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防災インタビューVol.175

危機管理からの学び ~自然災害と感染症~

放送月:2020年4月
公開月:2020年8月

櫻井 誠一 氏

日本パラリンピック委員会 副委員長
東京2020パラリンピック日本選手団副団長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

目的をきちんと伝える「リスクコミュニケーション」

2009年に神戸で起きた新型インフルエンザの際には、いち早く学校閉鎖をして対応している間に医療体制を整えていこうということで動いていましたが、指定感染症ですと、感染症指定の病院にしか行けません。しかし、症状の軽い方がたくさんいるのであれば、一般の開業医や普通の病院にも行けるようにするために、医師会や学識経験者と調整しながら体制をつくっていったという経緯があり、その経緯を経て、ひとまずの安心宣言というものを2週間後ぐらいに出しました。その結果、神戸としては、その間に非常に大きな経済的打撃があったのですが、その後回復していくことができました。

この危機管理の事象を通して学んだことは、やはり一番難しいのは「リスクコミュニケーション」ということです。特にリスクのメッセージは伝える難しさというものがあります。「リスクコミュニケーション」においては、ただその怖さを伝え脅かすようなメッセージを出しても人は行動しません。このメッセージを送っている目的は何なのか、どういう行動をしてほしいのかということを丁寧に説明をすることが大事だということをこの経験を通して認識させられた気がしました。このような健康に関する危機管理も、実は自然災害における情報の対応の流れとあまり変わらないということを実感し、もう一度自然災害における情報対応をベースにして、それを健康危機管理にも置き換えてみたら、いろんな知見が得られることが分かりました。

もうひとつが、医療機関とベッドの問題です。感染症指定のベッド数というのは、どこの県、都でも非常に少ないのですが、指定感染症になれば健康であっても非常に軽くても重くても感染症指定病院以外には行けません。ところがそのベッド数というのは、例えば東京都ですと100床ちょっと、神戸でも50床ぐらいしかありません。それがパンクしてしまえば本当に大変なことになるので、非常に危機感が出てきます。しかしながら、本当に軽い症状の方がたくさんいるのであれば、一般の病院や開業医で診てもらうことができれば、キャパシティが増えていって対応が可能になってきます。そういうことを医療関係者の皆さんとしっかりと話し合って体制を取っていくことが非常に大事で、それが可能になれば、医療資源をきちんと守って、それを有効活用していくことになります。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、専門家の方々から「今、時間稼ぎをしている」というふうなお話が出ていますが、有効な医療体制を整えたり、1つの病院に患者が集中することで医療の崩壊を招かないようにするための時間稼ぎであることを分かってもらえるようなメッセージを送らないといけないと思います。「外出を自粛する」というのは手段であって、目的は、医療崩壊を防ぐことにあるというのを理解してもらえるような伝え方が重要です。

神戸の新型インフルエンザの事象から見る課題と教訓

神戸の新型インフルエンザの事象の時もそうでしたが、感染症の問題や健康に関する危機管理においては、一つ一つの言葉が非常に難しいものがあります。例えば、感染の有無を調べる方法「PCR」という言葉や、「パンデミック」、これは日本語で言えば「流行」ですが、これらの外国の言葉がわれわれ日本人にはなじまないものも多くあります。それと同時に、何が正しい情報なのかということがなかなかつかみにくくなります。特に健康危機管理や感染症に関することの場合は、物事を端折って説明してしまうと理解しにくくなります。テレビなどで、ものすごく凝縮した形で言葉を使ってしまうと意味が分からなくなってしまうので、「一体これはどういう事象なのか」ということを丁寧に、時間がかかっても説明していくことが重要です。それこそが緊急時のメッセージの伝え方であり、リスクコミュニケーションの取り方になりますので、そこのところをしっかりやらなくてはいけません。

これまで自然災害の際の情報の伝え方については、さまざまな積み重ねがあり、非常に知見が多くあります。そのような地震や台風災害の際の情報伝達におけるリスクコミュニケーション、仕組みというものを健康危機管理、感染症の危機管理にも応用していくことが大事なことだと思います。例えば台風などの災害であれば、気象庁が雲などの動きを早期に探知して予報を出し、土砂災害の起こりやすい所などは事前にハザードマップを作って広く広報しています。行政は危険地域を指定することによって対策を講じていきますし、住民はいざというときに備えて避難場所や備蓄品などを記載した個人メモを作成したりしています。それを健康危機管理に置き換えれば、例えば、気象庁が衛星ひまわりで雲の動きをつかんで状況を把握するように、医療機関などの定点観測や、学校などで保健室に「ちょっと症状がおかしいんだ」と言ってきた人の数であったり、日常と違うような事象を拾い集めて定点観測していくことが必要です。詳細な観測網を作って、いわゆる地上波レーダーみたいなものにすることが「感染症サーベイランス」であり、それによって、感染の早期探知につながっていくのではないかと思います。

例えば地震のハザードの大きさを決めるひとつの要素に「軟弱地盤」というのがありますが、この軟弱地盤にあたるのは、感染症では何だろうというふうに考えると、やはり高齢者とか基礎疾患を持っている人だろうと思われます。対策として個人で備えておくこととしては、日頃からのかかりつけ医をメモしておくこと、手洗いやうがいをこまめにする、マスクのストックをしておくことが大事になります。自然災害の際には避難所に避難したりしますが、避難所というのは一つの情報拠点でもあります。感染症の場合はかかりつけ医が情報の拠点になると思われますので、情報拠点に連絡をすることによって、安心感を得ていくということが大事です。メディアや行政は、メッセージとして台風の時には「命を守る行動をしましょう」という言葉を強く訴えます。そういう意味では今の感染症の事象で言うと、「医療資源を守る行動を、皆さん一緒にやってください」と言うことの方が伝わると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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