AI人材とは|企業が知っておきたい採用・育成のポイント
目次
人工知能(AI)の進化は目覚ましく、ビジネスのあり方を根本から変えつつあります。業務効率化の枠を超え、新規事業の創出や顧客価値の向上といった経営レベルの課題にまで、AIの活用領域は一気に広がりました。こうした状況を背景に、多くの企業がAI導入を進めています。その中で欠かせない存在が「AI人材」です。
しかし、AI人材と一口にいっても、求められる役割やスキルは多岐にわたり、IT人材やDX人材との違いが分かりにくい部分もあります。この記事では、AI人材とは何を指し、企業がどのように採用・育成したほうがよいかを分かりやすく解説します。
AI人材とは

AI人材とは、AI技術に関する専門知識や分析スキルを持ち、それらを活用して業務改善や課題解決、新たな価値の創出につなげられる人材を指します。具体的には、機械学習モデルの設計・運用、データ分析、AI活用プロジェクトの企画など、ビジネスとテクノロジーの両方に深く関わる役割を担います。
単にプログラムを書くだけではなく、企業課題を見つけ、AIを使って解決へ導く力が求められる点が特徴です。ここでは、AI人材と関連するIT人材やDX人材との違いについて解説します。
IT人材との違い
IT人材は、企業の情報システム全般を扱う専門家であり、ネットワークやサーバの構築・運用、ソフトウェア開発、セキュリティ対策など、幅広い領域を担当します。企業のデジタル基盤を構築し、安定して稼働させることが主な役割です。
一方で、AI人材はAIアルゴリズムやデータ分析に特化しており、機械学習モデルの構築やデータ活用の戦略立案など、より高度で専門的な領域を扱います。両者は密接に関わりながらも守備範囲が異なり、IT人材が基盤づくりを担うのに対し、AI人材はデータから新しい価値を生む点に重点があります。
DX人材との違い
DX人材は、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや業務プロセス全体を変革する役割を担う人材です。単にツールを導入するだけでなく、組織のあり方や顧客体験まで踏み込んで改革を進める点が特徴で、テクノロジーに加えて経営視点や変革マネジメントのスキルも求められます。
一方、AI人材は、DXの一部を担う高度専門職といえる存在であり、特にAI技術を使ったデータ分析・予測・自動化を中心に担当します。DX人材が全体の変革戦略を描き、AI人材がその中でAI活用領域を具体化していくイメージです。
AI人材は大きく3つのタイプに分けられる

AI人材と一口に言っても、その役割は研究・開発・事業化と大きく異なります。企業がAIを導入し成果を出すためには、どの領域の専門人材が必要なのかを明確に理解しておくことが重要です。ここでは、AI人材を3つのタイプに分けて、それぞれの特徴を解説します。
1.AIの研究に携わる人材
AIの研究に携わる人材は、AI技術そのものを進化させる役割を担う高度専門職です。大学や研究機関、企業のR&D部門に所属し、機械学習やディープラーニング、自然言語処理、画像認識など、AIの基礎となる理論やアルゴリズムを研究します。
AI研究者の目的は、新しいモデルの開発や性能向上、より効率的な学習手法の発見など、AI分野全体の発展につながる成果を生み出すことにあります。また、論文発表や国際会議での発信を通じて世界中の研究者たちと知見を共有し、技術革新を推進する点も特徴です。
2.AIの開発に携わる人材
AIの開発に携わる人材は、研究成果や既存のAI技術を実際のプロダクトとして形にする役割を担います。代表的な職種は、AIエンジニア、データサイエンティスト、機械学習エンジニア、AIプログラマーなどです。AI開発者は機械学習アルゴリズムの理解を基盤に、データの前処理、特徴量設計、モデル構築、精度検証、運用環境への実装まで一連の工程を担当します。
さらに、ビジネス部門やプロダクトチームと連携し、現場の課題を技術仕様に落とし込み、実際に動くAIシステムとして仕上げていく点も特徴です。開発人材は「AIを使える状態にする」実務的役割を担うため、技術力だけでなくプロジェクト管理能力やコミュニケーション能力も求められます。
3.AIを事業化・運用する人材
AIを事業化・運用する人材は、AI技術をビジネスの価値に変える役割を担い、企業のAI活用を成功へ導く重要なポジションです。代表的な職種には、AIプランナー、AIコンサルタント、プロダクトマネージャー(PM)、データアナリストなどが挙げられます。
AIを事業化・運用する人材は、技術そのものを開発するわけではありませんが、ビジネス課題を正確に把握し、解決に必要なAI活用方法を設計する点が大きな特徴です。
また、プロジェクトの企画、要件定義、部署間の調整、ロードマップ策定、KPI設定など、AI活用を事業として成立させるためのマネジメント業務を担います。エンジニアとの橋渡し役として、技術の理解とビジネス視点の両方が欠かせません。
AI人材に必要なスキル・知識

