行政ペーパーレス化の課題とは?成功事例や導入ステップを解説
目次
行政現場では、紙を前提とした業務フローが今なお多く残り、非効率な作業や人手不足の深刻化が課題となっています。特に災害や感染症といった非常時には、紙に依存した業務が業務継続の妨げになることも少なくありません。
そこで本記事では、行政におけるペーパーレス化の必要性や現状の課題、全国の先進事例、具体的な導入ステップまで、自治体の実務に即した視点で丁寧に解説します。
行政のペーパーレス化が求められる背景
行政業務の多くは依然として紙ベースで行われており、処理の遅れや情報共有の非効率、職員の負担増といった問題が深刻化しています。印刷・郵送・保管にかかるコストも無視できず、自治体財政を圧迫する要因となっています。
さらに、少子高齢化による人手不足が進む中で、限られた人員で業務を回すには効率化が不可欠です。感染症や災害などにより出勤が困難になるケースも増えており、物理的な制約を受けない働き方=BCP(業務継続計画)としてのペーパーレス化も重要な課題です。
こうした背景を受けて、ペーパーレス化は単なる紙の削減にとどまらず、行政のデジタル変革と持続可能な運営を実現する中核的施策として位置づけられています。
行政ペーパーレス化の現状と課題
行政におけるペーパーレス化は国の重要施策として推進されていますが、自治体ごとの導入状況には差があり、多くの現場で課題が残っています。ここでは、地域間格差や阻害要因を踏まえながら、現場が直面するリアルな状況を整理します。
自治体のペーパーレス化率と地域間格差の実態
行政のペーパーレス化は全国的に進められているものの、その導入状況には大きな地域差が見られます。日本総研の調査によれば、電子決裁システムの導入率は全国平均で2割程度にとどまり、首都圏や大都市圏では比較的普及が進む一方、地方や中山間地域では導入が遅れているのが現状です。
インフラ面では一定の整備が進んでいるものの、実際の業務で十分に活用されていないケースも少なくありません。例えば、マイナポータルの活用やオンライン申請に対応しているにもかかわらず、住民の利用率が低く、紙の申請も併用され続けている自治体もあります。
このような地域間格差は、自治体ごとの財政規模や職員数、デジタル人材の確保状況などが大きく影響しており、一律のアプローチではなく、地域特性に応じた柔軟な支援策が必要とされています。
ペーパーレス化を阻む要因と現場の課題
多くの自治体でペーパーレス化が進まない要因の1つは、業務プロセスが紙を前提として設計されていることです。職員の多くが紙での処理に慣れており、業務フロー全体をデジタルに再設計するには時間と労力を要します。こうした背景から、電子決裁や文書共有システムを導入しても、実際の運用では紙の回覧や印刷に戻ってしまうケースも見受けられます。
また、紙文書の庁外持ち出しが制限されていることで、テレワークが進まず、多様な働き方への対応が難しい状況も続いています。特に若年層の職員採用や定着にも影響を与えており、「柔軟な働き方」ができない組織として敬遠されるリスクもあります。
業務量が増える中で職員数は減少しており、このままでは現場の負担が限界に達する恐れがあります。ペーパーレス化は単なる業務効率化ではなく、「紙に縛られない働き方」を実現するための構造的な変革が求められているのです。
自治体におけるペーパーレス化の成功事例と効果
全国の自治体では、さまざまな工夫を凝らしながらペーパーレス化を実現しています。先進的な取り組みにより、業務効率の大幅な向上やコスト削減といった成果を挙げている事例も少なくありません。
ここでは、具体的な導入内容とその効果に注目し、実践的なヒントを探っていきます。
神奈川県:電子決裁率94%を達成し、全庁的なペーパーレス化を実現
神奈川県では、庁内業務の効率化とペーパーレス化の一環として、2018年4月に電子決裁機能を備えた文書管理システムを導入しました。導入当初から知事を含む幹部職員が積極的に活用し、庁内での意識改革を促進しました。
