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防災インタビューVol.150

想像力を生かした「防災」のための教育

放送月:2018年3月
公開月:2018年9月

岩田 孝仁 氏

静岡大学 教授 
防災総合センター長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「想定外」という言葉を使わない

「想定外」という言葉を最近よく耳にします。皆さん非常に安易に「想定外」という言葉を使われるのですが、私はこの言葉が嫌いです。例えばこの前、草津白根で噴火がありましたが、あの時に火山の専門家の方も「想定外」という言葉を使われました。確かに観測の対象としているエリア外で起きてしまったということで、「想定外」という言葉を使われたのでしょうが、私はあまり安易に「想定外」という言葉を使うべきではないと思っています。
東日本大震災の直後にも「想定外」という言葉をいろいろな方が使いました。福島の第一原子力発電所がメルトダウンに至る大事故が起こった際にも、原子力の専門家や電力関係の方が「想定外」という言葉を何度も使われました。これに対して、ノンフィクション作家の柳田邦男さんが、「これは想定外というのではなくて、もともと専門家の想像力の欠如なのではないか。想像力の欠如というものが想定外のわなを生んだんだ」ということを鋭く指摘されています。特に柳田さんが主張されていたのは、あの事故で言うと、原子力の専門家の方々の想像力の欠如が原因で「想定外」という言葉を安易に使うようになってしまったということで、それをマスメディアも取り上げて一緒になって「想定外」という言葉を使いました。専門家だけではなく、われわれ一般市民も想像力がどんどん低下してきていることが、市民レベルでも「想定外」という言葉をよく使うようになってしまった原因ではないかと思っています。
いろいろな所で知恵を出していけば、いろいろなことが想像できたはずですし、決して全てが「想定外」という言葉で片付けられるものではないと私は思っています。特に現代社会においては、自然環境、例えば自然の地形などが人工的に開発されていくと、昔どのような環境だったかということがなかなか簡単には分からなくなっています。特に大都市、都市部に行くと人工的にいろいろなものが造られてくるので、そういった中で確かにどんなリスクが自分たちの身の回りに潜んでいるのか、なかなか想像できない環境にありますが、資料などを調査すれば、簡単にいろいろなものが分かります。よく私が学生に話をするのは、例えば、今の地形図ではなく、昔の地形図、例えば明治とか大正時代の地形図を見れば分かることがあるということです。昔公開した絵などからも、そういったことがそんなに難しくなく理解できます。きちんと知恵を働かせれば、今の災害のリスクは想像できるはずです。そういったものを積み重ねていけば、「想定外」という言葉はそんなに簡単に使う必要がなくなるのではないかと、思っています。
1854年に安政東海地震というマグニチュード8クラスの巨大な地震が、駿河トラフから南海トラフにかけて起こりました。その当時は津波警報も何もなく、地震の後いきなり10数分で津波が来ています。今も下田の港には人がたくさん住んでいますけれど、当時もちょうど幕府がアメリカとかロシアに対して日本を開くか開かないかという交渉をしていて、その窓口が下田の港でしたので、たくさん人が住んでいました。そこにいきなり津波が来たのに、犠牲者をそんなには出しませんでした。人口3,851人の中で犠牲者は99人、犠牲率が2.6%ぐらいでした。何も情報がない中で、各自が危険を察知して、素直に逃げていたのです。こういう社会が今はだんだんなくなってきています。
東日本大震災で、実はあれだけ情報がたくさん出ていたにもかかわらず、犠牲者をたくさん出してしまったということも、実は、現代社会が自然に対して想像力をうまく働かせることがどんどん少なくなってきているのが原因で、これは非常に大きな問題ではないかと考えています。

「想像力」をたくましくするための教育

災害の犠牲者を減らすためには、「想像力をたくましくする」ということが非常に重要な要素です。そのためにどうすればいいかということで、「防災教育をすればいい」とよく言われるのですが、そう簡単ではありません。例えば情報というのは世の中にいっぱい出ているわけですが、それをきちんと読み解く力というのを育てていかないとなかなか防災につながってはいきません。
今、私は静岡大学の防災総合センターで、社会人の防災教育と学生の防災教育の2つをやっています。社会人の場合は、県や市町村、民間企業など、いろいろな所で防災に携わっていて、さらにもうワンランクスキルアップをして、いろいろなスキルを身に付けた形でもう一回それを反映しようという人たちに対して、「防災フェロー」という資格を与えるための教育をやっています。もう一つは大学生向けの防災教育をしていますが、大学のメリットは、学生がたくさんいることです。学生たちは、これから社会に出て行って、すぐには防災の戦力にはならないかもしれませんが、社会の中で防災に対して少しでも力を発揮できる要素が非常に多くあります。特に静岡大学には教育学部があり、卒業するとほとんどが教員になります。教員1年生では何もできないかもしれないけれど、それが3年4年、スキルを積んでいくと、その中で子どもたちに何を教えるかということが見えてくるわけです。そこで、防災の一定の単位を取った人たちに対して、「防災マイスター」という称号を与えて、社会に出て子どもたちの教育をする時に、防災の教育も自分たちが主体的になってやれるような要素を作ろうということを考えています。そういったことを進めていけば、彼らは10年もすると子どもたちを教育できますし、20年もするとその子どもたちが大人になって社会に出ていきます。そういったサイクルをずっと回していくと、防災に無関心な人たちを最終的にゼロにできるのではないかという、そんな思いがあります。
「想定外」の事態をなくすために、想像力をたくましく持つことを勧めていきたいと思っています。そのためにはいろいろな情報を吸収して、きちんとそれを自分自身のスキルにしていくことが必要です。その力をつけるという意味では、やはり防災に関心を持って、いろいろな情報を読み解く力を持った人たちを社会にどんどん広めていくということが必要で、そのための1つの方策は教育です。しかしながら、教育だけでは駄目で、それをやれる人たちを育てていくことが重要ですので、今、そういうことも手掛けているところです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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