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防災インタビューVol.71

自然と災害を考える

放送月:2012年1月
公開月:2012年3月

西岡 哲 氏

株式会社地圏環境テクノロジー
代表取締役

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

津波のシミュレーション

東日本大震災のときは津波の被害が非常に大きかったのですが、震災前にシミュレーションはしていませんでした。シミュレーションをやろうと思えば、いくらでも事前にできたはずですが、実際にやるかどうかは別の問題です。本当に起きると思っていなければ、シミュレーションをするにはパワーが必要で、そこまでできなかったというのが正直なところです。

震災後に、あの津波をシミュレーションすることが可能なのかどうかを社内で独自にやってみました。3月11日の14時46分に一体何が起きたかをもう一回考えて、シミュレーションの側から何ができるのかを社内で、若手を中心にいろいろ考えました。マグニチュード9の巨大地震があり、その後に巨大津波が起こり、沿岸域では広域の地盤沈下がありました。地滑りもありましたし、液状化もありました。液状化は関東の方まで非常に広範囲に広がっています。その津波が起こったということは当然、海の水が陸に入り込んだわけで、津波が引いた後、地盤沈下した所には水がたまり、今日でもまだ海水がたまったままになっている所もあります。もともと水田だった所にも海水がたまっていたりしますが、その塩水が地下に染み込んでいったときに、今まで淡水、真水だった地下の水が塩水に置き換わってしまいますので、津波は1日もたたずに引いてしまいましたが、その後に起きている現象は長期にわたっています。

もう一つ今回の震災において、これは人災になるのかもしれませんが、福島第一原発で、起きてはいけないことが起きてしまいました。いわゆる放射性物質が環境中に大量に放出されてしまったということで、それが今後どうなっていくのかということが非常に大きな問題になります。私たちは、そのようなことを一つ一つシミュレーションしています。シミュレーションの役割というのは、そういうところにあると思います。自然の現象というのは、実験室で実験はできません。工業製品を作るときには、実験室で実験して「ああ、こうやればこうなる」という理屈を考え、「こうなるんだ」と検証して物を作っていきます。しかし津波の実験というのは、小さな模型でやったりしても、実物で本当にどうなるのかという実験はできません。唯一可能なのが、こういう数値シミュレーションです。

私たちがやったのは津波のシミュレーションでしたが、まず仙台平野の部分で数値シミュレーションをやりました。仙台平野に関しては標高データ、DEM DHM(デムデム)と通称で言いますが、非常に細かな数値標高が国土地理院から公表されております。細かな地形情報があるので、それをベースに3次元の地形標高データを作って、そこで、どこの場所はどういう土地利用になっているのか、それは水田なのか畑地なのか、市街地、建物なのかという情報を入れて、そこに今回起きた津波を外力テストで与えると、どのような形で津波が陸域に入っていくのか、というようなことをやってみたわけです。すると全く実際の映像と同じような動きのシミュレーションが映し出されました。

今回の仙台地区、閖上(ゆりあげ)地区、名取地区の津波ハザードマップは事前に公開されていましたが、予想をはるかに超える津波が押し寄せたわけです。1カ月ほど前にNHKの特集で、仙台の閖上地区で生き残った方々ほぼ全員にアンケートをしました。「地震が起きた直後、あなたはどうしましたか」というような質問をしましたら、一番特徴的だったのは、貞山堀より海側の人と、それよりも内陸側の人を比べると、内陸側の人たちのほうが被災率、罹災率が高かったということです。この堀を越えて津波がやってくることはないと言われていたし、それを信じていました。絶対に来ないというような確信にまで近いような状態になっていたということです。市のハザードマップも貞山堀を越えるようなものにはなっていませんでした。しかし海側の方は、津波が来たら危ないかもしれないと常に思っているので、被災行動に差が出ています。

この津波シミュレーションでは、いつ、何分後に、どういうような津波が、どこのエリアに、どういうふうに来るのかというのを時間的に、空間的に、どのような変化が起きていくのかを示します。もしそこに住んでいた人たちが知っていたら、逃げ方や普段の防災に対する意識が全く変わったのではないかと思いました。私たちが今回こういう津波シミュレーションをやったのは、住民の方々一人一人が、自分の家は一体どういう場所に建っていて、どういうようなことが起こるのかということを知ることが、とても重要ではないかと思ったからです。津波のシミュレーションというのは昔からやられていますが、そのほとんどの場合は大体どういう津波に対して、どういう構造物を造るのかというような設計的な考え方で作られていました。しかし、そうではなく、実際の津波を再現し、こういうことが起きたら次にどのようなことが起きるのかということを事前に、きちんと分かるようになるということが重要だと思います。

実際に自分の住んでいる平塚でもシミュレーションをやってみました。周辺の市町村では津波ハザードマップを作っていますが、平塚市は作っていませんでした。その理由は、海岸沿いに134号という国道が走っていますが、その1列目の砂丘列が仙台平野と違ってかなり高いです。8メーターから10メーター近くあるので、大きな津波は来ないということでハザードマップは作っていませんでした。これを実際にうちの会社でシミュレーションをやってみると、8メーターぐらいの津波であれば海岸の高い所、第1列の砂丘列を越えることはありませんが、あそこの場合は相模川と花水川と金目川という川がありますが、その川を遡上して、川から津波がやってくるということが分かりました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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