プロフィール
日本防災教育訓練センターの代表理事を務めている、サニー カミヤと申します。私はアメリカ国籍で、サニーという名前は本名です。生まれ育ったのは博多で、福岡消防局でレスキュー隊、救急隊員をやって、30歳の時に国際緊急援助隊のメンバーとなって、ニューヨークへ行くきっかけができまして、向こうで救急隊員をやっていました。その時にアメリカ国籍になりました。
ニューヨークで救急隊員として働いていた時に、病院で教誨師という牧師の方に出会いまして、その方のお誘いで刑務所の受刑者のストレスカウンセリングをしたり、末期ガンの患者さんやその家族と一緒にお祈りしたりという仕事もしていました。教会を持っていたわけではなく、現場の牧師という感じで、自分から求めたわけではないのですが、いつもどなたかからのお誘いで、そういうふうな縁につながっていったという感じです。
アメリカで救急隊員をするためには、向こうの方は体重が100キロ、200キロの住民の方もいて、それを担架で運ぶとなるとかなり訓練しておかないと、仕事になりませんので、トレーニングをして体をつくりました。またニューヨークは、7カ月間冬ですので、地面が滑りますし、手もかじかんでいます。その当時は防寒具もあまり発達していなかったので大変でした。
現在私は54歳で、日本に戻ってきてからは、都内の外資系企業でBCPの見直しや防災のモラル向上など、防災に関する仕事に携わり、英語でワークショップをやったり、またはテロ対策まではいかないですが、危機管理の対応や、その手法をワークショップとして教えたりしています。
命を守る心を育てる防災教育
今まで、皆さんは何度も防災の教育を受けてきていると思いますが、心を動かす防災教育というのはほとんどなかったと思います。一般的には、担当者の方が、頭で考えて文字にしたものを見せて、「こういう時には、こうしましょう」というように話されてきましたが、それを見ても、やはり自分がどうしていいか本当は分からないし、質問もできません。実際の発災時にマニュアルを見て行動する人は誰もいません。普段から防災に対してそういう心が動いていないとやはり自分で対応することができないことになりますので、「命を守る心を育てる防災教育」が必要であると私は思っています。
防災のまず第一は、自分の命を守る、そしてその同僚である社員の命も守る、そして例えば来訪者とか館内の人全ての命を守ることからスタートしないといけません。もちろん家にいるときは家族を守るというコンセプトを伝えていって、実際発災したときには、その対応ができるようなワークショップを行っています。これは、その会社の事情や周りの環境に応じた内容のシナリオに基づいた想定訓練が多いのですが、身体障害者の方が働いているケースもあるので、誰がその方の避難を手伝うかなど、具体的に実際に動いてみて、健常者の方にも車いすに乗っていただいて、何が必要なのかを体験していただきながら、皆さんでシミュレーションして、動きながら考えていただくというものです。このように、マニュアルのいらない、実践に即したものをワークショップとしてやっています。
身につけたい「危険予知の目」
レスキュー隊が行っている危険予知の方法と日々の訓練方法について、お話ししたいと思います。レスキュー隊というのはとても目がいいんです。実際に、私たちレスキュー隊が目に見えているものと、一般の方々が目に見えているものはかなり違うと思います。目がいいというのは、視力がいいということもありますが、危険を察知する目を持っているということです。例えば「あの木が倒れるんじゃないかな」「この人がこういうふうに転ぶんじゃないかな」というように、目の前のことだけでなく、その先のことを予測して行動することが訓練によって身に付いているからです。
私たちが現場に入っていくとき、例えば火災現場だったら、「モルタル壁があと何秒後に倒れるだろうな」という予知をして、別の所から入っていくとか、いつもその先を読みながら、頭の中で早送りをしたり、巻き戻しをしながら、「今は何をするか」ということを考えています。一般の方にもそのような目を、ワークショップを通して身に付けていただければと思っています。
皆さんも、例えば日常時に電車に乗っていて、「ここで何か化学薬品などを撒かれたらどうしよう」ということを、自分がスパイになったような気持ちでやってみたり、そういう視点で映画やニュースを見たりすることで、そのような危険予知の目が身に付きます。実はその行動のヒントはアメリカの映画とかにたくさん出てきています。また、災害のニュースがあったら、それを見て、「じゃあ自分だったらどうする?」ということをちょっと早送りしてみて、自分の事情に応じてそれを今どうするかを考えていくことでもだいぶ違います。