この取り組みにより、毎月20〜30件ある知事決裁も電子化され、全庁の電子決裁率が向上しました。紙の添付資料が避けられない業務には、令和2年度から「併用決裁」を導入し、一部紙の混在にも対応しています。
電子決裁率は年々上昇し、令和4年度には全庁で94.0%、本庁所属では99%以上、令和5年度には98.2%に達しています。電子化の浸透により、在宅勤務やモバイルワークの柔軟な働き方も進みました。
今後は、所属ごとの決裁率の分析や電子公印の導入により、申請から施行までの完全なデジタル化を目指しているそうです。
神戸市:生活保護業務にICTを導入し、記録の電子化と情報共有を改善
神戸市では、生活保護業務の効率化を目的に、ケース記録や問い合わせ対応の電子化を進めました。従来は、記録が手書きで行われており、修正印の押印やファイル管理の手間が職員の負担となっていました。また、記録を参照するたびに書架へ移動する必要があり、情報共有にも時間がかかっていました。
これらの課題に対応するため、一部区で始まった電子記録の取り組みをもとに、全区共通のシステムが構築されました。記録のデジタル化により、担当職員が不在でも他の職員が問い合わせに対応できるようになり、管理職が進捗や対応状況を把握しやすくなるなど、情報共有の改善につながっています。
市は、紙文書が業務全体の効率化を妨げる要因となることを踏まえ、徹底したペーパーレス化を意識してシステムを整備しました。現在は、庁内ネットワーク上で記録を確認・共有できる環境が整備されており、業務の迅速化と負担軽減が図られています。
西予市:議会も含めたペーパーストックレス改革で印刷経費を760万円削減
愛媛県西予市では、本庁舎の改修にあわせて「Change せいよ!」プロジェクトを立ち上げ、Wi-Fi整備や全職員へのノートPCとデュアルモニター配布、協議のペーパーレス化を実施しました。ペーパーストックレス方針のもと印刷枚数は20%減少し、印刷経費は平成25年度の2,220万円から令和3年度には1,460万円へと削減されています。
議会では平成28年にタブレット端末を導入し、議員18名と事務局職員5名が会議資料のデジタル配信やグループウェアによる情報共有を行っています。これにより、コピー使用料は半減、FAX代は10分の1以下にまで削減されました。
これらの取り組みによって、業務効率の向上が進み、職員の7割以上が「効率が上がった」と回答しています。市全体でICT活用とコスト削減の両立が実現しています。
行政ペーパーレス化の具体的な導入ステップ
ペーパーレス化を進めるには、理想論やシステム導入だけでは不十分です。現場の実情を踏まえた段階的な導入プロセスと、計画的な準備が成功の鍵を握ります。
ここでは、ロードマップの立て方から予算確保、職員の意識改革まで、実務に即した進め方を解説します。
5段階ロードマップで段階的に進める
行政のペーパーレス化を成功させるには、いきなり全庁的な導入を目指すのではなく、段階を踏んだ計画が必要です。以下の5ステップに沿って進めることで、混乱や抵抗を最小限に抑えながら、現実的かつ持続可能なペーパーレス化が可能になります。
第1段階:現状分析と目標設定
まず、現状使用している紙文書の種類や量、業務フローを調査し、課題を洗い出します。この段階で、削減対象や導入効果の見込みを数値化し、ペーパーレス化の目的と目標を明確にします。
第2段階:小規模な試験導入
影響範囲の少ない部署や業務を対象に、試験的に電子決裁や文書共有システムを導入します。現場の運用状況やトラブルを観察し、導入時の課題や改善点を整理しましょう。
第3段階:本格導入に向けたシステム選定と整備
試験導入の結果をもとに、全庁展開を見据えて必要なツールやネットワーク環境を整備します。既存システムとの連携や、法令遵守の観点からの要件もこの段階で精査します。
第4段階:職員研修と運用ルールの整備
導入システムの利用方法を習得できるよう、階層別・職種別の研修を実施します。あわせて、電子文書の保存期間、署名・決裁フローなどのルールも明文化し、全体に共有します。
第5段階:セキュリティ強化と運用改善