AI人材には、技術スキルだけでなくビジネススキルも欠かせません。AIモデルを作れるだけでは実務で成果を出すことは難しく、業務理解や課題解決力、法的リスクへの対応力など、幅広い知識が求められます。
ここでは、AI人材が身につけておきたい主要スキルを「技術」「ビジネス」の2つに分けて紹介します。
技術スキル
AI人材に求められる技術スキルは多岐にわたりますが、代表的なものは以下の通りです。
- プログラミングスキル(Python・R・Javaなど)
- 機械学習・ディープラーニングの知識
- データ加工・前処理スキル
- 統計学・数学の知識
上記のスキルは、AIモデルを構築し、動作させ、運用するために必要な基盤となります。特にPythonはAI開発で広く扱われ、各種ライブラリの利用が不可欠です。また、現場で扱うデータは未整備なケースが多く、データ前処理や特徴量設計の能力は実務で大きな差が出るポイントです。
さらに、機械学習モデルを安定稼働させるMLOpsの重要性も増しており、システム運用やクラウドの知識も求められるようになっています。
ビジネススキル
AI人材が成果を出すためには、技術スキルに加えてビジネススキルが欠かせません。AIはビジネス課題を解決する手段の1つであり、課題を正しく捉えて適切な解決策を設計する力が必要です。以下は主に求められるビジネススキルです。
- 論理的思考力、課題発見力
- プロジェクトマネジメントスキル
- コミュニケーション力(専門外の人へ説明できる力)
- AI・データに関する法律知識(著作権、個人情報保護法、AI生成物の権利など)
特に、AIを導入する際には著作権や個人情報保護など法律面の配慮が不可欠です。AIモデルの学習に使用するデータや生成物の扱いにはリスクが伴い、企業として順守すべきルールが存在します。
また、ビジネス部門とエンジニアの間に立って要件を調整する場面が多いため、技術背景を理解した上で明確に説明できるコミュニケーション能力も重要です。
企業がAI人材を必要とする理由・背景

AI活用は、もはや一部の先進企業だけが取り組む特別なテーマではなくなりました。現在では、製造、金融、小売、医療、物流、教育といった幅広い業界でAIの導入が進み、日々の業務改善から新規事業の創出まで、多様な場面で活用されています。
生成AIの普及により、専門部署だけでなく一般の従業員もAIツールを利用するケースが増え、企業全体でデジタル活用を進める体制づくりが求められるようになりました。以下では、企業がAI人材を必要とする背景について詳しく解説します。
業務効率化・生産性向上のため
日本では少子高齢化が進み、労働力人口が減少していることから、限られた人材リソースを最大限に生かすことが必要不可欠です。AIは、データ入力や書類整理、問い合わせ対応といった定型業務を自動化できるため、本来人間が時間をかけるべき企画・判断・コミュニケーションといった高度な業務へ集中できる環境をつくります。
これらを推進するには、適切なAIツールの選定や運用設計、社内DXの推進が求められ、AI人材の存在が欠かせません。企業は高度なスキルを持つAI人材を確保することで、慢性的な人手不足を補いながら、業務の質とスピードを同時に引き上げられるでしょう。
データドリブン経営の実現のため
現代の企業経営では、経験や勘に頼った意思決定だけでは競争に勝つことが難しくなっています。顧客データ、購買履歴、アクセスログ、IoTデータなど、企業には膨大なデータが蓄積されており、それらを活用してビジネスの精度を高める「データドリブン経営」が求められています。
AI人材は、データの収集・加工、分析モデルの構築、可視化、成果に基づく施策提案などを担い、ビジネスをより科学的なアプローチで進めることが可能です。例えば、マーケティングでは顧客の傾向分析によって広告の精度を高められ、需要予測では生産計画の最適化や在庫管理の改善につなげられます。
新規事業・サービス創出のため
AIは効率化だけにとどまらず、新しい価値を生み出す手段としても注目されています。例えば、AIを活用したチャットサービス、画像解析技術を使った製品、自動化技術を応用した次世代の事業など、AIを軸にした新しいサービスが次々に登場しています。
こうした事業を創出するには、AI技術の特性を理解し、どの領域で価値を発揮できるかを判断できる人材が必要です。AI人材は、自社の強みや市場ニーズを踏まえ、AIを使った新規サービスの企画やプロトタイプ開発、検証などを行い、企業の未来をつくる重要な役割を担います。
AI人材の採用が難しい理由

