1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. みんなで助かるための「みんなのヘルプカード」
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.217

みんなで助かるための「みんなのヘルプカード」

放送月:2023年9月
公開月:2024年1月

湯井 恵美子 氏

一般社団法人 福祉防災コミュニティ協会 理事
福祉防災上級コーチ

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

倉敷市真備町箭田地区でのヘルプカード作り ~3年目~

3年目の取組みとしては、初心に戻りひとりで逃げられない人の避難を自分たちでどう支えるのかについて議論を重ねていきました。ワークショップ参加者には、誰かの支援をする立場の方が多かったので、ロールプレイングの手法を使って「自分が誰かに支えられるという立場になったらどう考えますか」ということを仕掛けていきました。そのために、架空の人物として名前、性別、年齢、生活する上での困りごとや、体の障がいや経済的な困りごとなどを決めて、大きな災害が起きたらどう行動するかということを改めて考えてもらいました。

例えば、全国で高齢者や障がい者など避難に支援が必要な人を自治体が名簿化し、個々の避難計画を作る「個別避難計画」というものがありますが、その中で「ひとりでいる時間帯を教えてください」という質問をされることがあります。ひとりでいる時間を、あらかじめ人に言っておくことは非常に難しいことです。また、他人に共有することは防犯上も好ましくありません。なので、どう表現するかについてもワークショップの中で考えてもらい、「玄関先までひとりで出られるか」という判断項目を提案してくださいました。そこで「玄関先までひとりで出られるか」にチェックが入っている人は、自分で集合場所まで行けると判断し、チェックがつかない人は個別に鍵を預かるなど「隣近所で対応する」ということに決めました。

また避難先の議論も進み、ワークショップにより地震のメカニズムが分かってきたことで、水害の場合と地震の場合では避難先に求められる条件が違うということがよく分かってきました。水害では地区全体から出なければなりませんが、地震なら地震に強い建物に留まることが出来る。比較的新しい建物ならば耐震化が進んでいるので、留まれるのではないかという案が話し合いの中で浮かんできました。

私が防災の話をする時にはいつもこの箭田地区のワークショップについて宣伝するため、大阪をはじめ様々な地域の方たちが見学に来られました。箭田地区の皆さんは、他の市町の行政の方など、外部から来た人も仲間に引き入れて、一緒に真剣に議論ができる方たちでした。中には、一年を通して他県から参加された方もいて、外部の方が入るからこそ、より客観的に考えて行くことができもう一歩先に進んだのではないかと思っています。

ヘルプカードの運用について

このヘルプカードの取り組みの中で、私が1番お伝えしたいのは、作成したヘルプカードをどのように運用するのか、ということです。箭田地区では「自分たちで運用しやすいように」という言葉を合言葉にしています。「なるべく外部の支援者に頼らず、自分たちで出来ることは自分たちで行うことによって力をつけていくことになり、地区全体で助かることに繋がる」という事を信じています。そのため、特別な取組みをなるべく追加せずに、これまでに組織されていた自主防災会といった今あるものを使って避難のルール作りに取り組んでいます。

例えば、ゴミの集積場を一時避難場所とし利用することで、誰が逃げ遅れたかを把握することも出来ますし、30戸程度の小さな地区であることから人数がそれほど多くないため、車が何台あれば乗せて逃げられるかということもすぐに把握でき、とても現実的です。どこの場所に避難する、そのためにどういう手段を使って、どういう人たちとこれを更新・運用していくかという作業は、地区防災計画と一致します。これは、本当素晴らしい取り組みだと思います。

また、1年目の議論の中で、「平成30年の水害の時には全員支援が必要な状態になった」という意見がありました。そこで、このヘルプカードは障がいのある方や高齢の方だけが持つのではなく、地区内の全ての人が、子供からお年寄りまで家族単位ではなく、個人で持つことに決まりました。

今ではワークショップに参加していた学校の先生から、ワークショップ参加者に学校の出前授業に出てヘルプカード作りを子供たちに教えてほしいというご依頼がかかるようになりました。子供たちがヘルプカードを書いて夏祭りに持っていくと、役員が記入内容を確認しお茶やジュースがもらえる取り組みも行われています。祭りという楽しい場所で、きちんと適切な避難場所が書いてあるかどうかを役員がさりげなくチェックをすることができています。

現在、ヘルプカードだけではなく、避難所チェックインカードというものも作成しています。これは、事前に名前や必要事項を記入しておくことで、避難所の受付で自分の名前を提示することが出来たり、必要な時に必要な情報を提示することができます。カードのケースについてもビニール製のケースなので雨天の避難時にも安心して持っていけるような工夫がされています。今は、紐の色でお手伝いする内容が分かるように出来ないかと話し合いを行っているところです。

箭田地区のヘルプカードの取り組みはこの先もまだまだ続いていきます。みんなで長期的に取り組むために、真備町に地区防災計画として提出したいという意見も出てきました。避難先や緊急避難場所、緊急時は一方通行にするという避難のルールなどを、町に整えてもらう際にも取り組みやすくなるのではないかと考えています。

私としても、個人的に箭田地区の取り組みをこれからも応援していきたいと思っています。この取り組みを聞いて、自分たちの地区でもやってみたいと希望される方は、箭田地区へいつでも見学に来ていただけたらとても嬉しいです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針