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サイバーセキュリティで日本が遅れる理由とは?今すぐ始める強化プラン

サイバー攻撃が日常化する今、企業のセキュリティ対策は技術部門だけの課題では済まされなくなっています。特に日本企業は、国際比較で「対応が遅れている」と指摘されることもあり、ランサムウェアや情報漏洩の被害が後を絶ちません。

にもかかわらず、経営層の理解不足や組織の硬直性により、必要な対策が進まず「分かっているのに動けない」状態に陥っている企業も少なくないのが実情です。

本記事では、日本企業のセキュリティ対策がなぜ進みにくいのか、その背景をひも解きながら、経営層にも理解・納得してもらいやすいアプローチと、実行に移しやすい強化策を紹介します。

日本のサイバーセキュリティは本当に遅れているのか?国際評価と実態

日本企業のサイバーセキュリティ対策は、制度整備こそ進んでいるものの、運用面では国際的に後れを取っていると指摘されています。

このセクションでは、海外の評価機関による客観的な評価と、国内企業が実際に受けている被害の実態をもとに、日本の「遅れ」を明らかにします。

日本の制度整備は進んでいる

日本は、制度整備の面では高い評価を受けています。ITUの「Global Cybersecurity Index (GCI) 2024」は順位表を廃し、各国を五段階のティアで分類しましたが、日本は米国・豪州などと同じティア1(Role-modelling)に入りました。制度・組織体制・国際協力の5分野で上位水準と評価されています。

サイバーセキュリティ面では低評価

一方、能動的サイバー作戦能力の不足は課題です。IISS「Cyber Capabilities and National Power 2021」では、日本はTier 3にとどまり、憲法や政策の制約が攻撃能力の成熟を妨げているとされました。

企業の対策も遅れが目立ちます。Cisco「Cybersecurity Readiness Index 2024」では、成熟段階に達した日本企業は2%にとどまり、世界平均を下回りました。多くが初期段階にあり、クラウド防御やID管理が弱点とされています。

さらに警察庁によると、ランサムウェアの被害報告は2024年には222件、上半期だけで114件が確認され、ダークウェブへの情報流出も多数発生しています。

2025年5月に成立した能動的サイバー防衛法では、国外の攻撃基盤への能動的防御が初めて法的に認められましたが、人材は不足が多く、運用体制の強化が急がれています。

【関連記事:サイバー攻撃とは?動向・目的・種類・被害事例とセキュリティ対策

日本企業が今、直面しているサイバー脅威とは

サイバー攻撃は年々巧妙化・多様化し、企業を取り巻く脅威は一段と深刻化しています。IPAが挙げる主要な脅威としては、ランサムウェア、サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃、システムの脆弱性を突いた攻撃などが挙げられます。

特にランサムウェアは、データを暗号化しないノーウェアランサムや多重脅迫型攻撃も増加しています。

日本企業はこれらの脅威に対し、グローバル平均と比較してサードパーティ経由のサイバー攻撃の被害割合が約48%と突出して高いという実態が報告されています。

これは、サイバー保険の加入率の低さ、中小企業のリソース不足による対策の不十分さ、そして日本型サプライチェーンにおけるサードパーティ管理の遅れなど、企業が無防備な状態にある側面が原因と考えられます。

また、攻撃手法の巧妙化により、被害に気づきにくかったり表面化しにくかったりすることや、サードパーティ管理の遅れがインシデント発生時の迅速な対応や情報公開を難しくしている可能性も指摘されています。

結論として、日本の企業は事前対策だけでなく、被害発生後の対応や情報公開においても、課題を抱えているのが現状といえます。

【関連記事:情報漏えい対策の必須知識!現状と原因別の事例や対策を徹底解説

なぜ日本企業はセキュリティ対応が進まないのか?構造的な原因を解説

日本の企業がサイバーセキュリティの強化に向けた必要性を認識していても、実際の対応が進まないケースは少なくありません。その背景には、経営と現場の間にある認識のギャップや、組織内に根付く硬直的な意思決定構造など、複数の要因が複雑に絡んでいます。

ここでは、企業内でセキュリティ対策が停滞してしまう根本的な原因について、2つの視点から考察します。

経営層の意識と投資判断に潜むリスク

日本企業におけるサイバーセキュリティ投資は、海外と比較して少ない傾向にあります。
多くの企業では、セキュリティ対策を「利益を生まないコスト」と捉えており、積極的な予算措置が取られにくい状況です。

