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防災インタビューVol.192

災害の検証が築く未来の危機への対応力

放送月:2021年9月
公開月:2021年12月

梅山 吾郎 氏

一橋大学 国際・公共政策大学院 非常勤講師
SOMPOリスクマネジメント株式会社

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

過去を検証、未来への備え

大規模災害の事例としては、東日本大震災、阪神淡路大震災、その他水害など、日本では数多くの災害が発生しています。過去の災害において、被害の大きさやその対応については、ニュースなどでも断片的に取り上げられているとは思いますが、全体としてどれくらいの被害があって、どんな災害で、どういった人たちがどんな対応をされたのかということについて整理されたものは、なかなか目にする機会がありません。

そのような情報を集めるために、東日本大震災やその他の大規模な災害や大きな事故などの検証のプロジェクトに私も参加させていただく機会がありました。特に私は宮城県に3年間入らせていただき、県内で大きな被害を受けた市町村において、国や関わったさまざまな企業、住民の方々に実際にヒアリングや現地の調査を行って、当時どういった対応が行われたのかを振り返るような作業を行ってきました。それまでも、被災した2週間後くらいに保険会社の現地調査のために現地に入ったことはありましたが、3年間という期間をかけて、実際に検証してみると、現場では、住民の方、企業、行政の方々がそれぞれの立場で最大限の対応をされていたということを本当に感じることができました。この検証結果は、日本にとっても大事な検証として、これからに生かせるものだと感じました。

また東日本大震災においては、福島県で第一原子力発電所の事故もありました。これは一民間企業における事故ということではありましたが、日本に大きな影響を及ぼした事故でしたので、日本政府としても数多くの検証のための委員会などが立ち上がっていました。私も参加させていただいて、非常に難しい検証ではありましたが、民間企業が危機に遭遇したときに「日本として何をすべきか」というのを改めて考えさせられました。

その後も日本では自然災害が数多く発生していまして、例えば2016年に熊本地震の被害を受けた熊本県、2018年7月に豪雨の被害を受けた愛媛県の検証委員会にも参加させていただきましたし、2020年度は新型コロナに関しての第1波の対応を検証する民間の調査会に参加してきました。少ない経験ではありますが、このような災害に際して、一つとして同じ災害はありませんので、そのそれぞれの危機を踏まえて、かなり法制度が変わったり、対応の仕組みも適宜改善してきているのを感じました。その結果、災害、危機への対応力はかなり上がってきているかとは思います。ただ、一方でこれら全ての災害や事故に対して、しっかり検証する文化が日本でできているかと言うと、なかなかまだ途上にある段階なので、これからしっかり検証を行うことを文化として作りあげていくことが求められていると思います。

また、この検証については、日本では災害に対してさまざまな方々が、置かれた立場、与えられている制約条件の下で、その時点で、最大限に知恵を絞って導き出した答に従ってしっかりと対応されてきたことが分かりますが、その対応を振り返って検証することで、個人の誰かの責任を問うということではなくて、組織として、仕組みとしてどうだったのかという事実、真実をまとめて学んでいくということが必要ではないかと思っています。過去の災害に学び、今後に生かしていくことを目標に、業務や大学の取り組みの中でも今この検証が進んでいるところです。

ケースメソッド ~過去の危機や災害に学ぶ~

過去に起こった危機、災害の事例を学び、今後に生かしていくために、「ケースメソッド」という取り組みを現在行っていますので、ご紹介したいと思います。これは、実際に起こった事例を使って、主人公が直面する場面において意思決定の過程やその対応を追体験することで学んでいく方法で、文字通り「ケースメソッド」になっています。この方法は、日本ではビジネススクールなどで、いろいろな企業の事例を元に活用されています。

今、国内外で、企業や政府、自治体はさまざまな危機に直面しています。多くの学びも得て、体験もしているかと思いますが、これらの危機に直面したときの対応をより深く理解して、それをどのように次に生かしていくのかを、これからみんなで学んでいかなければいけないと思っています。そういった考え方を学べるように、私は、一橋大学の大学院でも、ケースメソッドを利用して、災害や危機管理の事例について、討議をして学んでいくような取り組みを進めているところです。

このケースメソッドについて、ハーバード大学で学んだ先生から一つお聞きしたことがありました。ケースメソッドというのは、誰かの責任を問うためのものではなくて、似たようなケース、事例が発生したときにより良く対処するためのものであるということで、海外ではそのほとんどが失敗の事例が多いそうです。もちろん成功の事例もありますが、ある部分、改善の事例も検証としては整理をしていますので、両方をしっかり学んでいけるような授業の仕組みを考えて、この文化を日本で作っていきたいと思っています。

授業では、例えば東日本大震災で被害を受けたある町の担当者の立場で実際の対応を考えてみたり、企業の危機管理の担当者の立場で、その企業が抱える災害や危機に備えた事業継続の考え方を学んだり、また今海外でいろいろな情勢の変化もありますので、例えば日本から海外進出しているような企業として、海外で有事があった際や海外で職員が何らかのトラブルに巻き込まれたときの対応を考えたり、というようなことを、過去のケースを通じて学んでいけるようにしています。

私たちの社会には地震、異常気象などの自然災害、テロやクーデターのような政治的な危機や気候変動など、今の社会制度に変化をもたらすようなさまざまな要因があります。企業や政府にとっても、その存続の危機や事業を脅かすようなことが数多く出てきていると思います。これに対応していけるような人材の育成が必要になっています。しっかり危機について体系的に学んで理解して、その学んだ方々が組織に入って、具体的にどう生かしていくのかを考えられるような形になっていければ良いと思って取り組んでいるところです。授業を受けた方々が、実際のケースを通じて、当事者の立場になった形での対応の仕方や、判断において、正解がない中でよりベストな答を出していけるような考え方を学んでいっていると感じているところです。

実際やってみるといろいろな気付きもありますし、教科書的に振り返るような形ではなく、自分がその立場だったら、時間のない中で、情報がない中で、どういうふうに考えていけばいいかをケースメソッドを通して身に付けていくことは、非常に勉強になる良い機会であると思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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