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防災インタビューVol.71

自然と災害を考える

放送月:2012年1月
公開月:2012年3月

西岡 哲 氏

株式会社地圏環境テクノロジー
代表取締役

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

水物質循環と地圏

私の会社では、水物質循環、地上に降り注いだ雨が、陸域の人間の生活圏である地圏の中で、どういうふうに循環しているのか、ということをシミュレーションしています。例えば、富士山から神奈川県全域のモデルというのを作っていますが、このモデルをどうやって作るかといいますと、標高データを入れ、土地の用途、地面の中の地質構造、海底地形がどうなっているかというのを入れます。海には塩水を入れ、気温、標高、季節などのデータを入れていきます。季節や気温、標高によって雨の降り方も違うわけですが、実際に地面の中に染み込む量、河川に流出する量以外に直接大気に戻ってしまう水もあります。それは蒸発散といって気温によって変化しますので、そういうものを引いていって、富士山を含むあの一帯にどういう現象となって現れるのかというシミュレーションです。特徴的なのが、富士山の西側に降った水は、西側の潤井川に向かって流れていく。川に向かって流れていって、地下水となって、その下流の富士市や吉原辺りに大量の地下水を提供しているわけです。あの計算をやってみてつくづく思ったのが、富士市にある巨大な製紙工場群では、膨大な地下水を使っていますが、あれだけの膨大な地下水を使い続けられるというのは、富士山の地下水の恵みがあるわけです。もう一方、海底に湧き出している所があります。それは陸から海への贈り物と思ってもいいのかもしれませんが、いわゆる栄養塩を送り出しています。海底湧水が多い所は、プランクトンが発生しやすいということがあると思うのですが、桜エビとか魚介類などの海産物がたくさんとれます。ですから海と川と森というのはつながっているわけです。それが、あのようなシミュレーションをやると、よく分かるのです。もうひとつ、地面に染み込んだ水というのは何年そこに湧き出してきているのかも分かってきます。すると、あの周りにはいろいろな清涼飲料水の工場がありますが、そういうところの人たちは、その水が一体どこから来ていて、何年ぐらいその地層を通ってきた水なのかということはシミュレーション上で、ある程度再現することができます。シミュレーションだけで全て分かるわけではなくて、実際にいろいろなモニタリングや観測情報、さまざまな情報とシミュレーションの結果を総合的に考えることによって、より自然の奥懐に踏みこんでいく、そういう知恵を人間がつけることができるということになると思います。

水物質循環モデル 北海道から九州まで

私の会社では、非常に面白いチャレンジングなことをやっていまして、日本列島の水物質循環モデルのベースを作ってしまおうということで、日本列島を北海道から九州まで陸域から海底地形まで全部入れたモデルを作って、そこに雨が降ったら、どういうような水循環が起きているのか、当然、海には海水がいるわけで、そういうところでまず基本的な、モデルとしては粗い情報ではありますが、ベース情報を作りました。

これは実は政府や役所に、日本列島の基本的な水循環の基礎モデルを作りましょう、そうすれば、これはある意味、非常に重要な国家の国土の基本情報基盤になると言ったのですが、面白いからやるべきだという意見はあったものの、誰もお金を出そうという人はいなかったので、仕方がないので社内で、できるところまで自分たちでやろうということになり、北海道から九州まで全部作りました。例えば北海道というのは非常に面白くて、計算してみて私も少し驚いたのですが、北海道の知床の海岸線の所がずっと真っ白くなっています。これは知床の山に降った水が海底湧水している場所ですので、陸域の栄養塩があの辺りに大量に供給されているので、知床の豊かな海を育んでいるわけです。こういうことを調べていくと、こういうような物理的な条件だったら自然は物理的にはこういうふうにバランスするということが分かってきます。北海道の海岸線で白くなっている所のほとんどは、北海道の昆布の名産地です。ですから物理的にそういうモデルをきちんと作ってやると、自然と非常に対応してきます。もし対応がうまくとれていない所は、何で違うのかと考えるヒントを与えます。当然モデルというのは100%正しくはないので、その実際に起きている現象とコンピューターでシミュレーションした結果の違いというのは、私たちがまだよく分かっていない所の情報を与えてくれているのかもしれません。

例えば、漂流水として年間平均、毎秒何トンの水が流れているのかということも、いろいろ各河川の情報を見れば分かります。どこの河川だったら、どれだけの発電能力があるのかというのが一目で分かるわけです。河川の流量と落差が分かれば、発電ポテンシャルといいますか、各河川ごとの発電能力が分かってきます。私たちは当然そういう一例として北海道の発電ポテンシャルを計算してみました。すると今、北海道電力が発電しているダムは、ほぼ、その発電ポテンシャルの高い所にできているということが分かります。この国土モデルは全部公開情報だけで作っているので、例えばアフリカや未開発の地域であっても、現地に行かなくても基本的な公開情報で、自然情報がどうなっているかというのをモデルを作っていくと、ある程度まで言うことができます。当然100%正しくはないですが、それは今後いろいろな調査をしながら、どんどん蓄積していくことによって、国家の水循環や水資源、さまざまな形の基本的な情報のデータベースに成長していくと思います。モデルは1回作ったら終わりではなく、子どもを育てるのと同じように、どんどんおいしい物を食べさせて成長させていくと、5年後、10年後、100年後には、例えば日本列島の非常に精緻な自然モデルが出来上がっていて、それを利用することによって防災から新しい社会開発をどうすべきかみたいな形の、国家の非常に重要な基盤になっていくというふうに信じています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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