AIを教育DX・校務DXにつなげる活用事例7選!課題解決のヒント
目次
小中学校などの教育現場には、教員の過重労働をはじめとするさまざまな課題があり、AIを活用した教育DXや校務DXの推進が強く求められています。現在、教育現場向けのAIサービスは、大小さまざまなベンダーによって開発・機能アップデートが続けられており、適切なサービスを上手に利活用すれば、教育や校務の抜本的な改革を目指すことが可能です。
この記事では、教育現場でAIを利活用する必要性に加え、校務DX・教育DXにつながるAI活用事例7選を解説します。政府や自治体の事業に採択された先行事例を通じて、AI利活用への理解を深め、課題解決に資するサービスの導入・運用を進めていきましょう。
教育現場でAIを利活用する必要性
教育現場における過重労働は深刻な問題ですが、教員の負担軽減や業務の効率化には人手による対応だけでは限界があり、AIの利活用が強く求められています。また、児童生徒のICT・AIリテラシーを強化することも、もはや不可欠な時代に入っています。
ここでは、教育現場でAIの利活用が必要とされる理由について解説します。
教員の負担軽減や効率化は人手では限界がある
文部科学省が2022年に実施した調査によれば、小中学校の教員の過半数が時間外勤務の上限である「月45時間」を超過しており、さらに14.2%の小学校、36.6%の中学校では、いわゆる過労死ライン(時間外月80時間)を超える勤務が行われています。2016年の前回調査と比較すると、わずかに改善は見られるものの、教育現場の過重労働は依然として深刻な状況です。
こうした中で、教員の業務を効率化し、負担を軽減することが強く求められていますが、人手のみでの対応には限界があります。そこで注目されているのがAIの利活用です。文部科学省が公募・選定する「リーディングDXスクール生成AIパイロット校」などの取り組みにより、教育現場の課題を解決するAIサービスの開発も急速に進められています。現場の声を反映した機能の改善や追加も行われており、全国の学校で生成AIの利活用が広がりを見せています。
(参考:『1日あたりの勤務時間数は減少するも、平均在校時間は依然として10時間以上――文部科学省の最新調査からみる教員の長時間勤務の現状と働き方改革に向けた動き|独立行政法人 労働政策研究・研修機構』)
児童生徒のICT・AIリテラシーの強化は必須の時代
人生百年時代の到来など、子どもたちを取り巻く社会の変化を踏まえ、政府は「デジタルの力でリアルな学びを支える」という基本方針に基づく教育を重視しています。GIGAスクール構想の推進により、ICT機器を活用する学校は年々増加しており、校務支援システムや学習eポータル、学習アプリを活用することで、教員の業務効率や児童生徒の学力向上を実感している学校もあります。
一方で、地域や学校間におけるICT活用の格差や、ネットワーク環境の脆弱さといった課題も残されています。Google検索にAI要約が表示されるなど、AIはすでに日常生活の中に入り込んでいますが、生成AIの誤った情報を児童生徒が鵜呑みにしてしまう懸念もあります。ICTやAIを正しく扱うための知識や注意点を早期に教えることが重要です。学校や自治体には、ICTやAIを安全かつ柔軟に活用し、児童生徒の学びを深める環境づくりが求められています。
AI導入で校務DXや教育DXにつなげる活用事例7選
AIサービスは、校務DXや教育DXに不可欠といえるほど大きな影響力を持つものも多く、全国の学校や自治体でさまざまなサービスが活用されています。ここでは、政府や自治体の事業に採択されたAIサービスの中から、注目すべき活用事例を7つ厳選して紹介します。こうした先行事例を通じて、どのようなサービスを、どのように活用すればよいのか、有益なヒントが得られるでしょう。
生成AIやデータ分析を活用した学習支援サービスで全都立高校256校などの校務DX・教育DX
コニカミノルタジャパン株式会社は、生成AIやデータ分析を活用した学習支援サービス「tomoLinks(トモリンクス)」を提供しています。教員不足や多忙な職場環境といった教育現場の課題解決を目指し、以下の機能をオールインワンで備えています。
