1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 作業療法士の視点から見た防災・避難生活
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.213

作業療法士の視点から見た防災・避難生活

放送月:2023年5月
公開月:2023年8月

野本 義則 氏/清野 由香里 氏

東京医療学院大学 保健医療学部 作業療法学専攻 准教授
一般社団法人 神奈川県作業療法士会 理事/

一般社団法人 神奈川県作業療法士会 広報部 対外広報班

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

(清野 由香里 氏インタビュー)

発災後の避難生活のこころがけ ―避難生活で起こりうること

まず、ここ横浜市青葉区周辺で避難を要するような災害について、どのような災害が考えられるでしょうか。一番心配なのはやはり地震です。巨大地震による家屋倒壊の恐れなどによる避難、そして地震のほかにも、豪雨災害や土砂災害などが考えられます。その際には、電気やガス、上下水道といったライフラインが絶たれ、復旧するまでの期間の避難生活が必要となる可能性もあります。そして、津波の場合は広範囲で全ての地域が避難生活となりましたが、この横浜地域での避難生活を考えたとき、「避難する地域、避難しない地域がでてくる可能性があること」そして、「避難をする方々、支援する側に分かれること」も想定されます。

では、災害が発生した時、健康の側面からみて避難生活ではどのようなことが起こりうるでしょうか。避難所にしても、自宅避難にしても、生活環境の変化点として「移動するきっかけが少なくなる、自分で活動する機会がなくなること」、「災害後の様々な支援活動を受ける」といったことが挙げられます。そして、このような環境の変化は、避難をする方の身体や気持ちにも影響が出てきます。例えば身体の変化として、「出掛けるきっかけが少なくなると避難所ですることがないのでじっとしている」そうなると、体力や筋力の低下、ひいては歩行能力の低下や転倒リスクが高まることにもつながります。なかにはエコノミー症候群といって、足の血管に血栓が発生することによって、心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な病気の引き金にもなりかねません。先にもお話ししたように、なるべくトイレに行かずに済むようにと飲水を控えると、これも脱出症状や心筋梗塞、脳梗塞といった病気のリスクが高まります。

こころの変化としては、避難生活というご不安や様々な喪失感によって、考え込んだり、ぼんやりすることが増えたり、支援を継続的に受けていることで、やってもらうことに慣れてしまうといった気持ちの低迷・依存的な心理状態が引き起こされます。このような状態は「生活不活発病」ともいい、そのまま放っておくとどんどん負のサイクルになり、さらに様々な心身機能の低下につながるところが怖いところです。ぜひ知っておいていただきたいのですが、この避難生活という特殊な環境によって、年齢や性別を問わず、元気な方でも、このような心身の変化は起こりうるということです。

発災後の避難生活のこころがけ ―支援する側・避難する側それぞれのこころがけ

対策としてのこころがけについてお話ししたいと思います。大きく2つの側面があります。「支援をする側」そして「される側」の心がけという2点です。それぞれのこころがけについてお話しさせていただきます。

まずは「支援する側・ボランティア側」のこころがけについてです。避難されている方に対して支援をする側というのは、「自分ができることは、何でもやって差し上げたい」と奉仕の気持ちが大きくなりやすいのですが、とても大切なのは必要以上に介入しないということです。「ボランティアの鉄則」ともいわれています。支援は、一時ではなく、常に様々な方がかわるがわる交代でやってきます。「先週来た人はこんなにやってくれたのに」とか「あの時はあんなにやってくれたのに」とならないようにどういった支援がどのように必要なのかを共有することが大切です。

ひとつエピソードを紹介しますと、東日本大震災後の被災地支援活動で、とある避難所で保健師がこのようにおっしゃっていたことを覚えています。「先月、とあるボランティア団体が来てくださったのですが、その際、Aさんにマッサージを施して帰られた後から、Aさんは「これからもやった方がいいですよ。」と言われたのでやってもらえませんか」とおっしゃるようになりました。ご説明して、ひとまず納得してくださっていますが、保健師や医療従事者は避難所にいる全員に毎日マッサージをしていたら、正直きりがありません。身体的要因で、医療の介入が必要と把握しているのはこちらの方たちですので、それ以外の方はまず関わる前にご相談ください」とのことでした。ここで言いたいのは、Aさんの言動が依存的であるということではありません。Aさんは対応してくれたボランティアからマッサージを受けることができて、「その後もやってもらった方がいいですよ。」と言われたし、やってもらいたいと感じた結果、このような状況に至ったということです。ボランティア側はよかれと思ってとった言動でも、その後の支援者や支援を受けるご本人にわだかまりをのこしては本末転倒です。

以上が、避難生活を支援する側のこころがけが、避難される方に影響を与えるという例え話でした。

次に、「避難する側」のこころがけについてです。被災した時の場所によって、避難する場所が異なります。そして、避難所の規模によって、個人にあてがわれるスペースや環境は様々です。体育館のような広く・空調が整いにくい場所もあれば、公民館のような割と仕切られて、絨毯や畳のスペースのところもあります。しかし、残念ながら避難する方は場所もスペースも選べる状況ではなく、避難生活では持病の悪化や腰痛などといった身体の影響が出やすい環境とも言えます。

そのため、「ご自分で体の変調を確認・報告できるようにこころがける」ことが大切です。避難所には、そこに避難される方々の健康確認のために担当する保健師の方がいます。東日本大震災の時、岩手県釜石市大槌町では、全国から派遣されてきた保健師が、全避難所を分担対応していました。そして災害対策の医療チームは、避難所に訪れるとその担当保健師と打ち合わせをしてから個人をまわります。速やかに医療チームへ健康状態が伝わるためにも、ご自身の体調の変化や相談がある時には、まず担当保健師に報告・連絡・相談をする、ということを覚えておいてください。

そして、生活不活発のリスクに対してのこころがけとして、避難所では体操する時間を設けることもありますので、参加することをお勧めします。また、意識的に歩くことや階段昇降、床の生活になると猫背になりやすいので、伸びをしたり背中をしっかりと伸ばすストレッチ運動もおすすめです。

そして、このような避難生活において、作業療法士は災害対策の医療チームの一員となり、生活動作や心身の困りごとに寄り添って提案や支援ができる専門職です。避難所生活・自宅避難生活・仮設住宅での生活などでの困りごとに対して、医療チーム内で連携しながら避難する方へ寄り添い困り事を解決してまいります。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針