経済産業省「情報セキュリティ政策レビュー(2022年)」によれば、経営層のうちおよそ3割が「セキュリティ対策はIT部門の責任」と回答しており、経営課題として正面から取り組んでいる割合は限定的です。

さらに、JUASの企業IT動向調査では、「同業他社と同程度の対応で十分」と考える企業が7割を超えており、他社に遅れを取らなければ良いという横並び意識が新たなリスクを生んでいます。

このような認識のままでは、サイバー攻撃の高度化・巧妙化に対して、対応が常に後手に回ってしまいます。

組織の硬直性がセキュリティ強化を阻んでいる

組織構造や意思決定のフローにも、セキュリティ強化を妨げる要因があります。日本企業では導入にあたって稟議制度を採用しているケースが多く、1つのセキュリティ施策を実行に移すまでに複数の部署・役職者の承認が必要となります。

このプロセスは、平均して3〜6か月かかることもあり、その間に新たな脅威が発生・拡大する可能性もあります。

また、セキュリティ担当部門とITインフラ部門、業務部門との間に情報共有の壁があるケースも珍しくありません。現場で発生したインシデントが経営層まで迅速に共有されず、対策判断が遅れることで被害が拡大することもあります。

縦割り構造と意思決定の遅さが組み合わさることで、サイバー攻撃への機動的な対応が困難になっているのが実情です。

経営層の理解を得るには?説得に効く3つのアプローチ

セキュリティ対策の必要性を現場がいくら感じていても、最終的に動かすべきは経営層の意思決定です。そのためには、単なる危機感の共有だけでなく、経営の視点からも納得できる材料を提示することが不可欠です。

ここでは、数字・比較・法令という3つの切り口から、経営層への効果的なアプローチを紹介します。

数字で示す:被害額と投資対効果(ROI)

経営層が最も重視するのは「費用対効果」です。サイバーセキュリティ対策を単なるコストではなく、将来的な損失を防ぐための投資として説明することが重要です。

例えば、JNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の調査によれば、Webサイトからの情報漏えいによる平均被害金額は約3,843万円(クレジットカード情報および個人情報の場合)、個人情報のみの漏えいでは約2,955万円とされています。業種や事故規模によっては、損害額が数億円に及ぶケースも報告されています。

一方、セキュリティ体制整備に必要な初期投資は数百万円〜1,000万円程度に収まることが多く、「リスク1件を回避するだけで投資が回収できる」という明確なROIを示せます。

また、取引先や公共案件では、セキュリティ水準が入札条件や継続契約の前提になることもあり、対策の有無が事業継続そのものに直結する点も強調すると効果的です。

比較で伝える:業界ベンチマークとのギャップ

経営層は「自社が周囲と比べてどうなのか」に強い関心を持っています。そこで、業界平均や競合他社の取り組みをベンチマークとして提示すると説得力が増します。

例えば、日経クロステックの調査によれば、EDR(エンドポイント検知・対応)の導入率は54.7%です。また、ネットアテストのゼロトラスト実態調査2023によると、IDaaS(ID管理サービス)の全社的な利用率は20.2%となっています。

こうした数値を示しながら、「自社の導入状況は平均より遅れている」「競合が次々とゼロトラスト化を進めている」と伝えることで、対応の遅れが企業価値や競争力の低下に直結することを理解してもらいやすくなります。

さらに、競合企業のIR資料や導入事例を添えて説明することで、より具体的なイメージを持ってもらうことができます。

ルールで押さえる:法令・コンプライアンス視点の訴求

法令やガイドラインの遵守は、経営判断に直結する重要な要素です。特に金融・医療・通信などの業界では、セキュリティ対策が法的に求められる水準にまで引き上げられています。

金融庁が示す「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化の方針」では、サイバーセキュリティの基本方針を取締役会で決議することや、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の設置が推奨されています。

これらに対応していない企業は、行政指導や社会的信用の失墜リスクを抱えることになります。また、ISMS(ISO/IEC 27001)などの外部認証取得も、法令だけでなく信頼性確保の観点から不可欠な対策として訴求できます。

セキュリティ強化は段階的に進めるべき?実行しやすいステップとは

サイバーセキュリティ対策は、1度にすべてを整えるものではありません。自社のリスク状況や業務実態に応じて、優先順位をつけて段階的に進めることが現実的かつ効果的です。