- チャッともシンク:文部科学省の生成AIガイドラインに準拠し、児童生徒の思考を深める安全な生成AI活用と、教員の働き方改革をサポート
- AIドリル機能:多様な教材やAI、教育データを活用し、児童生徒の学びと教員の指導を支援
- 学習支援サービス:文部科学省CBTシステム(MEXCBT)に対応する学習eポータルを軸に、授業支援や連絡帳、こころの日記などを1つのアプリで提供
同社は、東京都教育庁の「都立学校向け生成AIサービスの構築及び機能拡張・保守・運用等業務委託」を受託し、東京都の「2050東京戦略」の一環として、2025年5月より「都立AI」の提供を開始しました。tomoLinksで培った技術と知見を活用し、都立学校256校の教員および児童生徒、計約16万人による安全かつ円滑な生成AIの利活用を支援しています。
多様な校務シナリオに基づく生成AI活用で担任・教頭業務を支援
スタディポケット株式会社は、教育現場や教職員の校務支援に特化した生成AIサービス「スタディポケット for TEACHER」を提供しています。最新のGPTモデルを手軽に活用できる業務効率化・負担軽減の効果に加え、文部科学省の生成AIガイドラインに準拠して開発された高い安全性も評価され、以下のような実績を上げています。
- 経済産業省の「探究・校務改革支援補助金2025」や「働き方改革支援補助金2024」に採択
- 2025年4月より、神奈川県横須賀市の全市立学校71校の全教職員2,023人を対象に正式導入
「評価ルーブリックを作成・提案」「生徒や保護者のアンケート結果をグルーピングする」など、校務シーンに合わせたシナリオがあらかじめプリセットされており、プロンプトに習熟していない教員でも直感的に操作できる点が特徴です。さらに、学年通信や保護者への連絡文書、修学旅行のしおりのひな形、学校行事のアイデア・段取りなど、さまざまなテーマに対応して文書作成や企画・管理業務を効率化でき、担任業務から教頭先生の業務まで幅広く支援します。
教育ノウハウを生かしたAI・ICTサービスで個別最適な学びや校務を支援
長年にわたり培ってきた教育関連事業のノウハウを基に、学校や自治体の課題解決を支援するパートナーとして、さまざまな取り組みを進めています。
2023年度の経済産業省「未来の教室」実証事業(生成AIを用いた教育サービスの検証)、および2025年度文部科学省「次世代の校務デジタル化推進実証事業(生成AIの校務での活用に関する実証研究)」などに参画した知見を活かし、AI・ICTを活用して教育現場の課題を解決するサービスの開発や機能アップデートを進めています。
- タブレット学習用オールインワンソフト「ミライシード」:AIを活用し、個別最適な学びの支援や、主体的・対話的で深い学びの支援、さらに学習データの蓄積や効果検証までを1つのソフトで実現。全国の小中学校1万校以上で導入実績あり
- ベネッセ校務クラウド:成績・出席・健康状況などの校務系データと、模擬試験などの学習系データをフルクラウド環境でシームレスに連携・一元管理。全国の高等学校や中高一貫校において、校務の業務効率向上や負担軽減をサポート
オリジナルAIアプリの簡単作成で授業設計を効率化し探究学習を支援
株式会社みんがくが提供する「スクールAI」は、教育現場に特化した生成AI活用プラットフォームで、児童生徒も安心して利用できる設計が特徴です。教員用・生徒用の2つのインターフェースを備え、オリジナルAIアプリ(モード)を簡単に作成できる点が強みです。
授業準備や教材作成を支援する機能と、対話型の学習支援機能を兼ね備え、授業設計の効率化や児童生徒の探究学習に役立つサービスとして、主に以下のような実績があります。
- 経済産業省の「探究・校務改革支援補助金2025」に採択
- 茨城県鹿嶋市の市立小中学校全校に導入
- 本サービスを基盤とした、生徒の思考プロセス可視化ツール「NANDE」が第20回 日本e-Learning大賞「経済産業大臣賞」を受賞