本格運用後は、アクセス権限や監査ログの管理、バックアップ体制の整備など、セキュリティ面の強化を図ります。また、定期的に現場の意見を取り入れながら、業務フローやツールの改善を継続していきます。
予算確保のための導入計画書の作り方
ペーパーレス化を推進するためには、まず予算を確保する必要があります。そのためには、実現可能性の高い導入計画書を作成し、財政当局や首長層に対して明確な根拠を示すことが重要です。
計画書には、コピー用紙や印刷枚数、郵送費など現状のコストを可視化したうえで、ペーパーレス化による削減効果を数値として示します。加えて、導入するシステムや端末にかかる初期費用と、その費用対効果を比較し、回収期間を試算することで、説得力を高められます。
また、予算化の際には業務のどの部分から着手するか、スケジュールや段階的な展開案も明記すると、審査側にとっても判断しやすくなります。職員数や既存設備に応じた柔軟な計画を立てることが、現実的な予算確保につながります。
職員研修とチェンジマネジメントの進め方
職員の意識改革と継続的な支援も欠かせません。特にベテラン職員やITに不慣れな層に対しては、段階的な研修と個別対応が有効です。
研修は初級・中級・上級の3段階に分け、基本操作から応用まで無理なく習得できる設計にします。少人数制の実地研修やハンズオン形式を取り入れることで、職員の不安を軽減し、自信を持って新しい業務に取り組めるようになります。
また、「なぜペーパーレス化が必要なのか」という目的を共有し、成功事例を紹介することで、自分ごととして改革を捉えられるようになります。各部署にはデジタル推進リーダーを配置し、日常業務の中でサポートを行う体制を整えることで、定着率が格段に高まります。
法的対応と住民サービス向上の両立
行政におけるペーパーレス化は、単に業務の効率化を図るだけでなく、法的な正当性の担保や、誰もが利用しやすい住民サービスの実現とセットで考える必要があります。電子化に伴う法的要件を正しく理解し、高齢者やデジタルに不慣れな住民にも配慮した導入が求められます。
このセクションでは、法的根拠と現場対応の両面からポイントを解説します。
行政文書の電子化と法的要件
行政文書の電子化には、単なる業務効率化以上に、法令に適合した正しい手続きが不可欠です。平成31年に策定された「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」では、真正性、可読性、保存性の3つの要件を満たすことが求められています。
まず真正性については、文書が正規の手続きで作成されたものであることを示す必要があり、電子署名やタイムスタンプの付与がその手段とされます。可読性については、将来にわたり文書を容易に閲覧できる形式で保存する必要があり、特定のソフトに依存しないPDF/A形式などが推奨されています。
さらに保存性の観点では、長期にわたって改ざんされずに保管できる環境の構築が求められます。これらに対応するためには、クラウドストレージや電子文書管理システムの選定段階で、対応機能の有無を慎重に確認することが重要です。加えて、内部規程の整備や運用体制の明確化も必要です。
高齢者などデジタル弱者への配慮策
行政サービスのペーパーレス化を推進する際には、高齢者や障がいのある方など、デジタル機器の操作に不安を抱える住民への配慮が欠かせません。こうした層にとって、従来の紙による手続きが唯一の手段であるケースもあり、一律の電子化はかえってサービス格差を生む恐れがあります。
東京都渋谷区では、65歳以上の住民にスマートフォンを貸与し、使い方を丁寧に指導する「高齢者デジタルデバイド解消事業」を実施しています。こうした取り組みにより、高齢者のデジタル利用を支援しつつ、行政の電子サービス利用率を底上げしています。
また、各窓口にデジタル操作サポーターを配置し、オンライン申請を支援する体制を整える自治体も増えています。完全な移行を急ぐのではなく、一定期間は紙と電子の併用を認めることで、誰一人取り残さない移行が実現できます。
Boxで加速する行政ペーパーレスのステージ
