トイレは情報発信の大事なスペース
避難所には支援物資がいろいろ届きますが、生理用品やタンポン、あるいは大人用のおむつなどを一括管理にして、必要な人がいちいち取りに行く形にしてしまうと、恥ずかしくてなかなか取りに行けない方も多いですし、一日何回も「生理用品をください」とか、「大人用のおむつが必要なので替えが欲しい」ということを自分で何回も言いにくい部分もあります。また、ジェンダーが自分と違う方が担当者だった場合には、特に言いにくいということもあります。その際に、置いてある場所に取りに行くのではなく、トイレの中に生理用品やおむつを設置しておくようにするというような配慮をするだけで、必要な人に必要な物資を届けることができます。また、災害時には、ドメスティックバイオレンスなどが残念ながら起きてしまったり、電気もない中で性暴力に巻き込まれてしまうこともあります。なかなかこういう問題は表面に出てきにくいところではあるのですが、実際に被災地では起こりやすい問題でもあると思います。しかしながら、避難所の壁に堂々とドメスティックバイオレンスや性被害の相談ダイヤルのポスターを貼っても、それを見ながら電話することは、なかなか難しいと思いますので、トイレの個室の中などに相談ダイヤルや緊急ダイヤルのカードを入れておけば、それを持って帰って自分一人の時に相談の電話をしてみることもできます。やはりトイレというのは排泄の場ということだけではなくて、いろいろなコミュニケーションや配慮の場として使える貴重な場所であると思います。
さりげなく、しっかりサポート
避難所ではトイレ自体が外に設置されていて、仮設トイレの周りにライトがあまり設置されていないという場合もよくあります。夜中トイレに行きたいときに一人で少し離れたトイレに真っ暗な状況で行くと、そこでトラブルに巻き込まれてしまう場合もあるので、例えばライトを持ち歩くとか、あるいは避難所でトイレがちょっと離れてしまう場合には、きちんとライトを設置しておくとか、そういった配慮をするだけでそのようなトラブルや被害も減少できますし、それによって人の尊厳が守れるのだというイメージを持っていただくことが重要かと思います。
これまでの災害で何回か女性をターゲットにした支援活動をしてきたことがあるのですが、その中で「女性向けのキット」を皆さんにお配りしたことがありました。そのキットの中身というのは、DVや性暴力に遭ってしまったときのヘルプカード、お風呂に入れないときなどに利用できるような携帯用ビデ、性暴力やいろいろなトラブルに巻き込まれてしまったときに助けを呼べるようなホイッスルなどで、このキットを女性の皆さんにお配りするような取り組みをしてきました。
支援物資として避難所の一角にホイッスルや携帯用のビデ、DVや性暴力に遭った際のヘルプダイヤルのカードを置いておくだけでは、なかなか取っていってもらえません。実際にヘルプカードを配ろうとしても、それだけだと「そんなことはこの避難所では起きてないから配らなくていい」と言われてしまったりすることもあるので、「女性向けのキットを配っています。化粧品なんかも入っています」というふうに、ちょっと軽い感じで楽しいものを配りながらも、その中に実はDVや性暴力に対するヘルプカードが入っていたり、身を守るためのホイッスルが入っていたり、携帯用ビデが入っているというような、皆さんに喜んでもらえるようなものの中に実は必要なものが入っているという仕掛けをしながらお配りしてきました。やはり乾パンや水とかは届くのですが、一方で化粧品や化粧道具などはなかなか避難所に届かないので、そういったものをお配りすると皆さん喜んで受け取ってくださいます。そういうのを利用して本当に届けたいものをその中に混ぜ込んだりしてお配りしてきました。
同様に、「さりげないサポート」を目指す支援として、サロンのような、ちょっとおしゃべりをする場を提供しています。そこには、私たち職員やソーシャルワーカー、看護士や弁護士が一緒にその場に何気なく混ざっておしゃべりをして、被災者の方から相談が出たときに専門家がそれを拾って、「こうしたらいいんじゃないですか」「こういう方法がありますよ」とお話しできるような場を作っています。「専門家による相談会」としてしまうと、なかなか相談できないので、ざっくばらんなおしゃべりの場に、さりげなく専門家がいるというような形でさりげないサポートをしています。