英作文の添削や英会話、質問対応、小論文対策などに対応するAIアプリを、教科を問わずいくつでも作成可能です。生徒のレベルや授業内容に応じたカスタマイズもでき、小中学校だけでなく、高校・進学塾・大学など、多様な教育機関での活用が広がっています。
生成AIパイロット校の教員生徒の声を基に開発された専用生成AIツールを活用
教育現場の多様な課題に対応するため、文部科学省は「リーディングDXスクール事業」を推進しています。千代田区立九段中等教育学校は、本事業における生成AIパイロット校として、先進的な教育DXの推進に取り組んでいます。
主な取り組みとして、アルサーガパートナーズ株式会社と連携し、本校独自の生成AIツール「otomotto(オトモット)」を開発・活用しています。otomottoには以下のような特徴があります。
- OpenAI社のGPT-4oに加え、Claude 3 OpusやGemini Proなど、複数のAIモデルを1つのシステム内で無制限に利用可能。AIモデルを柔軟に使い分けることで、生徒の学びや校務を幅広くサポート
- 生徒や教員が独自のプロンプトを作成・共有できる機能により、創造的な会話や活発な意見交換にも貢献
- システムの名称やアイコンは生徒のアイデアを取り入れて設計。今後も教員や生徒の声を反映しながら継続的に開発・バージョンアップを行い、教員の業務改善に特化した機能も順次実装予定
AIとの英会話練習で自発的に発信力を高める学習支援アプリ
株式会社ECCは、AIを相手に実践的な英会話練習ができる学習支援アプリ「ECC Study Assist」を提供しています。単語・構文学習機能やパターン会話練習機能により、英語による基礎的な発信力の向上を支援します。また、AIとの自由会話練習では、生徒が学年や学期ごとの達成目標に準じたトピックをもとに自由に会話し、AIが目標の達成に向けて適切に会話を誘導する仕組みも特徴です。
本アプリは、小中学校における英語教育の変革に資するものとして期待されており、以下のような実績があります。
- 文部科学省の2025年度「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業(AIの活用による英語教育強化事業)」に採択。全国の小学校・中学校・高校12校と連携し、本アプリを通じて英語教育の抜本的な強化を目指す
- 文部科学省の2024年度「グローバル人材育成のための英語力向上事業(デジタル技術を活用した発信力強化事業)」に採択。滋賀県草津市、三重県鳥羽市、福島県新地町の小・中学校で本アプリを活用し、英語指導による発信力の強化を図る
不登校児童生徒を3D教育メタバースとカリキュラム講師専門員が総合的に支援
心理的・社会的な要因などにより、年30日以上登校しない不登校児童生徒の数は、2023年まで11年連続で増加しています。文部科学省では、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」や「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」などの施策を取りまとめており、ICT・AI・VRを活用した3D教育メタバースも、その有効な解決策として注目を集めています。
その代表例が、富士ソフト株式会社が提供する「FAMcampus」です。学びの場となるメタバースに加え、児童生徒の特性に配慮したカリキュラム、講師や不登校支援専門員による支援パッケージも用意されています。自治体向けの支援体制も整っており、以下のような実績があります。
- FAMcampusを活用した不登校支援パッケージが、神奈川県の不登校支援事業「令和7年度不登校等の児童・生徒支援に係るメタバース運営等業務委託」に採択
- FAMcampusが、奈良県の不登校支援事業「公設フリースクール『ならコネクト』」内のオンラインスクール「Cocoro キャンパス」に採択
AI利活用による校務DX・教育DXの推進基盤となる通信環境整備ならイッツコム!
