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防災インタビューVol.179

地域づくりからの防災減災

放送月:2020年8月
公開月:2020年12月

澤田 雅浩 氏

兵庫県立大学大学院
減災復興政策研究科 准教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

エンパワーメント ~外の力をうまく取り入れた防災~

災害が来る前に上手に地域の課題を理解し、それによって地域社会を強くしていったり、被害を受けてもそこからすぐ立ち上がるためのレジリエンスも大事なのですが、災害が起こる前も起こってからも、地域でエンパワーメントをうまく使っていくことが一番大切なのではないかと思っています。新潟中越地震の際の中山間地域の人たちが、人口は減ってはきても、元気にいろいろな人との関わりを新たに打ち出し、地域の価値を自分たちで再認識して頑張っている姿や、神戸の人たちが自分たちの地域社会を自分たちの手で作るために、「まちづくり協議会」を立ち上げて、専門家を呼んで行政をうまく連携を取りながら計画を作っていったということもあります。そういった時には、自分たちがやっていることをうまく盛り上げてくれるような存在や場があることによって、それがさらに効果的なものにつながっていくという気がしています。それは日々の防災活動もそうですし、復興活動もそうなのですが、結局のところは普段からよいコミュニケーションが取れているか、どのようにまちづくりに取り組んでいるか、身の回りの生活をどういうふうに豊かにしていき、そこにどういう知恵が含まれているかが大切です。そして、それだけではなく、それを周りの人たちが上手に「いいね」と言ってあげることこそ必要だと思っています。実は、神戸での体験を教訓として新潟に伝えて、上手に生かしているのですが、まだまだそれを東日本には上手に伝えきれていない部分もありますので、これからもそういうつながりを生み出していければと思っています。

このように神戸と新潟は、非常にうまく連携が取れているのですが、それは神戸と新潟が直接つながっているわけではなく、間にもうひとつの被災地の経験が生かされているからなのです。それは、阪神淡路大震災から4年後の1999年9月に台湾の中部で発生した台湾921地震、あるいは台湾集集地震と言っている地震の被災地での取り組みになります。具体的には日本政府の関わりもあるのですが、それよりももっと大切だったのが、日本からまちづくりという概念を学んで、台湾でいろいろ実験を進めているさなかに起きた地震だったということなのです。

神戸でのまちづくりや東京で見られる住民参加のまちづくりなどにおいて、みんなで関わって良い環境を作っていこうという取り組みの良さを、日本に留学していた台湾の人々が学んで、それを台湾に知らせ、「社区総体営造」という形で実践をしていた時に、この地震が起こりました。この「社区総体営造」の「社区」というのはコミュニティという意味で、これは、一つ一つのものを直すということではなく、トータルでいろいろな相互作用を考えながら、まちづくりに取り組んでいくことが必要だというような概念になります。

この台湾地震では、中山間地域の担い手不足に悩んでいた地域なども多く被災をしましたが、その復旧を進めるにあたって、例えば生態系の専門家をまず現地調査に派遣をして、その地域の豊かな生態系をきちんと調べた上で、復旧、その後のまちづくりをするという取り組みが行われました。日本の場合は、被害の原因としての自然環境の存在みたいなものを位置付けて、そういったものを調査して、それから守るために対策を講じるということになりますが、台湾では、被害を受けて復旧する際に、もしそこが豊かな自然環境を有して生態系を有しているのであれば、復旧の時にそれを配慮して尊重できるような方法を取ろうではないかということが皆さんの合意の元にやられたということで、このことは日本にとってはとても勉強になる取り組みだというふうに理解しています。

東日本大震災の被災地でも、民間の団体で畠山さんという方が、「森は海の恋人」という考え方で、森林整備をすることで海がより豊かになるというような取り組みをされているケースはありますが、自治体レベルでの復興を考えていくときに、その地域を支えていく大切な資源として生態系というものがあるのだということを位置付けて、そういう専門家の意見を聞きながら今後の地域社会をどう作っていくかという議論はなかなかできないと思います。しかしながら、地元の復旧復興をエンパワーしながら、地域の持つポテンシャルを生かしていくということを考えていくならば、そういった自然についても実はわれわれがこれからはもっと考え、学んでいく必要があるかなというふうに思います。

災害という契機は、実はその地域社会の人々だけで考えることではなくて、外の人が関わって考えていくことができる良いチャンスです。その外部からの刺激によって、自分たちでも薄々は感じているけれど、何となく日々の日常の中に埋もれてしまっている良さ悪さというものを、もう一度あからさまにしながら、解決に導くためのスタートラインに立つことができる一つの契機に、実は災害というのはなり得るのだと思っています。それをうまく生かすも悪く生かすも、その後のいろいろな関わり、行動をどういうふうに進めていくかという考え方次第ではないかと思います。

新潟あたりでは、震災の3年目ぐらいまでは「震災のせいで」と言われるお年寄りが結構多かったのですが、途中から「震災のおかげで」という言い方をされる方が多く出てきました。そういうことではないかというふうにも思います。いろいろな小さな成功体験を重ね、こうすればうまくいくのではないか、自分たちでやったら何かできるということを試行錯誤しつつ繰り返していかないとできないことですし、それでだんだんうまくいくことを大きく広げていくというのはやはり時間がかかると思います。そのためには、自分たちが気付き、外からはエンパワーをして、自分たちのもともとのポテンシャルを上手に使っていきながら、自分たちが体力を付けて、そのような取り組みができるようになることが大切だと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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