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防災インタビューVol.147

マンションの防災 ~彼を知り、己を知れば、百戦殆からず~

放送月:2017年12月
公開月:2018年6月

三浦 伸也 氏

国立研究開発法人
防災科学技術研究所

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

三つの災害シナリオ

現在の科学では、災害の規模や発生時期を特定するのは非常に困難ですが、起こり得る事態は、これまでのさまざまな災害の経験などに基づいて、あらかじめ想定することが可能です。災害の規模や被害の程度を想定して、三つの災害シナリオを具体的に考えてみたいと思います。
「シナリオ1」というのは、現在の防災計画で想定されるよりも、はるかに強い地震動が発生して、建物が壊滅的な被害を被る事態です。ここまでの災害ですと、なかなか災害の対策の立て方が難しくなってきます。「シナリオ2」は、おおむね現在の地域防災計画で想定されている状況で、建物は全壊には至らないのですが、被災後も使用できるかどうかわからず、各種ライフラインが途絶するなど生活の不便さが伴うような事態です。「シナリオ3」は、被害は軽微で、そのまま生活が継続できるが、地域にはダメージの大きな地区や住宅が存在しているような事態です。
「シナリオ1」の場合は自ら、また公的な支援を受けながら居住者の救助、救命措置に全力を挙げる必要があると思います。被災後、全壊判定となれば立ち入りができなくなりますので、ここまでくると、なかなか対策をするといっても難しくなります。
次の「シナリオ2」の場合ですが、災害直後の安否確認、救出救命措置が終わると、建物の安全性を確認して、当面の防災対策措置を講じる必要があります。そして必要に応じて生活環境を維持するための態勢整備を行っていくことになります。建物は長期的に見ていけば補修などの措置が必要です。この「シナリオ2」が、事前に我々が想定して備えておくにふさわしいシナリオだと考えることができます。
「シナリオ3」の場合は、地域の防災支援のために役立てることを想定しておくことになります。自分たちのマンション自体はそれほどの被害が出ないといったときに、周りにどういう支援をすることができるのかも考えておいた方がよいと思います。
これらに対して、どういう備えをすればいいのかということになりますが、「シナリオ1」は極めて深刻な事態です。この場合は住民が一人でも多く無事に救出、救助されることが何より優先されます。そして被災後は建物での居住の継続ができなくなりますので、各世帯で一時的な転出が必要となります。このような事態が起こる可能性、発生する可能性はそう高くはないと思いますが、全くないとも言えません。そういう場合にどうするのか、身を寄せる場所をどうするのかを、平時から考えておく必要があると思います。災害が起こってから考えるのではなくて、平時から「もし住めなくなったら、どこに疎開するのか」を考えておくことは、急にはどこにも行けないので、とても大切なことだと思います。実際に東日本大震災の時には、自宅に住めなくなった方たちもたくさんでましたので、「考えておく」ことは決して無駄ではないと思います。
「シナリオ2」は現時点でマンション単位の防災対策を検討する上で、基本となるような想定と考えられます。このケースについては、時間を追って何が起きるのかを考えておくことが、とても大切です。例えば「発災直後に何をするのか」「発災から2、3時間後に何をするのか」などを時間帯ごとに、どういう行動をすれば被害を軽減できるのかを具体的に考えておく必要があると思います。そうすることで被害を未然に防ぐことができます。
「シナリオ3」は非常に楽観的な想定です。この程度の被害ではシナリオを作る必要はないかもしれません。一方で地域防災力を高めるという観点からは、自分自身のマンションは被害がそれほどなく、地域には被害が出ている場合に、地域に対してどのような支援やサービスができるのかをマンションの特性に合わせて考え、地域防災へどういう貢献ができるのかを、あらかじめ考えておくことも重要だと思います。
3つのシナリオ、特に「シナリオ2」においては、マンションの居住者の方たちは「被害を受けるけれど動ける状態にある」という想定になるので、非常に深刻な事態の「シナリオ1」と非常に楽観的、軽い事態の「シナリオ3」の真ん中で、マンションはある程度被害を受けてはいるものの、その中で居住者が動ける状態を想定するといいと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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