AI導入で校務DXや教育DXを目指す際、既存回線では通信帯域やネットワークセキュリティに懸念が生じることもあるでしょう。イッツコムが提供する「かんたんWi-Fi」や「モバイル閉域接続」を導入すると、校内でも校外活動や自宅学習でも、快適かつセキュアにAIサービスを利活用できるようになります。
「かんたんWi-Fi」で校内Wi-Fiネットワークを快適かつセキュアに
教育現場でAIサービスを導入・活用すると、校務や授業で頻繁にインターネット接続を行うため、ネットワークの不備が問題になることもあります。Wi-Fi通信の対応エリアや安定性に課題がある場合、業務用Wi-Fiアクセスポイント(AP)の導入がおすすめです。
イッツコムの「かんたんWi-Fi」なら、高性能APを手軽に設置して、校内全体のWi-Fi環境の強化がかないます。初期費用無料かつ安価な月額料金でレンタルでき、プロによる年中無休のサポート窓口も標準付帯するため、多台数でも低コストかつ安心・安全に運用できます。
「ハイエンド6」プランのAPなら、高速・高セキュアなWi-Fi6対応です。1AP当たり最大100台まで接続でき、同時接続台数が多くなりがちな学校でも安定したWi-Fi通信ができます。ゲストWi-Fi機能も完備のため、教員用と生徒用のWi-Fiネットワークを分離し、「校務系データにアクセスできるのは教員用SSIDに接続した場合のみ」といった運用も可能です。
【関連記事:アクセスポイントとは?LANの仕組みや機器の機能も一挙解説】
「モバイル閉域接続」で校外活動や自宅学習でも快適・セキュアなAI利活用
校外活動やグラウンドなど、校内Wi-Fiネットワークの外側でPCなどのデバイスを操作する機会もあるでしょう。Wi-Fi通信が前提だと、AIサービスを快適に利用できる場所が限られます。SIMカードを内蔵してLTE通信が可能なPCやタブレットであれば、家庭の通信環境に左右されることなく自宅学習に使うことも考えられます。ただし、個人の重要な情報を取り扱うため、モバイル通信時にはセキュリティ対策が必須です。
イッツコムが提供する「モバイル閉域接続」は、法人データSIMと閉域網接続を組み合わせ、モバイル通信とセキュリティ対策を両立するサービスです。専用SIMカードを挿入したデバイスは、インターネットから隔離された閉域網を経由して校内LANに接続し、クラウド型AIサービスなどの利用時には閉域網・校内LANを経由します。アクセスする場所を問わずセキュリティを確保でき、また通信ログも取得できるため、安心・安全にAIサービスの利用範囲を拡大できます。
AIに関連する他のトピックが気になる方はこちら!イッツコムが詳しく解説
「AI翻訳」とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方
外国にルーツを持つ児童・生徒とのコミュニケーションを図る上で、AI翻訳は重要な役割を果たし得ます。AI翻訳を活用すれば、誰でも一定水準の翻訳精度を得やすく、多言語対応が可能になります。RBMT・SMT・NMTの3方式があり、現在主流のNMTは文脈を踏まえた自然な訳文を高速かつ低コストで提供できる点が特長です。一方で、専門用語や児童・生徒の年齢に合わせた口語表現への対応状況、翻訳可能な言語数、セキュリティ対策などを確認することが大切です。以下の記事では、AI翻訳についても詳しく解説しています。
【関連記事:AI翻訳とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方】
まとめ
校務DXや教育DXを目指す学校や自治体のために、大小さまざまなベンダーが特化型AIサービスの開発や機能アップデートを続けています。実際にAIを利活用して、教員の負担軽減や業務効率化、児童生徒のICT・AIリテラシーの強化など、教育現場のさまざまな課題の解決につなげている学校・自治体も豊富です。
ただしAIサービスの利活用に当たり、校内Wi-Fiネットワークや校外利用時の安定性・セキュリティが問題になることもあります。AI利活用の基盤となる通信環境の強化をお考えなら、ニーズに応じた柔軟な提案ができるイッツコムにご相談ください。