1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 作業療法士の視点から見た防災・避難生活
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.213

作業療法士の視点から見た防災・避難生活

放送月:2023年5月
公開月:2023年8月

野本 義則 氏/清野 由香里 氏

東京医療学院大学 保健医療学部 作業療法学専攻 准教授
一般社団法人 神奈川県作業療法士会 理事/

一般社団法人 神奈川県作業療法士会 広報部 対外広報班

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

(野本 義則 氏インタビュー)

プロフィール

私は作業療法士の野本義則と申します。普段は東京医療学院大学で作業療法に関わる研究と作業療法士の育成に努めています。また、神奈川県作業療法士会という作業療法士の職能団体で、災害対策にも関わる制度対策部という部門の担当理事もしております。

高齢者の特徴

高齢者が避難する際のこころがけ、その時のための準備について人の生活に関わる医療職である作業療法士の視点からお話をさせていただきます。まずは高齢者の特徴を確認しておきたいと思います。「高齢者の特徴とは?」「高齢者とは?」と言われた時、皆さんはどのようなイメージが浮かぶでしょうか。大学の講義で学生に同じような問いをすると、高齢者は我慢強い・物を大切にする・腰が曲がっている・シワがあるなどといった特徴が挙げられてきます。このような「高齢者とは」という一律な考え方は「ステレオタイプ」と呼ばれ、実は1人ひとりの高齢者の理解を妨げるといった問題点がある場合があります。

高齢期において、加齢にともなう心身機能の変化は誰にでも生じることでもありますが、その変化の程度は同じ年齢であっても個人差が大きいことが特徴と言えます。例えば、老化による聴力(耳の聞こえ方)の低下が生じることがありますが、その程度には個人差があり、高齢者だからといって必要以上に大きな声を出して声をかけたりゆっくり話したりすることで、高齢者の自尊心をそこなってしまう場合があります。

まずは高齢者の特徴として「心身機能の個人差が多い」ということを知っておきましょう。「個人差が多い」「ステレオタイプにならないようにする」ということを理解した上で、いくつかの特徴から高齢者の避難の際のこころがけとして、作業療法士の視点から医療的な面を考慮した避難時の重要なアイテムについて考えていきたいと思います。

高齢者が避難する際のこころがけ・準備―視覚を補助するもの

高齢期に入ると、いわゆる正常な老化現象として感覚器の視覚や聴覚の変化・衰えがみられます。先ほどは聴覚(耳の聞こえ)の話をしましたが、例えば視覚では老視(いわゆる老眼)となることがよく知られています。近くの物を見る時に焦点が合わなくなる、これに加えて明暗順応、例えば明るいところから暗いところへ入ったときに、目が部屋になじむまで見えづらく、次第に暗さに目が慣れ見えるようになりますが、老化に伴ってこの目が慣れるまでの時間が長くなっていきます。実際の避難所では自宅に比べて暗い場所が多いと言われています。そして、暗いといつも以上に見えにくく、つまずいたりするなど転倒のリスクも高まります。

そこで、高齢者が避難する際の重要なアイテムとして、視覚を補助するための老眼鏡などの眼鏡が大切になります。災害時には割れてしまったりすることもあるので、避難用に古い眼鏡や予備の老眼鏡を用意しておくと安心です。同時に、明るく照らせるような懐中電灯もあると嬉しいでしょう。

高齢者が避難する際のこころがけ・準備―トイレ対策グッズ

日々の生活の中では、高齢になるにしたがってトイレに関する心配事も増えてきます。膀胱の機能低下から頻尿になりやすく、特に夜間頻尿となることが多くなります。避難所ではトイレが共用のため、順番待ちで長く並ぶことが多くなります。また共用トイレは寒いこともしばしばで、できるだけトイレに行かなくて済むようにと、飲水を控えてしまう高齢者が多くなります。その結果、脱水症状や体内の水分不足が原因となり、脳梗塞や心筋梗塞などの大きな病気を引き起こすリスクが高まります。

そこで高齢者の避難時の重要なアイテムとして、トイレ対策グッズとして「おむつ」や「尿取りパット」それに加えて「経口補水液」の準備をおすすめします。これらを準備しておくことで、トイレ使用時の特に夜間のトイレ使用の不安が軽減され安心できます。すると、トイレのことを気にせずに水分を摂取することに繋がり、脱水などのリスクを軽減することができます。

水分は本人の好みに応じて飲みやすいものでも良いのですが、経口補水液は効率よく体に水分を取り込めるので脱水対策になります。ただし、この経口補水液は抱えている病気によっては飲めない方もいらっしゃいますので、その点は用意の前にかかりつけの医師に確認する必要があります。くれぐれも、「トイレを控えるために水分摂取を控える」といったことの無いようにお願いします。

高齢者が避難する際のこころがけ・準備―お薬手帳と薬の備蓄

次に高齢者の特徴として、慢性的な疾患を抱え、しかも複数の疾患を持っていることが多いということがあります。代表的なものとして、生活習慣病と言われるような高血圧症や糖尿病、脂質異常症などがあります。この慢性の疾患の多くは、生活指導を受けながら、食事療法や運動療法、そして薬物療法を組み合わせ、生涯を通じて療養を続けることがしばしばです。また、そのような慢性疾患を中心に高齢者は複数の疾患を持っていることが多く、先ほどの生活習慣病に加えて、白内障や難聴、骨粗鬆症や膝関節症などの整形外科的疾患が加わったりすると、ご自身の抱えている病気やどの薬が対応しているかなどがあやふやになってしまうことがあるようです。

そこで、高齢者の避難時の重要アイテムとして、「お薬手帳」と「いつものお薬のストック」をおすすめします。避難所では、かかりつけ医が診察してくれるわけではありません。 その時に役立つのが「お薬手帳」です。例えば、ご本人が避難所に往診に来た医師や看護師に「血圧を下げるお薬を1日2錠飲んでいます。」と伝えても、どのような作用で血圧を下げているお薬なのか、2錠といってもその薬の強さはどのくらいなのかが把握できません。お薬手帳があることで、医師や看護師は「何科の先生が、どのような薬を出しているのか」が一目見てわかりますので、避難時や避難所での生活の中でも、スムーズな継続医療支援を可能にする重要なアイテムとなります。

実際、東日本大震災の時では「お薬手帳はその方のカルテ代わりになった」とも言われていました。もちろん、お薬手帳は日頃から手元にある事が大切で、普段から持ち歩いた方がよいものでもありますが、その延長線として、災害時にもスムーズに持ち出せるように準備しておくと良いでしょう。

お薬手帳とともに、実際のお薬も避難時に持ち出すべき重要なアイテムとなります。災害後は、すぐにかかりつけ医にかかることが難しい状況にもなりかねません。東日本大震災の際では、関東圏においてもお薬の供給が十分ではない時期がありました。避難時に薬を持っていかないと、普段飲んでいるお薬が飲めなくなるといったことが考えられます。そこで、普段から薬を飲まれている方は、 3日~7日分の予備を持っておくことが重要です。この時、いつも服用する薬を3日~7日分手元に保管したままにするのではなく、3日~7日分を手元に予備として置きつつ、定期的に通院し、新しい薬をもらったらそれ以前にもらった薬を服用する、といったように手元にある予備の薬が常に新しい状態であるようにしましょう。このような方法をローリングストック法といい、非常食などの備蓄方法のひとつでもありますが、お薬についても同様に準備しておくと良いでしょう。

もしもの時の備えとして、いつでもすぐに持ち出せるようにご準備いただけたらと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針