1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 災害に強い社会をつくる
  6. 地域づくりからの防災減災
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.179

地域づくりからの防災減災

放送月:2020年8月
公開月:2020年12月

澤田 雅浩 氏

兵庫県立大学大学院
減災復興政策研究科 准教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

地区防災計画 ~まちづくりの処方箋~

このサロンド防災に出演された先生方の中で、地区防災計画という制度のご紹介をされた方がいらっしゃるのではないかと思いますが、私も少し関わり合いを持っているので、この制度についてお話をしていきたいと思っています。

この地区防災計画制度というのは、2013年の災害対策基本法の改正で初めて生まれてきた制度で、地域の人たちが自分たちで課題を見つけてその課題をどういうふうに解決していくのかということについて、市民目線、市民主体、事業社主体の防災の取り組みを計画にまとめたものとなります。これは、その地域がどういう課題を抱えていて、どんなポテンシャルを持っているかということを改めて棚卸しをして、自分たちの目線で、自分たちの言葉で取り組みを整理していく作業だと僕は思っています。地域課題が災害の被害に直結するリスクがあるという話をしましたけれども、「何となく分かっているけれど、ここは危ないんじゃないか」「上からはこういうふうに言われているけれど、本当は違うんじゃないか」というような、ちょっとした地域の中での違和感であったり、何となく持っている不安感みたいなものをみんなで共有をして、それを解決するために考えていく、この地区防災計画制度は、まちづくりのための処方箋になり得ると思っています。そう考えてみると、地区防災計画の取り組みというのは、とても面白く感じられると思います。 

防災計画を立てる際に、「何かあった時には、要援護者と呼ばれている人たちをまず避難させないといけない」とよく言われますが、僕はいつも地域の人たちに「本当にそれができますか?」と聞くと、意外と「いやちょっとね、できないと思っているけれど助けなきゃならないから、やはりそういうふうにするということにしているんだよ」とおっしゃいます。僕は、「行政というのはできないことをできないと言えない立場だと思うけれど、地域や個人は、できること、できそうなこと、できそうにないこと、できないことというのを整理して地域とみんなと共有すればいい」と皆さんには伝えています。逆に、できそうにないこと、できないことをみんなで共有することで次のアイデアが出てくるのではないかと思っています。例えば、避難指示がでたら、指定された避難所に全員が避難するというのは、本当にできることなのでしょうか? 多分、「それは難しい」という答えが返ってくると思います。「では、どうするのか?」ということを考えることが、地域の力を上手に生かすことだと思っています。そうすると、「じゃあ、在宅避難がいいんじゃないか」「マンションであれば上の方になるべく避難をしていくのが、水害の場合だったら効果的かもしれない」というようなことがだんだんと分かってくるわけです。そうなってくると「避難をするときには、何を工夫すればその避難ができるようになるのか」ということを考えることにつながるのではないかと思います。

地域課題を解決するためのプラットホーム

地区防災計画の可能性というのは、できることを増やしていくというよりも、できないこと、できそうにないことを整理することから生まれます。「では、どうすればいいのか?」ということを考える場として、この地区防災計画の作成の場は、とても機能しやすいのではないかと思っています。

「指定避難所に行かなくても安全安心を確保するにはどうすればいいのか」ということについて、単に行政が指定する施設だけではなく、ご近所の協力であるとか、安全な建物へ一時だけでも避難させてもらえるようにするための、事前の取り組みを考えていく過程において、例えば、突然来られても困るということであれば、普段から近所付き合いとして一緒にいろいろなイベントをやって、顔見知りを増やしていくというようなことで、顔なじみ、地域の連携を作っていくということができるのではないかと思っています。

このことを強く感じ始めたのは、ここ数カ月のコロナの影響です。ステイホームをしなければならず、災害が起こっても避難所に行ったら感染してしまうのではないかというときに、それまでは避難所に行くしか選択肢を考えていなかった地域では、大騒ぎになっているかと思います。「じゃあ、もうしょうがない。家にいるしかない」と思ったとしても、家が危ないかどうかという議論はほとんどされずに、「避難所は危ないから、じゃあ家だ」という自分なりの選択肢しかないのであれば、本当に安全が守れるでしょうか。そこでは地域社会としてみんなで助け合えるような環境なのかということは精査されていないわけです。

そうではなくて、例えばコロナであっても、こういう人たちはどうしても避難所に来るべきだから、その人たちのためには密を回避した場所を作ろう。その代わり水害があっても安全で水が来ないエリアに住んでいる人は、お友達同士で避難して、そこでお茶を飲んで、手洗いうがいをしながらやっていきましょうというようなことを考える必要があります。自分たちの地域の中で画一的にどう避難するかではなく、そこの人たちが置かれた状況をきちんと分かった上で、自分たちでやりたいこと、やるべきことを定めていき、その組み合わせで地域社会での避難生活や安全確保というものを組み立てていくということがより一層求められています。そうすることによって、その受け皿としての地区防災計画がより良く機能するのではないかと思っています。

また、エンパワーメントであったり、外部の支援者であったり、専門家であったり、そういう方々が地域の問題に関与することでうまくいくこともあると思うのですが、その素地というか、安全でうまい形で乗り切れるような知識、仕掛けを持っているのが地域なので、上からマニュアルを押しつけて、その通りにやるのではなくて、まちづくりとしての創意工夫を持って地域でやっていったらいいと思いますし、やっていくべきではないかと思います。その取り組み自体を進めておけば、もし災害が発生して被害が出たとしても、そこからの立ち直りというのは、より創造的で、迅速で、地域社会としてはより良いものになっていくのではないかと思います。

地域社会のコミュニティが強い所は良いのですが、東京や大都市の場合は、マンションなどもたくさんあってコミュニティが希薄だというふうによく言われています。しかし、本当はこういう地域こそ、地区防災計画が結構フィットするものです。皆さん、マンションとしての資産を維持管理したいし、その資産価値を向上させたいと願っていますし、さらに災害があったときにも安心していられるための地区防災計画をマンション単体で作っていくことは、そのためにも非常に有益です。

このようなアプローチをしていくと、東京に住んでいる、いろいろなライフスタイルの人たちが共に考える場としては、この地区防災計画を作るというのはとてもいい場であり、いろいろなアイデアも出てくるのではないかと思います。特にこれから現役をリタイアされている方々にとっても地域にいる時間は増えてくるので、そういう方たちが普段の趣味などを通じながら、地域をどう支えていくかについて改めて考えてみるのもいいのではないかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針