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防災インタビューVol.160

経験して、想像して、楽しむ 地震への備え

放送月:2019年1月
公開月:2019年7月

上園智美 氏

日本ミクニヤ株式会社
防災部

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「道路啓開」を疑似体験

名古屋大学で開発をしました「道路啓開疑似体験ツール」をご紹介したいと思います。「啓開」という言葉は聞き慣れない言葉ですが、災害が起きて、建物が倒れたりして道路が通れなくなったときに、その道路をとにかく急いで1車線でも通れるように処理をすることを「啓開」と言います。道路が通れないと人を助けに行くこともできないので、まずはいかに素早く道路を啓開することができるかということが災害時には重要になってきます。それを疑似体験できるのが、この「道路啓開疑似体験ツール」です。小さな災害の場合は、道路を啓開するほどのことはないかもしれませんが、この後来ると言われている南海トラフ地震のような大きな地震があったときは、たくさんの道路が被災することになります。そうすると、やはりそこが通れないことには、人を助けにも行けないので、その疑似体験を事前にやってみようということで、ボードゲームを開発しました。

この「道路啓開疑似体験ツール」は、名古屋大学の減災連携研究センターに所属しているメンバーの皆さんで2016年から開発をしてきたもので、すごろくのようなボードゲームになっています。ボードの中には3つの市があり、市の中に避難所があったり物資拠点があったりします。物資拠点から避難所に物を届けるためには、道路が壊れていては届けられません。そこで、どういう順番で道路を啓開していくかをボードゲームで体験してもらっています。ゲーム自体は1ターンを6時間として、12ターンで72時間、人の命を助けるのに重要と言われている最初の72時間に道路を全部啓開していこうというのが最終の目標です。このゲームを実際にやってみると、楽しみながら道路啓開を体験できるような流れになっています。ただ実際、道路啓開については、行政の方や専門企業の皆さんにお願いすることになるので、一般の方向けというよりは、自治体のメンバーや道路関係や防災関係の部局にいる職員に知っておいていただきたいので、このボードゲームをやっていただくようにしています。

大規模で広域に被害が出る災害では、やはり道路啓開ができないと人の命を救うことができません。でもそこには問題がたくさんあります。例えば1つ目は、道路というのは国道、県道、市道、町道といろいろな種類があります。管理者はそれぞれで、例えば国道だと国が管理をしていますし、市道だと市が管理をしています。そういうふうに管理をする人はいろいろいるのですが、道路啓開をする業者はそんなにたくさんはありません。ひとつの業者が例えば国とも県とも市とも協定を結んでいる可能性がありますので、事前に調整しておくことが大事です。災害が起こると人も被災しますし、機材も被災するかもしれないので、普段通り100%の力では働けない、対応ができないということになります。そうするとやはりどこが大事なのか、どこを先に啓開しなければいけないかということを事前に関係者が一同に集まって話をすることが非常に重要になってきます。そのためにも、ちょっと時間がかかるかもしれませんが、こういう道路啓開の疑似体験ツールを使ってみて、隣の自治体とも事前に話をしておかないといけないということに気が付いていただいて、それを少しずつ広げていくことができれば、少しずつ対応が届くのではないかと思っています。

何度も申し上げていますが、やはり道路がつながらないと何もできない、人の命も救えませんし、物を届けるにしても道路は大事です。しかしながら大きな災害の際には、道路啓開というのはなかなかスムーズに行かず、厳しいものがあります。東日本大震災の時もあまりに広い範囲が津波でやられてしまったので、そこで被災された業者さんも一生懸命がんばってはくださっていましたが、実際にはとても大変だったと思います。特に、経験したことがないことはなかなかできませんので、体験することは難しくても、事前に状況を想像して準備をしておけば、少しはスムーズにできるようになります。そのためにも、このような疑似体験ツールを利用して、行政の方や工事関係者の方とも連携が取れていくと実際に減災につながるということになるかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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