1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 人の幸せのための社会デザイン
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.200

人の幸せのための社会デザイン

放送月:2022年5月
公開月:2022年8月

中村 陽一 氏

立教大学 前教授
社会デザイン研究所 前所長
社会デザイン学会 会長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

社会デザインとアート

これまでも「デザイン」と「アート」というのは、どこがどう違うのか、というような議論は結構あったのですが、アートという言葉を、日本語に訳すとよく「芸術」というような訳し方をします。芸術という訳し方も間違ってはいないのですが、芸術という言葉は、私たちが居住まいを正して高尚なものに触れるというようなイメージがあります。例えば、少しおしゃれをして美術館に絵を見に行くとか、芝居を見に行くという、非日常の楽しみ方がアートの楽しみ方のイメージとしては強かったと思います。これはもちろんこれでいいのですが、それだけだとやはり日常の生活とつながっていきにくいので、社会デザインとアートの関係を考えるときには、日常の生活の中に広い意味でのアートというものが混ざり合い、そしてアートの世界にも社会デザイン的な発想が広がっていくことを考えていきたいと思っています。日常の中のアートということで言うと、何もどこかにわざわざ出掛けて行って鑑賞するということではなく、もっと身近なものに感じられると思います。この「アート」という言葉には、あまり有名ではありませんが、もう一つの訳語があって、「技芸」と訳されます。これは私たちが日常生活の中で駆使している、いわゆるいろいろな生活の知恵のようなものも含みます。ですから例えばちょっとした日常使いの道具なども実はアートだったりもします。最近は、豆箒なども装飾品として非常に人気がありますが、箒は、丁寧に作られたものだと飾っておいてもとても綺麗です。例えばそういうふうに日常使いのもの、これをちょっとした普段の生活の中で楽しめるアートとして考える、そんな形で社会デザインを考えてもらえればと思います。歴史的にさかのぼってみると、民芸運動というのは、日常使いのものがアートとして展開され、日本各地に広まったものなので、そういう日常生活とつながったアートは、まさに社会デザインが考える人間のウェルビーイング、幸せというところにつなげてくれる、良い導きの糸になるのではないかと思います。

一方、アートというものに社会デザインの要素を取り入れるというのはどういうことかと言うと、アートというのは、日常の具体的な、社会的なテーマと深いところではつながってはいますが、直接はあまりつながらないものとして見られがちです。例えば環境というテーマと結びついたアートとか、私たちの学びとか、まちづくりというテーマと結びついたアートというものも近年広がってきていまして、いろいろな所で行われているアートフェスティバルも非常に盛んになってきています。これこそが、まさに地域と結びつけて、地域や社会の課題をアートの側から取り組んだらどうなるか、ということを考えさせられるものが多いです。ダイバーシティとの関係で言うと、アーティスト イン レジデンスと言いまして、最近はコロナ禍で難しい面も出てきていたのですが、海外など、異なる地域からアーティストがやって来て、ある町に一定の期間住みついて、地域の人と交わりながら自分の創作活動をすることを支援する事業もあります。その創作活動を地域の人も見守ったり見つめたりする中で、アートの中にも社会性とか地域性が入っていき、人々にとってもアートがより身近になってきます。こんなつながりを進めていくと、より自然に社会デザインが、人々の幸せにも貢献できるのではないかと思っています。

常識を疑うことから始める「発想の転換」

社会デザインという発想や方法は、常識を疑い、これまでの枠組みがそのままでいいのかな、と考えることが大事だと思います。もちろん長きにわたって培われてきた発想や考え方が大事な側面ももちろんありますが、今の時代や社会の変化にうまく対応できなくなっている仕組みや考え方もあると思います。そこにあまりにもこだわりすぎるといつまでたってもなかなか新たな課題に対応できないまま社会がより悪い状態になっていくということがあり得るので、うまくいかないときには、これまで「これが普通だよね」とか「自然だよね」と思ってきた発想に、「いや待てよ。ちょっとこの考え方を変えてみてもいいんじゃない?」と考えられる、ある種の柔らかさや、壁を感じていたところを少し飛び越えるような発想も必要だと思います。

昔から「まちづくりには、よそ者、若者、ばか者が必要」という話がよく出るのですが、地元の人だけでまちづくりを考えていてもなかなかうまくいかないときに、若い発想がそこに入ってきたり、よそ者、外からの発想が入ってきたり、それからばか者というのは本当にばかという意味ではなく、人々が今まで考えなかったような、ある種これまでの発想からすると突拍子もないように思えるような発想も持ち込むことが必要だということです。閉塞状況に社会や地域が陥っているときには、これまでとは違うある種、揺さぶりを掛けるような考え方が求められます。今まさに日本の社会や地域がそういうことに直面している時代ではないかなと思いますので、改めて、身近なところからでいいので、ちょっとこれまでの常識をいったん疑ってみて、こういうふうに変えてもいいんじゃないかという実証実験、いわば試行錯誤の実験というものを臆せずやっていただけると、少しは地域の様子が風通しの良いものに変わっていくのではないかと思います。そして、防災のベースになるのは、そうした地域の元気な力だと思います。そしてそのベースを成すのは人であり、人と人との関係性だと思います。

こうした発想は徐々にいろいろな場所で広がっています。特に社会デザインについては実践家の人たちと一緒に「社会デザイン学会」という場もあります。学会というと何か専門家だけが集まっているように聞こえますが、この学会はそうではないので、興味のある方は、どなたでも参加できます。ぜひ「社会デザイン学会」と検索して、ご覧になっていただければと思います。

2019年から「社会デザインビジネスラボ」というのを始めているのですが、この度一般社団法人化しました。より広くさまざまな企業人の方やNPOなどの地域で頑張っていらっしゃる方と一緒に立ち上げていきますので、社会デザインビジネスラボ、略称はSDBLといいますが、ぜひSDBLと検索していただいて参加していただければと思います。私もこのSDBLで中心の一人としてやっていますので、社会デザインビジネスラボで、ぜひ皆さんにお目にかかれればと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針