AIの活用が広がるにつれ、多くの企業でAI人材の確保が課題となっています。しかし、AI人材は高度な専門知識と実務経験が必要な上、世界的に需要が急増しているため、採用市場は常に“売り手市場”の状態です。さらに、企業側の体制や理解不足も採用を難しくする要因となっています。
ここでは、AI人材の採用が難しいとされる主な理由について解説します。
人材そのものが不足している
AI人材が足りない主な理由は、そもそも市場にAI人材が少ないことです。AIに関わる業務には、プログラミング、数学、統計、機械学習、データ分析など、多くの専門知識が求められます。そのため、すぐに実務で活躍できるレベルの人材は限られており、企業の需要に対して供給が追いついていません。
また、AI活用の流行に伴い、新たにAI領域を学ぶ人は増えていますが、実務経験を積んだ人材はすぐには育たず、長期的な不足が続いています。こうした状況から、多くの企業が採用時点で苦戦しているのが現状です。
採用競争が激化している
希少なAI人材を巡り、企業間の獲得競争は激化しています。特に大企業やIT企業は高い給与水準や魅力的な研究環境を提供できるため、優秀なAI人材が集中しやすい傾向にあります。その結果、中小企業は待遇面で勝ちにくく、採用にかかるコストや時間が膨らんでしまうケースも少なくありません。
企業側は、待遇だけでなく「どのようなAIプロジェクトに関われるか」「成長できる環境があるか」といった魅力も効果的に提示しなければ、採用がますます困難になるでしょう。
企業側の受け入れ体制が整っていない
AI人材を採用できても、企業側の受け入れ体制が整っていなければ、その能力を発揮できず定着率も下がってしまいます。例えば、「AIを活用したいが目的が曖昧」「データが整っていない」「AIプロジェクトを推進する横断的なチームがない」といった状態では、AI人材が入っても成果につながりません。
また、現場メンバーがAIに対する理解不足だと、コミュニケーションがうまくいかず、プロジェクトが前に進まないこともあります。こうした環境の未整備が、AI人材の採用や定着をさらに難しくする要因となっています。
自社にマッチしたAI人材を採用するには

AI活用が企業の競争力を左右する時代となり、多くの企業でAI人材の確保が急務となっています。しかし、単に「AIを活用できる人」を採用すればよいわけではなく、自社の事業構造や業務内容、技術レベルにマッチした人材を見極めることが大切です。
目的や期待役割が曖昧なまま採用すると、入社後に「想定していた業務と違う」というミスマッチが生じ、早期離職やプロジェクト停滞につながる恐れがあります。ここでは、自社にマッチしたAI人材を採用するための方法やポイントを解説します。
採用要件の明確化
AI人材の採用において特に重要なのが、「どのような目的で」「どのような業務を任せ」「どのような成果を期待するのか」を具体的に整理することです。例えば、「データ活用を進めたい」といっても、既存業務の効率化が目的なのか、新しいAIサービスを開発したいのかによって必要なスキルセットは大きく変わります。
データ分析の高度化が目的であればデータサイエンティスト寄りのスキルが必要ですが、AIプロダクト開発であればAIエンジニアやMLOpsの知識が不可欠です。また、求める技術レベルも明確にすることでミスマッチを防げます。採用要件を事前に明確化し、求人票に落とし込むことで、応募者の期待値とのズレが減り、自社に適した人材と出会いやすくなります。
効果的な採用チャネルの選定
高度なスキルを持つAI人材と多く出会うためには、複数のチャネルを戦略的に組み合わせることが大切です。例えば、AI・データサイエンスに特化した求人媒体やスカウトサービスは、高度なスキルを持つ候補者に直接アプローチできるため効果的です。
また、LinkedInなどのSNSを活用したダイレクトリクルーティングも有効で、特に経験豊富な人材に対して企業側から積極的にアプローチできます。さらに、AI領域ではリファラル採用(従業員紹介)も強力な手段で、現場で活躍する従業員のネットワークを生かすことで、スキルの信頼性が高い候補者に出会える可能性があります。
他にも、カンファレンスや勉強会、ハッカソンなど、技術コミュニティでの接点づくりも中長期的な採用活動として有効です。複数のチャネルを組み合わせることで、限られたAI人材の母集団を広げ、自社に合う候補者に出会える確率が高まります。
入社につなげるための「魅力付け」
AI人材は引く手あまたであり、応募を増やしたり内定後の辞退を防いだりするためには、企業側がいかに魅力を伝えられるかが重要です。まず、AI人材が重視するポイントの1つが「研究・開発環境」です。クラウド環境やデータ整備などが不足していると、候補者は「この会社では成果を出しにくい」と判断してしまう可能性があります。
また、専門性に見合う給与水準や評価制度を提示することで、キャリアアップのイメージを持ちやすくなります。さらに、成長意欲の高いAI人材を取り込むためには、外部研修、資格取得支援、学会参加などの成長機会を用意することも効果的です。
採用以外でAI人材不足を解消する手段

