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防災インタビューVol.202

災害イマジネーションと防災

放送月:2022年7月
公開月:2022年10月

目黒 公郎 氏

東京大学教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

コミュニティFMの「防災」における役割

私は、コミュニティFMは防災において、とても重要な役割を持っていると思っています。先ほど、災害を考えたり、防災を考えたりする上では、災害のメカニズムとして、何がインプットで、何がシステムで、何がアウトプットかと考えることが重要だという話をしました。これが理解できれば、同じインプット、つまり同じハザードでもシステムとしての地域特性が変われば、アウトプットとしての災害の規模や様相は当然変わってしまうことがわかります。

放送やメディアに関わる方々の中で、ローカルな地域特性を一番よく知っている人は誰でしょう。これはコミュニティFMの方々なのです。しかも日頃から地域の人たちに情報を流しているので、地域の人々との信頼関係も築いておられる。ゆえに、コミュニティFMの関係者に、災害や防災に関する理解度を向上してもらい、高い災害イマジネーションを持っていただくことができれば、全国放送や都道府県をエリア単位とするメディアでは決してできない災害報道や防災情報の提供が可能になるのです。つまり、地元の地域特性に基づいて、あるハザードが襲ったときに、時間経過とともに起こる可能性の高い現象を踏まえた上で、時間先取り、現象先取りで、地域住民の皆様にとっていただくべき行動を伝える防災行動誘導型の報道が可能になり、より効率的に被害を軽減することができるということです。コミュニティFMの関係者には、この大きなミッションを強く意識していただきたいですし、そのためにハザードと地域を知る努力、さらに「災害イマジネーション」を向上するように努めていただきたいのです。

大手マスコミの皆さんも、コミュニティFMの人たちのようなきめ細かな情報を流すことはできませんが、大きな範囲を対象としたものでいいので、コミュニティFMの人たちが有効に使える情報をぜひ流して頂きたいと思います。その情報をローカルな地域特性を理解し、災害イマジネーションの高いコミュニティFMの人たちが自分の対象地域に翻訳して使えばいいのです。

もう一つマスコミの人たちの姿勢として問題だと思う点は、「自分たちが取材した情報はフレッシュで、これを流せばきっとみんな喜んでくれるだろう」と思っている点です。言い方を変えると、情報を流す前に、「その情報が、誰が、いつ、どんなことをするために、どんな粒度(時間と数量と空間の精度)で必要なのか」の分析が全然できていないということです。

災害の度にいろいろな情報がマスコミを介して流されますが、それぞれの情報が誰向けに、どういう目的(活動)のために流されているのかが事前に十分議論されていないために、有効に活用できないことが多いのです。では、どのように分析すればいいのか。具体的には、それぞれの情報に対して、「時間経過とともに、誰が何の目的で必要になるのか、その時に求められる粒度はどのレベルか」を合理的に整理することです。この手法に関しては、私が具体的な分析法を提案する論文を書いていますので、それをぜひ読んでいただきたいと思います。今日は時間の制約から説明は省略しますが、私の分析法を用いていただければ、上記のような視点からの情報の整理ができるので、その整理結果に基づき、その情報が必要になる少し前に、必要な粒度で提供すれば、それを活用して、それぞれの組織や人々が適切な対応ができるようになります。

一方で、情報の受け手側も「災害イマジネーション」があるかないかで、行動は大きく変わります。同じ情報を受けても、それをきちんと理解して、自分にとって有効に使える人と使えない人が出てきますので、各人が災害イマジネーションを持つことが重要です。本来は、これを防災教育で培うべきなのですが、実際は「Aやれ、Bやれ、Cやるな」的な訓練を行い、参加者に思考停止させているので、災害イマジネーションを持つことをむしろ阻害しています。現在、効果的な防災対策が立案され、実施されていない背景には、私は2つのスパイラルがあると思っています。一つは、「災害時に何が起こるかが分からない、だから何をやっていいか分からない、だから何もやらない」というもの。そしてもう一つは、「災害時に何が起こるかが分からない、だから効果のある対策が立案・実施できない、ゆえに効果が限定的になる」というものです。いずれの場合には、最初に「何が起こるかが分からない」というのがあるので、これを変えない限りは、防災対策は絶対にうまくいかないと私は考えています。

災害イマジネーション力を付けるために

災害のデパートと言われる日本であっても、時間や地域を限定すると一定規模以上の災害の発生頻度はそれほど高くありません。ゆえに、コミュニティFM放送局においても、それほど頻繁に大規模災害を体験することはありません。ゆえに実体験の無い中での対応を求められるので、適切な対応が難しいということになります。この構造は、市町村などの自治体の防災対策の人たちも全く同じです。では、どのようにするのがいいか。

基本は、ある地域で体験されたことを他の地域で有効に活用できるような仕組みを作ることです。ですから、コミュニティFMの皆さんも他局とうまくネットワークを構築し、教訓を共有することが大切です。ただし、何度も繰り返し説明しているように、災害の様相は地域特性や季節や曜日、発災時刻などの時間的な要因で大きく変わるので、他地域の教訓をそのまま利用することはできません。そこで、他地域の教訓を自分たちの地域に置き換えて考えてもらう仕組みも合わせて情報共有し、それをみんなで効果的に利活用できる環境を早く作るべきだと思っています。

それで現在その仕組みづくりをしています。具体的には、コミュニティFMで毎週日曜日の14:00-14:55に「みんなのサンデー防災」という番組を持ち、防災に関する様々な情報をお伝えするとともに、全国のコミュニティFM局を連携し、防災に関する経験を蓄積するとともに効果的に利活用していただけるデータベースの開発を進めています。これからどんどん環境が整備されると思いますので、全国のコミュニティFMの方たちにもメンバーになっていただいて、情報提供してもらうとともに、皆で共有した情報を効果的に利活用してもらいたいと考えています。多くの皆さんに参画してもらえば、データベースもどんどんリッチになり、より使っていただきやすくなると思います。

近い将来、関東地方にも大地震が起こるかもしれません。それに備えて、コミュニティFMの関係者の方々に、ぜひ「災害イマジネーション」を向上させていただきたいと願っています。市民の皆さんも、情報を鵜呑みにするのではなく、その中から適切なものを抽出して理解し、自分の立場でうまく使えるようになって欲しいと願っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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