このセクションでは、最初の1歩として取り組みやすい施策と、長く続けるために必要な組織設計のポイントを紹介します。

すぐできる初期対策:まずは「基本の徹底」から

多くのセキュリティインシデントは、基本的な対策の欠如から発生しています。そのため、まずは以下のようなシンプルで即効性のある施策から始めるのが有効です。

  • OSやソフトウェアの最新状態の維持(自動アップデート設定の確認)
  • アンチウイルスソフトの導入と定義ファイルの定期更新
  • 社内ネットワークに対するファイアウォールの設定と見直し
  • 管理者アカウントの適切な権限管理とログイン履歴の監視
  • 定期的なパスワード変更と多要素認証の導入

さらに、従業員教育も欠かせません。標的型メールへの注意喚起、ファイル添付の取り扱い方、インシデント報告のルール整備など、社員のリテラシー向上によって内部からのリスクを抑えることができます。

これらはすぐに取りかかれる内容ばかりであり、初期コストも比較的抑えられるため、経営層にも提案しやすい対策です。

組織文化に合った運用で、継続可能な体制を作る

サイバーセキュリティ対策は1度実施して終わりではありません。継続的に見直し、改善し続けるためには、企業文化に合った運用体制を構築することが重要です。

日本企業では「報連相」や「根回し」といった文化が根強くあります。これらをセキュリティにも応用し、現場の気づきを共有しやすい風土を作ることで、早期の脆弱性発見と対応につながります。

また、「改善活動」や「5S」などの業務品質向上施策とセキュリティを連動させることで、違和感なく社内に定着させることができます。

以下のような取り組みが効果的です。

  • 月次でのセキュリティ改善報告会の開催
  • 部門代表による横断型のセキュリティチームの設置
  • インシデント共有ポータルの運用
  • 成果が出た施策の社内表彰や共有によるモチベーション強化

重要なのは、IT部門だけに任せず、全社的な責任として取り組む体制をつくることです。「セキュリティは全員の責任」という意識を醸成することが、継続的な強化の鍵になります。

モバイル閉域接続とBoxを使った現場レベルのセキュリティ強化策

企業のセキュリティ対策は、社内ネットワークだけで完結するものではありません。リモートワークや外勤、クラウドサービスの活用が常態化した現在、社外環境でも社内と同等の安全性を確保できる体制が求められています。

ここでは、そうした「現場レベルのセキュリティ強化」に役立つ具体的な手段として、イッツコムが提供するモバイル閉域接続とBoxソリューションの活用方法を紹介します。

社外接続でも安心:モバイル閉域接続

リモートワークや出張先などから社内システムへアクセスする際に、もっとも懸念されるのが通信経路におけるリスクです。特に、カフェや空港などで公共Wi-Fiを利用すると、盗聴やなりすましといった被害につながる可能性があります。

こうした課題への対策として有効なのが「モバイル閉域接続」です。イッツコムのサービスでは、PCやスマホに専用SIMカードを挿入するだけで、NTTドコモ網とイッツコム網を通じた閉域ネットワークを自動で判別し、社内LANへ直接アクセスできます。ユーザー側でVPN設定を行う必要がなく、管理者によるIDやパスワードの管理作業も不要になります。

ファイル共有も万全:Boxで実現するクラウド統制

社外とやり取りするファイルや資料の管理も、セキュリティ対策の重要なポイントです。
個人のクラウドサービスやメール添付による共有では、誤送信や情報漏洩のリスクを完全に排除することはできません。

イッツコムのBox導入支援サービスを活用すれば、企業全体で統制の取れたクラウドファイル共有を実現できます。

Boxの主な特徴は以下の通りです。

  • アクセス権限の細かな設定と操作ログの取得による透明性の確保
  • ファイルの暗号化やパスワード制限により、万が一の流出リスクを最小化
  • フォルダ単位でのプロジェクト共有により、社内外の連携を効率化
  • 管理者画面からの一括統制で、内部統制の観点でも優れた運用が可能

セキュリティの強化だけでなく、ペーパーレスやDX推進にもつながる導入効果が期待できます。すでに多くの業種・規模の企業で活用されており、導入支援の実績も豊富です。

【関連記事:クラウドストレージ「Box」の魅力は?使い方やメリットを徹底解説

まとめ

日本企業のセキュリティ対策が進まない背景には、経営層の意識や組織の硬直性など、技術だけでは解決できない課題があります。対策を前に進めるには、経営層への明確な説明と、現場でのツール活用が不可欠です。

セキュリティはコストではなく、企業の信用と成長を支える戦略的資産です。中小企業も攻撃の対象となり得る今、モバイル閉域接続やBoxといったツールを活用し、実務レベルでのセキュリティ強化を着実に積み重ねていくことをおすすめします。