ペーパーレス化を進めた自治体の次なる課題は、文書の「活用フェーズ」への移行です。単に紙を削減するだけではなく、職員同士の情報共有や在宅勤務、災害時の業務継続など、より柔軟で効率的な業務基盤が求められています。
その解決策としておすすめなのが、クラウド型コンテンツ管理サービス「Box」です。 イッツコムでは、Box正規販売代理店として、自治体のBox導入と活用をサポートしています。
自治体業務に求められるセキュアな文書共有環境
自治体でクラウドサービスを導入する際に特に重視されるのが、情報セキュリティとガバナンス対応です。Boxは、7段階のアクセス権限設定や70種類以上の監査ログなど、ゼロトラストセキュリティに基づく堅牢な管理機能を備えており、公文書の取り扱いや外部とのファイル共有にも安心して活用できます。
また、マルウェアの自動検知・隔離、共有リンクの制限、ファイルの改ざん防止といった高度な保護機能も標準装備。物理的なUSBメモリなどに依存せず、安全に文書を共有・管理できるため、庁内外のセキュアな業務推進を支えます。
こうした高度な安全性から、Boxは米国国防総省をはじめとする政府機関、金融機関、医療機関など、厳格なセキュリティ基準を持つ組織でも採用されてきました。エンタープライズレベルの信頼を背景に、行政DXに取り組む自治体にとっても、最適な文書管理・共有基盤として注目されています。
同時編集・全文検索で文書活用と業務効率を向上
Boxは、Microsoft 365やGoogle Workspaceといった業務アプリと連携することで、文書の同時編集やバージョン管理を可能にします。決裁文書や報告書の共同作成もリアルタイムで行えるようになり、庁内での業務の属人化を防ぐ効果が期待できます。
保存されたファイルはタイトルだけでなく、本文のキーワードでも検索可能な全文検索機能を備えており、目的の文書をすばやく見つけることができます。これにより、過去資料の再活用やナレッジ共有が促進され、ペーパーレス化と情報資産の有効活用が同時に進みます。
さらにBoxは、Zoom、Slack、Salesforce、Adobe Acrobatなど、1,500以上の業務アプリと連携可能です。各種業務ツールとシームレスに統合されることで、作成・共有・編集などの業務をBox上で一元的に行えるようになり、生産性向上に貢献します。
APIの活用により、Boxと既存システムを連携させたり、自動処理を構築したりすることも可能です。自治体固有の業務フローに合わせた柔軟な運用ができ、業務効率化の推進基盤としても有効です。
災害時・緊急時でも文書にアクセスできる柔軟性
Boxは、災害や感染症拡大などによって庁舎の機能が一時的に停止した場合でも、業務継続を支えるインフラとして活用できます。インターネット接続環境さえあれば、庁外からでも安全にファイルへアクセス可能であり、テレワーク体制や緊急時対応への移行もスムーズです。
多要素認証やデバイス管理機能を備えており、非常時のセキュリティリスクにも対応しています。Boxを活用したコンテンツ管理の習熟自体が、自治体のBCP(事業継続計画)対策の一環となります。
さらに、有料プラン(Business以上)では、すべてのファイルの50世代以上のバージョン履歴が自動的に保存されます。誤操作による削除や上書きが発生しても、過去の状態に復元できるため、人的ミスによるデータ損失を防げます。
Boxは庁内職員だけでなく、外部委託先や関連機関との連携にも活用でき、災害時でも組織横断の業務を迅速に再開する基盤となります。
【関連記事:Boxとは?クラウドコンテンツ管理の魅力や解決できる課題を解説】
まとめ
行政のペーパーレス化は、単なる紙削減の取り組みにとどまらず、自治体全体の業務改革と住民サービスの質の向上を同時に実現する重要な施策です。Boxのようなクラウドサービスを活用することで、文書管理の効率化だけでなく、災害時の業務継続や職員の柔軟な働き方にもつながるでしょう。
イッツコムはBoxの正規販売代理店として、ライセンスの提供だけでなく、導入に向けたヒアリングや活用アドバイスも行っています。まずは導入に向けたご相談から、お気軽にお問い合わせください。