。現状の防災対策は、どちらかというと、災害時要配慮者の方が少ないという前提で考えられているような気がしますが、今後の地震ではその前提が覆されて、一般の避難所よりも福祉避難所のほうがニーズが高く、福祉避難所の数が足りないという事態になるかもしれません。

日本では、介護職の労働の過酷さから、介護士のなり手が減少しているという問題があり、その施策として、外国の方の研修制度を設けたり、介護用ロボットの開発に力を入れて、マンパワーによる不足を解消しようとしています。日ごろから、人が足りないという問題がある中で、災害時に福祉避難所に派遣できる介護士をどれだけ確保できるのかという問題もあります。福祉避難所に指定されている施設の方々も、もともと入居している方々の対応に日ごろ追われている中で、災害時に入って来た避難者の方々の支援も同時に行うのはかなり厳しい状況です。応援の職員の方が来るまで、休みなしの体制で働くことになるわけです。私が実際に対応した件で話をしますと、福祉施設には車椅子のまま入れる機械浴がありましたが、入浴させてあげるためには、その機械浴の扱いを知る人と入浴の補助をしてくれる人が必要でした。実際には、人が確保できないために目の前にお風呂があるのに2週間以上もお風呂に入れてあげることができず、床ずれの発症や悪化がとても心配で、私自身も胃の痛む思いをしました。このように、災害時に新たな人員の派遣を要請してもなかなか集められないという現実を実感しました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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