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防災インタビューVol.187

人づくり、場づくりから広げる地域防災

放送月:2021年4月
公開月:2021年8月

小山 真紀 氏

岐阜大学流域圏科学研究センター
准教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

本来の目的を見据えた地域防災

私自身も地域防災のお手伝いをしている中で、いつも気掛かりなことがあります。それは何かと言うと、「本来の地域防災の目的は何か?」ということです。例えば災害で亡くなる人を少しでも少なくすること、生き残った後の困難さをできるだけ軽減すること、そのようなことを目指していくわけですが、本来それだけが目的なわけではありません。また実際に地域防災の手段を考えていく過程においても、防災のためにやろうとしていることと、その目的がちぐはぐになっていることが多いことが、最近気になっています。

例えば、地域の危険度を調べて、水害であれば安全なうちに避難することを目的としてハザードマップが作られて、各世帯に配布されています。しかしながら、実際に調査してみると「ハザードマップがあるのは知っているけれど、見たことはない」という方が結構います。本来であればハザードマップは、作って配ることが目的ではなくて、本当はハザードマップを見て、確認して、自分自身が的確に避難できるようにするところまでが目的なはずですが、実際の施策になってしまうと配布して終わりになってしまっているケースがとても多く見られます。目的と手段がチグハグになってしまった結果として、ハザードマップを作るためには結構なお金が掛かっているにもかかわらず、いらなくなった新聞広告のように廃品回収に出されてしまうような状況になるのは、非常にもったいないことだと思います。実際には、ハザードマップは配ることが目的ではなく、使うところを目的化しないといけないわけで、ハザードマップを見て、避難の意思決定に使えるようにするところまでもっていかないと、本当の目的と手段が合致していかないですし、意味がなくなります。これは最初の部分で申し上げたことですが、防災人材育成の話と同じで、講座をやって終わりみたいなことになってしまっており、講座を受けて修了だとしたら、実際に地域で活動できる人が育っていないということになり、これもまた目的と手段がつながっていないということになります。

このような事態を改善するためには、施策を考えるときのKPI(Key Performance Indicator)、日本語に訳すと「重要業績評価指標」が非常に重要になってきます。例えば講座だとしたら、受講者数を多く獲得することを目標にするのではなく、講座を受講した上で実際に活動できる人を何人得るかを目標とし、その目標のためには、何をしないといけないかを考えていくことが重要だと思います。現在は、講座をやって人数を集めるところまでを目的化するような指標になっているので、そこまでしか見えていないのだと思います。その指標を改善しつつ、人づくり、場づくりをして、実際に動けるところまで伴走していくことが、一つの解決案なのではないかと思っています。

例えばハザードマップについても、配って終わりではなく、地域の方と共にその内容を検証をして、実際に使ってやってみるところまで、一緒に伴走していったり、一緒に伴走できる人を育てるところまでやらないといけないと思います。そして、毎年の防災訓練の中にも、ハザードマップを利用した取り組みを組み込んでいく工夫も必要だと思っています。

災害の記憶と記録 ~身近な災害からの学び~

私たちがやっている活動の中に「災害アーカイブ岐阜」というものがあります。地域での防災活動や防災対策を考えたときに、日本で起こった大きな災害、例えば阪神淡路大震災や東日本大震災のことを学ぶのは、当然とても役に立ちますが、それだけでなく、そこの地域で起こった災害を元に学べると、もっと身近に、よりそこの地形を踏まえて考えることができると思います。大災害とは言わないまでも、中小の災害は各地でかなり頻繁に起きているにもかかわらず、その記録や写真、経験談は、なかなか世代を超えては伝わらないのが現状ですが、身近な所に目を向けて、災害を見つめてみることもとても大切だと思っています。

かつて岐阜県で、平川バス転落事故というのがありました。しかしながら、この転落事故については、現在では地元でもあまり記憶されていないのが現状です。この事故のあった平川という川沿いの町、川辺町の中学校で私たちの仲間が地域の方と授業をしたことがありましたが、平川バス転落事故の話を知っている人がいるかを尋ねたら、知っている人はクラスの1人だけだったということでした。事故が起こった時には大きなニュースになるかもしれませんが、その後風化してしまっています。

大災害であれば、テレビなどでも「阪神淡路大震災から何周年」というようなことも報道されますが、実際に災害の経験があったとしても、なかなか家族や子どもたちに話をする機会もないままに、地域の中小災害の話は、あっという間に風化してしまうものです。地域の災害の話を風化させないために、私たちの活動では、地域の中で災害を経験した方から提供いただいた写真と、今の同じ場所の写真を撮って、マップの上に並べて、「ああ、誰それちゃん家の所がこんなことになっている」みたいなことを話しながら、世代を超えて一緒にワークショップをします。そうすると実際に経験された世代の方は、「いやあの時は何時に裏山がああでこうで」というような話をイキイキとされ、子どもたちも、「あそこがこんなことになるんだ」ということを身を持って感じることができます。大人であってもその当時そこにいなかった人は、「あそこってそういう危ない所だったんだ」ということを知ることができますし、経験者同士であっても、その人が経験した範囲外のことはやはりご存じなかったりするので、「お前さん所はそうだったのか」というような話を通して、地域の災害の情報を共有することができるようになっていきます。 

防災という意味から考えると、「例えば昔の地形がこうだった」「この土地はこんな土地なんだ」というような情報は非常に大事ですし、そのことをおじいちゃん、おばあちゃんから直接教わるという体験も非常に大切です。そういう場をつくっていくことで地域の災害を伝えていき、それをさらにデータベース化して残すことで、次にも再利用できるような仕掛けを今まさに作っているところです。このような地域の中の情報は、非常に身近で、次の災害にもすぐに役に立てることができますので、とても大切な活動だと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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