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防災インタビューVol.213

作業療法士の視点から見た防災・避難生活

放送月:2023年5月
公開月:2023年8月

野本 義則 氏/清野 由香里 氏

東京医療学院大学 保健医療学部 作業療法学専攻 准教授
一般社団法人 神奈川県作業療法士会 理事/

一般社団法人 神奈川県作業療法士会 広報部 対外広報班

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

(清野 由香里 氏インタビュー)

プロフィール

私は作業療法士の清野と言います。作業療法士はリハビリテーション専門職のひとつです。リハビリテーションというと、身体のトレーニングを思い浮かべる方も多くいらっしゃるかもしれませんが、実際の作業療法では、身体の機能・心の機能・認知機能といった基本的な能力が低下した面に対するトレーニングだけではなく、基本的な能力を踏まえて、食事やトイレ、生活で行われるすべての活動が、その人らしく実現できるように「生活」に対する支援も行います。また、働くことや就学など、社会生活を営む上で必要な支援や調整を行うのも作業療法士の役割のひとつです。

分かりやすい事例として「利き手に力が入らない」お一人暮らしの高齢女性を例にとりますと、「なぜ力が入らないのか、関節がこわばるのか、筋力の問題なのか…」その方がどのようなご病気を有しているのかも加味した上で、必要なトレーニングの計画を行います。また、力が入らないことにより生活での困りごと、例えば利き手の場合はお箸が持てるのか、または食事準備で包丁を用いて料理ができるのか、雑巾を絞ることができるのか、これまで買い物はどのようにしていたのかなど様々な活動にも着目し、困っている動作があればどうしたら活動が再獲得できるのかを考えて、多面的に支援していきます。

リハビリテーションの視点からみた災害 ―地震と危険な在宅環境

作業療法士の視点で災害発生時にどのようなことが危ないのか、実際に東日本大震災後の避難所生活での困りごとはどのようなことがあったのかについて、私の実体験を踏まえて2つの要点でお話させていただきます。

まずひとつ目は、東日本大震災の日に感じた在宅環境の危険についてです。当時、私は青葉区江田にある脳神経外科病院に在籍し、訪問リハビリテーションに従事していました。3月11日の午後は、高齢ご夫婦のリハビリのため、マンションの8階にお伺いしていました。発災時、マンションの8階はとても揺れ立っているのもままならないほどでした。すぐにその場に座るように誘導し、頭を守るようにクッションをご利用者様にあてがいました。

その時、最も驚き恐怖を感じたのは、サイドボードに置いてあったランプが大きく揺れたことによって助走をつけて目の前を飛んできたことでした。幸いご利用者様にも当たらず、床に落ちたので怪我はありませんでしたが、ランプシェードが割れてカーペットの上に破片が散らばりました。ご利用者様が「破片を踏んだら危ないので拾いますね」とベッドから立ち上がり、おもむろに屈もうとしたので、「まだ揺れもおさまっていないので、座っていてくださいね。靴下で歩くのはとても危ないので、靴を持ってくるのでそれまでは座っていてください。」とお願いしたのを覚えています。また、他にもタンスの上に置いてあった箱や、開き戸の食器棚からコップなども落下し、割れ物が散乱しました。

私はこの後も、ご夫婦に怪我がないようにとばかり気を取られていましたが、すこし揺れが落ち着いた頃、奥様が玄関までどうにかたどり着き、玄関のドアを開けてくださいました。奥様が「ここは8階だからドアが開かなくなったら大変だものね。」とおっしゃったとき、私はそこまで気が回らなかった、と大きく反省したのを覚えています。

リハビリテーションの視点からみた災害 ―東日本大震災後の避難所生活の困りごと

ふたつ目は避難所生活での困りごとについてお話します。私は日本作業療法士会による東日本大震災災害派遣活動として、2011年6月に岩手県釜石市大槌町に、災害医療班の一員として活動させていただきました。3月の発災後、3ヶ月経過したとはいえ現地は道路の脇には流されたご自宅の跡や津波の跡に、プロパンが発火し焼けた壁や小学校の半分が黒く焼け焦げている様子など、大変な環境が目の前にありました。今でも忘れることはありませんし、忘れてはいけないと感じています。

そして避難所では、避難生活の長期化による影響として様々な生活の困りごとが見受けられました。思い出すとおひとりおひとりのエピソードに言葉につまりそうになりますが、医療班として避難所・仮設住宅にお伺いした経験から困りごと・リスクについてお話しさせていただきます。

地震や津波によって、様々なご事情で活動機会や、気力・体力ともに低下した方が多くいらっしゃいました。また、足腰が弱いご高齢者が避難所生活によって転倒したり、転倒した恐怖心から更に活動範囲や頻度が低下した方も多くいらっしゃったように思います。このような場合、発災後から継続的に筋力や認知機能が低下したことによって、運動機能の低下、うつのリスク・認知症などのリスクが高まります。医療班では避難所担当の保健師と連携しながら様々な専門職がサポートを継続支援しました。

次に、避難所生活についてお話しします。狭い生活スペースによって体の痛みや転倒、共用のトイレやシャワーによって衛生面や健康面の弊害も見られました。特に体育館などの避難所では板の間にマットレスでの寝泊まりとなり、腰痛が発生したり物につまずいて転んだり、何度もトイレに行くのが面倒なために飲水を控えて脱水症状のリスクが発生したり、賞味期限のある食料をため込んでしまったことで衛生面を心配される方もいらっしゃいました。医療班では、このような心身の健康面の支援継続も行っていました。

お伺いした時期は仮設住宅への移行期でもありましたが、新しい環境に慣れることに苦労している方も多くいらっしゃいました。仮設住宅は学校の校庭に設置する場所が多く、舗装されていない場所がほとんどです。そのため、段差・砂利道などによって物資を配布する場所までの道のりに苦労するご高齢者をお見受けしました。また、避難所では支援の目がありましたが、仮設住宅に移動すると支援の目は避難所ほど密ではなくなります。ひきこもりや自殺、それから心身機能低下のリスクも避難所から異なる面も出てきました。

医療班でできたことや、引き継がれたことなど様々ありますが、実際の被災地で起きていた困りごとの一部を紹介させていただきました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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