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防災インタビューVol.155

「災害に備え、災害を生き抜き、日常に戻るために」

放送月:2018年8月
公開月:2019年2月

鍵屋 一 氏

跡見学園女子大学
観光コミュニティ学部
教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「正常化の偏見」に負けないために

「正常化の偏見」があるために、人は逃げ遅れてしまいます。この「正常化の偏見」を教育によって克服した例があります。これは豪雨災害に対してではありませんが、東日本大震災の際の津波に対して功を奏しました。釜石東中学校では、生徒たちは「正常化の偏見」に負けないための訓練をたくさんやってきていました。彼らは雨が降ろうが、真夜中だろうが、大雪だろうが、地震が来たら率先して避難をして、その姿を見た多くの人たちも避難するだろうということを目指す、「率先避難」を勉強していました。
人間というのは自分で判断して安全性な方向に動くというよりも、人が動くのを見て、人と同じ行動をすることで安心感を得ようとするものです。ちょっと難しい言葉ですが、これを「同調性のバイアス」と言います。簡単に言えば、「人と同じ行動をすると安心だ」ということですので、中学生が地震の後に、「津波が来るぞ、逃げるぞ」と声を掛けて逃げると、その姿を見て多くの人がついてくるということなんです。これは大人たちには効果がありますが、子どもたちがついてくるかどうか分かりませんでした。そこで、釜石東中学校の横にある鵜住居小学校の子どもたちと一緒に防災訓練をしようということになりました。実際に避難訓練をしてみて、安全な場所に行くのに大体30分ぐらいかかりました。その後、学校に戻ってきて、津波は何分位で来るのかを調べてみたら、なんと30分後ぐらいに来ることが分かりました。これでは津波にのみ込まれてしまうということで、もう一度訓練をさせてくれと願い出て、もう一度逃げました。すると次は10分で逃げることができました。
そして、東日本大震災が起こった3月11日のその日にも、地震が来た時に、釜石東中学校の子どもたちは鵜住居小学校の子どもたちと一緒に手をつないで逃げて、命を守り切りました。
防災にとっては、「正常化の偏見」に負けないで、教育によって正しい行動をとるということがとても大事です。逃げるというのはあまりカッコいいこととは思われていないのですが、以前にテレビドラマでも有名になった「逃げるは恥だが役に立つ」、いわゆる「逃げ恥」というのがありましたが、逃げることは恥ではなくて、しかも役に立つというのが防災上では大切です。昔の中国のことわざに、「君子危うきに近寄らず」というのがあるように、危ないと思ったらまず逃げておくのが万全、安全だということをこれから考える必要があると思います。特に自治体が「避難準備・高齢者等避難開始」あるいは「避難勧告」あるいは「避難指示(緊急)」というものを出したときは、本当に科学的な根拠に基づいて「危ない」と言っているわけですから、自分の思い込み、「正常化の偏見」で逃げ遅れるということがないように、特に注意していただければと思います。逃げさえすれば命は守れるので、まず逃げることを大切にしていただき、日常と災害は、モードが変わりますので、災害時は危険な所には一切近づかないというふうに考えてください。

高齢者の避難の難しさ

2017年7月に秋田県の雄物川という、秋田県で一番大きな河川が氾濫したのですが、その時には、住民も福祉施設の方々も、全て事前に避難をして人的被害がゼロでした。私は実は秋田県出身で、秋田弁も分かるので、その方々からヒアリングをしてきました。
福祉施設の方々は、認知症の高齢者の避難については、移動すること自体にも危険が伴いますし、避難先での支援も大変なので、本当ならば施設に留まっていたい、逃げたくないと考えていました。しかしながら、以前に、岩手県岩泉町のグループホームで高齢者9人が全員亡くなるという大変悲劇的な災害があったので、秋田の方々はそういうふうにならないように、いざとなったらやはり逃げようということで、そのための避難計画を作り、事前に訓練を行い、実際に避難所となる所に逃げてみるという準備も何度かしていたそうです。
そして、2017年7月に大雨が降った際も、大雨が降ってはいるものの、やはり避難するのは困難が伴うので、まずは、避難するかどうかは分からないけれども、とりあえず避難先で必要になるものを全部車に積み込んでおこうということで、積み込んでおいたそうです。3つの施設でヒアリングをさせていただいたのですが、3つの施設とも避難前に既に準備は完了しており、後は実際に避難するかどうかを決めるだけという状態で待っていました。1つの施設では、トイレがゴボゴボゴボっと逆流する音が聞こえたので、「これはいかんな」ということで避難を始めました。もうひとつの所は行政から「避難勧告」が出たので、「これは逃げなければいけない」ということで逃げ始めました。ところが予定と違っていて、3つのうち2つの施設は事前に決めていた避難所ではない所に行かざるを得ませんでした。ひとつは、夏休みの期間中で、学校が改修工事をしていて使えなかったり、もうひとつは、前々からその施設は使いづらいために、近くの施設に避難所を変えるように市と協議中だったというような事情があったそうです。場所の変更を余儀なくされ、決められたルートを通って避難したわけではなく、その場その場のとっさの判断で別の避難所への避難になりましたが、命を守り切りました。その避難は本当に大変だったそうです。特にストレッチャーで運ばなければならない人が5人いたため、1人ずつ運んで5往復しなければならず、訓練している時はそこまでは考えていなかったけれども、実際には、5往復して避難したということでした。また、通常だと、介護用ベッドで上半身は起き上がって、1人がついて食事の介助をするのですが、体育館で寝たきりだと、上半身を起こすために1人が支えて、もう1人が食事の世話をするということで、とても大変だったということをお聞きしました。このようなこともありますので、実際の高齢者の避難については、特に事前にきちんと準備をしておく必要があるかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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