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防災インタビューVol.186

災害時の混乱を回避する施策 ~餅は餅屋の災害対応~

放送月:2021年3月
公開月:2021年7月

菅野 拓 氏

京都経済短期大学
経営情報学科 専任講師

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

平時の脆弱性を克服するために

災害発生時の被災者はどのようなことで困っているか、分かりますか? これは時間の経過によってもいろいろ変わってきますが、最初は命が助かるかどうかという瀬戸際にあって、生き残った後も避難所の生活や、在宅の状況でいろいろな困難に出会います。しかも、その困難は人によってさまざまで、多様です。例えば、ある人は物資が足りないとか、食事が足りないとか、いろいろな問題を抱えられるかもしれませんが、ある人は屋根が壊れてしまった、水道が止まってお風呂に入れない、ある人は、屋根を直すのに借金をして大変な思いをしているなど、人によってさまざまで、しかも重層的です。いろいろな困難がさまざまに押し寄せてくる、これが被災者の現実です。

その原因は、災害だけに起因するものでしょうか? 考えてみると、元気でピンピンして働いている若い人と、なかなか足腰が立たなくて困っているお年寄りであれば、お年寄りの方が大変なのではないかと思われます。これは、災害だけが原因ではなく、まさに健康上の課題であるとか、年齢であるとか、障害があるかどうか、借金があったり、生活に困窮していたりというような、平時の脆弱性も強く影響します。それが災害時にはもっと露出してくるということになります。

まさに災害というのは、社会的に弱い人を狙ってくるのではないかと思うぐらい、そういった厳しい状況に置かれている人たちに、さらに厳しい問題を投げ掛けてしまいます。災害時はまさにレンズのようにそこにだけ屈折して嫌な光が当たってしまうようなことが起こってしまい、それまでも大変だったのに、さらに大変なことが重なってきて、重層的に問題を被災者の方が抱えてしまうことになってしまいます。

実はそのような重層的な問題を「災害の問題」ということだけで処理してしまっては、なかなか被災者の方々の生活再建はうまくいかないということが東日本大震災以降の災害で分かってきました。いろいろな面でサポートしなければいけませんし、災害の特有のサポートだけではなく、例えば健康上のサポートや福祉サービスのサポートなど、平時のサポートもいろいろ必要になってくるのです。平時には福祉サポートを受けていても災害時にはなかなか受けられないという問題など、まさにそこにも被災者支援の混乱の原因があるかもしれません。

このように平時の脆弱性というものに対応する人たちというのは、被災地支援をする人ではなく、平時からそういう問題に関わっている人であるべきだと思いませんか。実際に平時のサポートに関わっているのは、民間の事業者であり、タクシー会社、NPO法人、医療機関などの方々であるのですが、そこにも災害救助法の枠組みで自治体だけが担わなければならないという問題が影響してしまっているのが現実です。

被災者支援の混乱解決に向けて ~社会保障のフェーズフリー化~

平時の脆弱性というものが、災害の被災者の方にさらなる困難を与えてしまうこともあり、これは行政だけでなく、民間企業や医療機関の支えがあって成り立っているというお話をしましたが、ここで被災者支援の混乱を何とか解決する方向性のもう一つが見えてきました。それは、まさに平時の医療、保健福祉をはじめとした社会保障の担い手の人たちが災害対応もやる、そういう社会になれば、餅は餅屋の災害対応ができるということです。

例えばケアマネージャーの皆さんや生活困窮者自立支援の相談支援員の皆さん、そういった方々が、普段の脆弱性の対応をしていらっしゃるわけです。そういったしんどい思いをしている人たちに寄り添いながら支援をされている人たちが、災害時は「私たちは何も仕事がありません」という状況になり、その人たちが持っている専門的な力が生かされない中で災害対応を行わなければいけないということになっているのが現状です。ですので、ここで必要なことは、「社会保障のフェーズフリー化」、社会保障の中に被災者支援を位置付けましょうという考え方が大事になると思います。

この「フェーズフリー」というのは難しい言葉ですが、ハイブリッド自動車を考えていただければと思います。ハイブリッドの自動車は、平時はすごく燃費のいい、いい車ですが、災害時にも機能発揮するようにデザインされています。例えば、発電機や電池みたいな使い方ができるように最初から設計されています。要は、非常時にも便利なように平時の使い方をデザインしておくという考え方が「フェーズフリー」ということです。これは、先ほどの福祉の支援や医療などに組み込めると思いませんか。

まさに社会保障というもの自体も、災害対応できるように平時からデザインしておくことが、先ほどの災害救助法において、自治体のみが災害対応を行うことによる混乱を避ける道だと思います。例えば、ケアマネージャーさんが最初から災害時の避難を考えて、それを個別のプランに組み込んでおくなどというのが代表的な考え方かもしれません。また、仮設住宅に入居された方の対応を、例えば生活困窮者の支援の窓口の方が、事前に一緒になってやりますということを規定しておけばどうでしょう。まさに防災を防災だけでやるのではなくて、例えば福祉であるとか、社会保障なども一緒やるという考え方が重要なのだと思います。

しかしながら、どうしても財源については法律に載っているので、「目的外」だということになってしまうわけです。法律自体もそのように対応できるように作っていかないと、難しい面もあるかと思います。将来的には実現していくと思いますが、今も一部先行的に国や自治体の皆さんが考えていることを、全国化していこう、普通にしていこうということが必要です。私自身も頑張っていきたいと思いますが、災害対応のマルチセクター化や、社会保障のフェーズフリー化を何とか実現して、災害があってもみんなが大丈夫でいられる、そういう社会にしていきたいと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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