AI人材の採用には時間もコストも多くかかります。そのため、既存従業員の育成や外部パートナーの活用、ツール導入による省力化など、複数のアプローチを組み合わせてAI人材不足を解消するとよいでしょう。ここで具体的に解説します。
既存従業員をAI人材へとリスキリングする
採用が困難な中で、既存従業員をAI人材へと育成する「リスキリング」は企業にとって有効な手段です。特に、現場の業務知識を持つ従業員がAIスキルを身につけることで、より実践的なAI活用が可能になります。
教育方法としては、国内の「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)」のような公的支援を活用した学習プログラム、社内研修、オンライン学習サービス、外部専門家によるトレーニングなどがあります。
まずは統計・データ分析・Pythonなどの基礎を学び、徐々に機械学習・深層学習・データ可視化といった専門スキルへステップアップしていくとよいでしょう。リスキリングを進めることで、社内に継続的にAI人材が育つ環境が整い、採用に依存しない体制を構築できます。
また、従業員にとってもキャリアアップにつながり、モチベーション向上や離職防止にも期待できます。
外部パートナーと連携する
AI人材を自社で確保することが難しい場合、AI開発会社やデータ分析会社などの外部パートナーと連携する方法が効果的です。外部の専門家に委託することで、最新技術に基づく高品質なAIモデルの構築やデータ基盤整備をスピーディに進められるでしょう。
また、外部パートナーとの協働を通じて、社内メンバーが実務でAIスキルを学べるメリットもあります。将来的に内製化を目指す企業にとっては、知識吸収の手段としても有効です。
【関連記事:アウトソーシングとは?人材派遣との違いや活用のポイントを解説】
ノーコードAIツールを活用する
AI専門人材の採用や育成に時間をかけるのが難しい企業にとって、ノーコードAIツールやAutoMLの活用は実用的な手段です。
ノーコードAIツールは、プログラミング経験がない従業員でも、データをアップロードするだけでモデル構築・予測・可視化が可能なため、AIの導入ハードルを大幅に下げてくれます。マーケティングの分析、需要予測、顧客セグメント分析、営業予測など、多くの業務で即戦力として活用できるでしょう。
さらに、AI以前の段階としてRPAを導入すれば、バックオフィスの定型業務を自動化し、業務効率化や省人化にもつながります。限られた人材でより多くの業務をこなせるようになり、AI人材不足の影響を最小限に抑えられます。
AIに関連する他のトピックが気になる方はこちら!イッツコムが詳しく解説

AI人材の定義や採用・育成のポイントを理解した上で、さらにAI活用を深めたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
「クラウドAIとは?メリットや導入時の注意点を知り業務に生かす」という記事では、クラウドAIとは何か、エッジAIと何が違うのかといった基本から、運用時のポイントまで整理しています。クラウドAIは、自社に大規模な計算環境を持たなくても高度なAIモデルを利用できるため、AI導入のハードルを大きく下げてくれます。
【関連記事:クラウドAIとは?メリットや導入時の注意点を知り業務に生かす】
「AI翻訳とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方」は、AI翻訳の仕組みや、AI翻訳サービスの選定ポイントを解説した記事です。AI翻訳は業務効率化やグローバル対応の強化に欠かせない分野で、AIを扱う人材にとっても理解しておきたいテーマの1つです。
【関連記事:AI翻訳とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方】
まとめ

AI人材とは、AI技術に関する専門知識や分析スキルを生かし、業務改善や新たな価値の創出を推進する人材のことです。高度なスキルが求められる分、AI人材の数は少なく、企業の採用競争が激化しています。
AI人材を確保するためには、効果的な採用チャネルの選定や入社につなげるための「魅力付け」による採用活動の強化が不可欠です。また、採用だけでなく、既存従業員のリスキリングや外部パートナーとの戦略的連携、ノーコードAIツールの活用といった、多角的なアプローチも検討するとよいでしょう。
