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防災インタビューVol.200

人の幸せのための社会デザイン

放送月:2022年5月
公開月:2022年8月

中村 陽一 氏

立教大学 前教授
社会デザイン研究所 前所長
社会デザイン学会 会長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

課題を解決するための「社会デザイン」

「社会デザイン」とは何かを、私たち誰にとっても身近な課題である福祉という分野と引き付けて考えていきたいと思います。福祉の分野でバリアフリーという言葉が登場してきた時代がありました。バリアというのは障害という意味ですので、例えば車椅子の方や障害を持った方たちにとってのバリアをなくしていくことが、福祉の分野で非常に大きな課題になりました。よく考えてみると、道路を歩きやすくするとか、段差を少なくするというのは、車椅子に乗っている方だけではなく、お年寄りや子どもたちにとってもバリアをなくすことが当たり前になっていくことが必要だということで、次に「ノーマライゼーション」という言葉が出てきました。要するに「ノーマル、普通にしていく」ということです。そして「じゃあ、それをあまねく誰でもどこでもそういった状態を享受できるようにすることが必要だね」ということで一般的、普遍的という意味の「ユニバーサルデザイン」という考え方が出てきました。このように、バリアフリーからスタートして、ノーマライゼーション、ユニバーサルデザインというふうに言葉遣いも少しずつ変化しながら、しかも移り変わっていくというよりは折り重なっていくイメージでバリアフリーをベースに、さらにノーマライゼーションという発想に広がり、そしてもっとユニバーサルデザインというところに広がっていきました。ユニバーサルデザインの商品として、よく挙げられる例にシャンプーとコンディショナーのポンプがあります。コンディショナーのポンプの頭の所にちょっとした小さな突起を付けておくことで、髪を洗っている時には目をつぶっていて見えないので、手探りでも突起があることでこっちがコンディショナーだと分かる、これは視覚に障害を持つ方のことを想定して始まった商品開発ではありますが、健常者にとっても使いやすくなるわけです。そういうことが必要だということです。さらに最近では、インクルーシブデザインとよく言われます。インクルーシブということは人々を包み込むようなデザインということですが、排除されてしまう、障害を引き受けさせられてしまう当事者と言われる人たち、例えば障害を持った方たちやある時にはシニアの人たち、ジェンダーという考え方でいくと、男性に対して女性であったり、そういう人たちがバリアを引き受けさせられて排除されている状態でないようにするためのデザイン、これを製品の開発の段階からやっていこうという考え方がインクルーシブデザインという言い方で広がっていきました。さらにこの段階までくると、まさに社会デザインというのは目の前にある課題に対して、次々に壁を突破していく連続的な動きの中から今日につながっているということが分かってきます。このように、社会デザインというのは新しい言葉のように思いますが、実は古くて新しいと言った方が正確かもしれません。

ソーシャルキャピタル ~人と人のつながりの中で~

社会デザインを考える際に、ソーシャルキャピタルという考え方も大事になってきます。ソーシャルキャピタルというのは、直訳すると「社会資本」というふうに訳されてしまいがちですが、道路や橋というようなハードなものを差してしまいますので、ちょっと意味合いが違います。ソーシャルキャピタルというのは、社会関係資本とか、人間関係資本という意味で、簡単に言うと、人と人とのつながりがあたかも資本のような役割を果たすということです。人と人のつながりは、それだけで経済的に何か価値がすぐ出るものではないかもしれないけれど、私たちが何かを進めるときにお金を払って商品やサービスを購入するということだけではなく、人と人の関係性の中で、お金を払う行為の代わりになっているようなことで私たちの生活は成り立っています。これが実は社会デザインを考えていくときにも根幹にある大事なものだと思います。

このソーシャルキャピタルということが注目されてきたのは、アメリカでの議論が元になっています。犯罪の再犯率を低くする、要するに再犯が起こらないようにするときに何が大事かを分析したときに、コミュニティにおいて人と人との顔の見える関係が確立されていて、その中でいろいろなことを一緒にやったり、コミュニケーションを交わす頻度の高い地域は犯罪の発生率が低いというデータが出ています。これは一つの例ですが、昔は子どもたちは、各家庭の子どもであると同時に地域の子どもでもあったので、小学校の行き帰りなどに近所の知っている大人が、「○○ちゃん、今帰り?」というように声を掛け合いながら、ある種の見守りをしていたわけです。そうすることで、子どもが放課後に何らかの事件や事故に巻き込まれることを減らす意味もあったのですが、今は都市化が進んで、そうした濃いつながりがなくなってしまったり、そういうつながりが濃すぎるのも好ましくないという気持ちも出てきていると思います。そのような状況で自分たちの地域に、かつての地域の子どもとして見守ってきたのとは別の仕組みや仕掛けとして組み込むことができればいいと思います。担い手はNPOでもいいし、地域の人々の集まる場でもいいと思いますが、働く場所や学校や家庭以外に、何となく集まれる、たまれる場所、サードプレイスがあるといいのではないでしょうか。最近では商店街の空き店舗の活用というのもありますが、大人も子どももちょっと立ち寄ってしばらく時を過ごして、それでまた家に帰っていくような、そういう場というのを少しずつ増やしていくことがソーシャルキャピタルになっていくのではないかと思います。このようなソーシャルキャピタルを醸成していくというのは、なかなか難しくて、意図的に作ろうとして作れるものでもないところもあります。ごく自然な人のつながり、顔の見える関係がもたらされるような学校や地域の公民館みたいな場所、子どもが集まる場所があったのですが、今はなくなってきていますので、今の社会の状況に合わせて新しくまさに編み直し、作り直していくことが大切だと思います。

その一例として、子どもたちの放課後の時間を黄金の時間にしたいということで「アフタースクール」という名前のNPOでは、放課後に一芸に秀でた職人さんや料理人さんなど、地域の人が市民先生となって子どもと一緒に何かを作るというような新たな動きを起こしています。従来の学童保育だけではちょっとできないことをやったりしています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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