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防災インタビューVol.154

『知ること』から始める防災

放送月:2018年7月
公開月:2019年1月

中村 清美 氏

国土防災技術株式会社
課長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

災害を疑似体験 ~避難行動訓練イーバック~

社内で同じような問題意識を持っていた人たち3人で、「住民の防災意識を高めるための教材を作ろう」ということになり、以前私がNGOで開発教育の活動をした際に、参加型のワークショップ形式でやっていた手法を取り入れた、ロールプレイの教材を作りました。これは、自分とは違う人になってみて、災害のシミュレーションを疑似体験していくもので、実際に災害で被災していなくても、被災した気分になって考えることができます。

この教材が「避難行動訓練イーバック」です。EVAGは、Evacuation Activity Gameの略称でイーバックと言います。

どういう仕立てになっているかというと、ワークショップ教材で、まず参加する人たちにEVAGタウンの住民になっていただきます。コミュニティを想定していますので、高齢者から子どもまでいろいろな住民がいて、たまたま研究とか研修とかで来ている外国人などもいて、皆さんにはいろいろな人になってもらい、豪雨災害を体験するというものです。このワークショップでは、雨がどんどんひどくなってきて、土砂災害、洪水災害が起きるということを疑似体験してもらいます。住民の方にはその時いろいろな事情を抱えていただいて、例えば妊娠して早産の危険があるので会社を休んで今家で静養している妊婦さん、たまたま娘がその時インフルエンザにかかっているというお母さん、転んで右腕を骨折している子どもやバイク事故で松葉杖を使っている大学生など、いろいろな住民になっていただきます。それで、高齢者の方が小学生の女の子の役をしなければいけなかったり、男性が女性の妊婦さんの役をしなければいけなかったり、外国人の役をやらなければいけなかったりしますが、この架空のまちEVAGタウンの住民になっていただきながら、だんだん災害が起こる危険性が高まっていく中で、どのタイミングでどうやって避難するか、ゲーム感覚で参加していただきます。その後、適切なタイミングで避難できたのか、できなかったとすればそれはどこに原因があったのか、どうすれば適切なタイミングで避難できたんだろうかということを、振り返りの中で皆さんで意見交換をしていきながら明らかにしていってもらいます。またその課題に対して「どういう解決策があるだろうか」ということを、自助と共助、公助の観点からディスカッションしてもらいます。

実際ロールプレイで、その人になりきるというのは難しいです。特に先ほど言った、早産の危険性があって自宅で寝ている妊婦さんの役を男性がやると、いきなり避難所に行ってしまいますが、振り返りの時に同じグループになった女性から「そんなの行けるわけがないでしょ」と言われて、「そうなのか」ということに気が付きます。このゲームでは、実際にいろいろな事情を抱えた人をどうするべきなのかを考えると、家族でもなかなか厳しいものがあります。そのような状況で、ご近所同士でそういう配慮が必要な人をどうやって避難所に連れて行くのか、支援するのかということを考えてもらう教材になっています。

災害時において自助は当然のことですが、この教材では、「この部分においては、共助と自助がないとできないよね」とか、「公助だけじゃなくて共助もないとこれはちゃんと動かないよね」ということを振り返りの中で考えていただくよい機会になっています。実際にロールプレイをしながらシミュレーションすると、「逃げたいのになかなか逃げられない」という苦しみを皆さん味わわれているようで、振り返りの時には「どんなに自分がつらい体験をしたか」を話したがり、聞いてもらいたいという気分になられるようです。災害が起きたときに、いったいどういう悩みを抱えて、どういう問題が起きるのかを実感しながらロールプレイをすることで、災害を自分自身のこととして考えられるようになります。災害時、避難勧告や避難指示が出たといっても、なかなか人は逃げられるものではないし、まして家族がバラバラなときに災害が起こった場合は、さらに難しくなってきますが、ロールプレイをすると「逃げたいのに、逃げられない」という相当なストレスを抱え、それに対する解決策を考えることにも非常に熱が入ります。また、最近の都市部の学生はコミュニティそのものが実感できていないので、このゲームを通して、いろいろな住民について考えることで、コミュニティの多様性も別の側面から学ぶことができ、非常に役に立っているようです。

災害に備えるための教材として、割と自助を強化するような教材はたくさんあるのですが、EVAG自体は、自助も強化しなければいけないけれども、共助の大切さに気付くことができます。そして、共助がうまく成熟していかないと公助でいくらどんなに良いガイドラインや仕組みを作ったとしても、災害時には動いていかないということを皆さん実感されると思います。自助というのはまず自分で備えをする、自分の命は自分で守るということで、共助というのは、広く言えばいろんな人たちが助け合って、災害対応を行うということです。ご近所同士はもちろん、NPOや企業も含めて、いろいろな人たちが災害時に連携をしながら対応するということです。公助というのは公的な機関が防災対応をやるというものです。共助が成熟していくためには、まず自助が確立しないといけません。自助が確立して、共助が成熟すると公助がうまく回っていき、公助が小さくなって本当に機能的になるはずです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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