1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 人の幸せのための社会デザイン
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.200

人の幸せのための社会デザイン

放送月:2022年5月
公開月:2022年8月

中村 陽一 氏

立教大学 前教授
社会デザイン研究所 前所長
社会デザイン学会 会長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

プロフィール

私はこれまで立教大学の21世紀社会デザイン研究科という社会人対応の大学院で教員をしており、同時に社会デザイン研究所の所長も務めておりましたが、今年2022年3月末で定年になりました。現在も立教大学で授業を持っており、その他複数の大学で特任教員などをやりつつ、社会デザインの分野では、「社会デザイン学会」の2代目の会長を4月から引き継いでいます。その他NPO関係などでも活動しています。

このような活動の中で、特に、「社会デザインとアートとのつながり」ということに非常に強い関心を持ちながらいろいろな活動もしてきましたので、舞台芸術の世界で役者や演出家を目指している人たちのための研修機関で講師などもやりつつ、杉並区の「座・高円寺」や池袋の東京芸術劇場の運営などにも関わっています。また、友人のトランペッターのライブなどに時折出演して、語りをやったりもしています。このように非常に広い範囲で活動しているのですが、これは、「社会デザイン」という分野自体が、非常に範囲が広いので、いろいろなことに首を突っ込む形で、私自身いろいろなことに関わっているためです。

「社会デザイン」が求められる背景

社会の中には、いろいろな問題や課題があって、それが20世紀から引き継がれているものが多々あります。例えば地球レベルで言うと、気候変動の問題に端を発したさまざまな環境の問題がいわゆるSDGsの問題意識にもつながっていますし、最近ですとロシアによるウクライナ侵攻の問題にも現れているように、民族間の紛争の問題なども起こっています。このような問題の他に、20世紀から引き継がれながらも21世紀に新しい表現を取っている問題というものもあります。例えば「貧困」の問題です。これは昔からある問題ですが、東京やニューヨーク、ロンドンなど、いわゆる先進社会のど真ん中にあるにもかかわらず、貧困と格差が現れている路上生活者、ホームレスと言われる人たちが非常に目に入るようになってきたり、学びたいのに学べない、職を求めているけれど職に就くことができない人も増えています。これは、あたかも合法的に見えるように展開してはいますが、実はそこに構造的な要因が横たわっているということが頻出していて、これを「ソーシャル・エクスクルージョン」「社会的排除」と呼んでいます。こういう問題に対しては、なかなか20世紀型の処方箋では問題の解決ができず、新しい発想や方法論が必要になってきます。そのために、「社会デザイン」ということが求められるのですが、これについては、この後、ご説明したいと思います。

「社会デザイン」とは

先ほど「社会デザインがなぜ求められてきたか」ということを少しお話しさせていただいたのですが、まず、この「社会デザイン」という言葉について説明したいと思います。日本人にとっては誤解を招きやすいのですが、「デザイン」と言うと多分多くの方がファッションのデザインとか、エリアのデザインとか、製品のデザイン、これはプロダクトデザインとも言いますが、そういったことを思い浮かべて、きれいな絵を描いたり、設計をするという発想が強いと思います。それも、もちろんデザインなのですが、私たちが「社会デザイン」と言うときには、人間の幸せをどうすれば実現できるかという目的を持って、人と人との関係性や、人と地域の関係性、あるいは人と組織の関係性をより良く調整していく行為全体を「デザイン」と呼ぼうということなのです。

この「社会デザイン」というのは、普段なかなか実体としては目に見えにくく、捉えどころがないものではありますが、人々がより良くお互いに暮らしていくための知恵や仕掛けの全体を「社会」と呼び、それをデザインしていくということも可能なのではないかと考えています。そこで、新しく出てきた社会的な課題や問題に対して、「社会デザイン」あるいは「ソーシャルデザイン」という新しい発想で当たっていこうというものです。もともと「デザイン」という言葉には、そういう意味合いもあったのですが、日本で頻繁に使われるときに、割とよくあるイメージだけで使われてきたという経緯がありますので、誤解されやすい言葉ともなっています。
「社会デザイン」ということを考えるときに、恐らくキーワードになってくるのは、「つながり」とか、ちょっと硬い言葉ですが「関係性」ということだと思います。うまくつながらなかったり、関係性が少しゆがんだり、おかしくなっているときにいろいろな問題が発生しますので、それを時代や社会の変化にうまく対応しながら、もう一度、編み直していこうというのが、社会デザインにおける重要な発想の仕方だと思っています。

「人間の幸せ」を社会デザインの目的として掲げていますが、「幸せ」と言うと、当然一般的な用語ですので、多くの方が「ハッピネス」という意味合いで考えると思うのですが、ここで言う「幸せ」というのは、少し違う意味合いがある言葉で、英語では「ウェルビーイング」という言葉になります。ただ、これはなかなか日本語に訳しにくい言葉です。「ウェル」ですから「より良く」という意味で、「ビーイング」は、その状態を表していますので、「より良い状態」を「ウェルビーイング」と言うのですが、「ハッピネス」の方の幸せは、どちらかと言うと主観的なものであり、自分が幸せと思うかどうかに左右されるので、ある人にとって幸せだと思っていても別の人はそうでもないということもよくあります。しかしながら、この「ウェルビーイング」というのは割と客観的に捉えられ、数字で測ることができたり、目に見える状態で見ることができるので、主観的ではなく、ある程度客観的なものとして考えることができます。そこで、社会デザインの目的を考えたときには、きちんと捉えることのできる、この「ウェルビーイング」を向上させていきましょう、ということになります。その主になるのが恐らくつながりや関係性だと思います。この客観的な「ウェルビーイング」という言葉は、今はあまり一般的ではないかもしれませんが、恐らくもう少しするとかなり多くの方が知る言葉になると思っています。

ニュージーランドの現在の首相であるアーダーンさんは、若手の女性の首相ということで非常に有名な方ですが、このニュージーランドは、「ウェルビーイング バジェット(ウェルビーイング予算)」という予算の立て方をしていることでも注目されています。この「ウェルビーイング バジェット」というのは、具体的にはさまざまな障害、とりわけメンタルな面で障害を持ってしまった方たちに対する政策的な対応のための予算を多く取っているのが特徴で、重要な社会的な課題に対して傾斜的に予算を配分するという考え方の予算の立て方です。もし日本でこういうウェルビーイング予算を立てるとしたら、どういう課題に対してより多く予算立てをすることがいいか、というようなこともこれから議論になっていくといいと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針