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防災インタビューVol.213

作業療法士の視点から見た防災・避難生活

放送月:2023年5月
公開月:2023年8月

野本 義則 氏/清野 由香里 氏

東京医療学院大学 保健医療学部 作業療法学専攻 准教授
一般社団法人 神奈川県作業療法士会 理事/

一般社団法人 神奈川県作業療法士会 広報部 対外広報班

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

(野本 義則 氏インタビュー)

災害時の避難誘導の工夫 ―住環境の工夫

清野さんがお話された東日本大震災の実体験から整理していきたいと思います。清野さんは発災時に訪問リハビリテーションでご高齢者の夫婦のご自宅、マンション8階のお部屋にてリハビリテーションを行っている最中でした。清野さんのお話では、食卓付近では食器棚の鍋や皿が崩れ落ち床や廊下に散らばり、リビング付近では本棚や花瓶、タンスの上に固定しないまま積み上げていた箱、サイドボードの上にあったルームランプなどが落下し、あわやのところで体には当たらなかったものの、それらの破片が散らばり室内での移動の妨げとなるなど、危険な状況になってしまったということでした。

これらへの対策としては、揺れで扉が開かないように固定器具を利用する、タンス・棚はしっかりと固定する、固定できないものは落下しても自分に当たらないような場所に配置するなど、災害時を想定した基本的な対策をまずはしっかりと行うことをお勧めしたいと思います。

また、避難する際にすぐ履けるよう、屋内にも履物の準備があると安心です。履物は、硬いものを踏んでも痛くない靴底や、かかとのあるものをおすすめします。散乱したもので室内は危険な、それこそ足の踏み場もないような状態となったということでした。高齢になると歩幅が狭くなることが多く、物をよけながら歩くということも困難で、そのような歩き方は転倒のきっかけにもなります。したがって、災害時には玄関で靴を履くのではなく、自宅の中から靴を履いて移動すること、その準備として屋内に履物があると良いでしょう。

災害時の避難誘導の工夫 ―障害を抱えた方のための工夫

高齢者にしばしば見られる障害を抱えた方のための工夫を考えていきましょう。加齢にともなって聞こえづらさ、難聴といった聴覚障害が見受けられます。災害発生時は、テレビやラジオ、携帯電話、災害放送など様々な形で災害発生や避難誘導の情報が発信されます。しかし聞こえづらさがあると、このような音による情報、もっと端的に言えば「逃げろ」という声が聞こえづらい、聞こえない、といった状態になります。そこで、視覚的情報、すなわち目で見える形で、災害発生を伝え避難誘導を促す工夫が求められます。

近年では災害情報を電光掲示板のような文字情報で、またフラッシュや回転灯などの光で、聞こえづらさを抱えている方に伝える方法が開発されています。また、身近なところでは携帯電話やスマートフォンなどの災害情報の着信を光で知らせるような設定もあります。このような光や文字などの情報が活用できるような工夫を準備すると良いでしょう。

また、聞こえづらさを抱えている方を避難誘導する際には、大きな声だけではなく、ゆっくりそして口を大きく開ける、身振り手振りのジェスチャー、筆談の場合は、文を短くすることを心がけてください。早口や声を荒げるだけでは、十分な情報が届けられません。

次に、視覚の障害についても考えてみましょう。加齢にともなって老視や明暗順応の悪さといった見えづらさや、白内障や緑内障といった失明にもつながる疾患の発症率が高くなります。清野さんの震災時の体験では、物が散らばったりして、普段生活している廊下や通路も危険な状態となっていました。そうならないように、居室・寝室など家の中や玄関付近といった場所の整理整頓を心がけ、万一の際に物が散乱しないようにしっかりと固定しておくこと。また、見えづらさを抱えている方は普段の生活の経験から見当をつけて、室内などを移動されることがあります。なので、家の中の物の配置を一定にしておき、もし変更した際には必ず見えづらさを抱えている方と移動のための動線などを確認しておくと良いでしょう。

さらに、見えづらさ、聞こえづらさといった感覚に関する障害は、周囲の人から気付かれづらいという特徴があります。援助してくれる方や周囲の方に、ご自身がどのような手助けが必要なのか分かるように、避難時に持ち出す物の中に「お助けカード」「ヘルプマーク」といったもので周囲に伝えられるように用意しておくと良いでしょう。

また、自力での避難が難しく支援が必要な方は、避難行動要支援者名簿に登録しましょう。登録の詳細は、お住まいの市町村にお尋ねください。

災害時の避難誘導の工夫 ―認知症症状を抱える高齢者の対応

次に「認知症の症状を抱える高齢者の避難誘導をする際の工夫」について考えてみましょう。まず認知症についておさらいをしておきたいと思います。

私たちは、これまでの経験や知識を基にして、今目の前で起こっていることを正確に認識し、その場その場に合わせて情報を整理して適切な判断を下して行動しています。この機能が認知機能で、 私たちの脳がその機能を担っています。認知症では、この情報を処理したり判断を下したりする脳が様々な原因、代表的なところではアルツハイマー病や脳血管性認知症といった脳の病気により困難となってしまいます。

認知症というと記憶・物忘れについて注目されることが多いですが、それ以外に知識や言語、理解や注意力など、様々な脳の機能が障害されてしまい、情報を集めて正しく分析判断し行動することが困難になってしまいます。具体的には、食事をしたのに「食べていない、食事が出されない」といったような記憶に関することに加えて、自宅に居るのに「家に帰ります」と言って外に出歩くといった行動が見られ、家族は対応に苦慮したりします。これは見当識障害と呼ばれる状態で、その場その場に合わせた行動が困難になる、適切な判断が難しくなります。すなわち認知症を抱える高齢者は、その場その場に合わせた行動、状況の変化に対応することが難しくなります。

大規模災害の発生は急激な環境変化と言えるでしょう。すると、認知症を抱える高齢者は、その急激な環境の変化に対応することが困難になり、場合によっては不安や興奮といった、いわばパニックの状態になることも考えられます。そのような状態になると、避難のために移動することさえも拒否されたり、激しく抵抗されたりすることも考えられます。

もちろん毅然とした対応も大切ですが、認知症を抱える高齢者の避難誘導の際には、特に安心していただくことを心がけていくことが重要となります。避難の場面ですから、避難誘導する側も緊張していますし、ついつい大きな声で厳しい表現になってしまうこともあるでしょう。しかしそういう時こそ、いつもと変わらない口調や会話の内容が非難をスムーズなものにしてくれることもあります。

例えば、強い口調での指示や強引に手を引っ張ったりして誘導するのではなく、「ここは騒がしいから、一緒に落ち着いて座れるところへ行きましょうか。私も一緒に行くので大丈夫ですからね」といった普段の会話と変わらないような声掛けや、避難誘導をさせたいと思っている方が良く知っていたり信頼していたりする人のお名前をお借りして、「○○さんもいらっしゃるところに行きますから、ご一緒していただけますか?」といった声掛けをするなどです。

先にお話しした、見えづらさ・聞こえづらさといった感覚機能の障害を抱えた高齢者の避難誘導では、ものの固定や置き方の準備といったどちらかといえば物理的な準備や対応が、認知症症状を抱える高齢者の避難誘導では、安心感や優しさといった心理的な準備や対応が求められてきますが、高齢者ではこれらの両方を抱えている場合も少なくありません。したがって、高齢者の避難誘導の工夫としては物理的・心理的の両面から準備と対応が求められるでしょう。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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