人口減少対策として自治体や企業が取り組みたい具体的施策とは?
目次
人口減少対策は、過疎化が進む地方自治体にとって緊急性の高い問題です。都市部も無縁ではなく、人材不足に悩む企業は珍しくありません。
地方自治体は若者や女性、地方移住者にとって魅力的な環境を整備する必要があり、都市部の企業も多様な人材を確保し、定着させるための対策が求められています。具体的には、リモートワークをはじめとしたICTの活用により、地方自治体と都市部の企業をつなげる取り組みが重要です。
本記事で紹介する地方創生の成功例からもヒントを得て、長期的な効果を生むICT活用を検討しましょう。
人口減少社会の現状と展望
日本は人口減少と超高齢社会を迎えており、深刻な社会問題となっています。人口推計は、総務省統計局が毎月・毎年発表しており、将来推計人口は国立社会保障・人口問題研究所が行っています。まずは現在の人口動向と将来の見通しから、人口減少対策の必要性を整理しましょう。
少子化の進行は深刻さを増している
総務省統計局が公開した2023年10月時点の人口推計によると、日本の総人口は1億2,435万2,000人です。前年に比べ59万5,000人(−0.48%)の減少となり、13年連続で減少しています。
総人口から外国人人口(国内滞在期間が3か月を超える外国人の数)を除くと、日本人人口は1億2,119万3,000人です。前年に比べ83万7,000人(−0.69%)の減少となり、減少幅は12年連続で拡大しています。
社会増減(入国者数−出国者数)をみると2013年度から社会増加の傾向にありますが、自然増減(出生児数−死亡者数)をみると2007年度から17年連続の自然減少です。自然減少幅は拡大し続けており、少子化の進行はますます深刻化しています。
(参考: 『人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)結果の要約|総務省統計局』)
生産年齢人口の減少と高齢化率の上昇が続く見込み
少子高齢化に伴う生産年齢人口(15〜64歳人口)の減少も加速すると予想されています。
国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に発表した将来推計人口によると、日本の総人口は2056年には1億人を割って9,965万人となり、2070年には8,700万人まで減少する見込みです。日本はすでに超高齢社会に突入していますが、65歳以上人口割合は今後も上昇し続け、2070年には高齢化率が38.7%に達するとみられています。
総務省統計局の推計によると2023年度の生産年齢人口は7,395万2,000人(総人口の59.5%)でしたが、2070年には4,535万人(同52.1%)まで減少する見込みです。
(参考: 『日本の将来推計人口(令和5年推計)|国立社会保障・人口問題研究所』)
(参考: 『人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)結果の要約|総務省統計局』)
地方の人口減少と東京一極集中が加速する見込み
人口動態には地域差があります。総務省統計局の推計によると、2023年10月時点の都道府県別の人口は東京都が1,408万6,000人と最も多く、全国人口の11.3%を占めます。人口増減率を都道府県別でみると、東京都のみ増加し、人口増加率は0.34%です。その他の46道府県は軒並み減少しており、秋田県・青森県・岩手県など15県は人口減少率1%以上となっています。
また国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、地方の人口減少と東京一極集中が加速し、2050年には以下のような状況になる見込みです。
・2050年の総人口は、東京都を除いた全ての道府県で2020年を下回り、秋田県など11 県では2020年と比較して30%以上減少する
・2050 年の65歳以上人口割合が40%超となるのは秋田県(49.9%)をはじめとして25道県にのぼる一方で、最も低いのは東京都(29.6%)となる
・2050年の総人口が2020年の半数未満となる市区町村は約20%に達する
・2050年の15歳未満人口は99%の市区町村で2020年を下回る
(参考: 『人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)結果の要約|総務省統計局』)
(参考: 『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)|国立社会保障・人口問題研究所』)
自治体が対策すべき人口減少社会の課題を整理
日本社会には今後「15歳未満人口と生産年齢人口の減少」「65歳以上人口割合の上昇」という変化が起こると予測されています。すでに人材不足に悩まされている企業や自治体は多いでしょう。
少子化・人口減少の影響を大きく受けるのは、過疎化が進む地方自治体です。労働力が不足していくにもかかわらず、担うべき社会保障は増えていきます。自治体は以下のようなリスクを想定し対策を検討することが必要です。
- 産業の担い手不足や企業の撤退により税収が減少
- 自治体職員の成り手も減り、社会保障費が増加
- 交通や通信などインフラの維持が困難になり老朽化
- 学校や病院など公共サービスの品質も低下し、人口流出が加速
- 他の自治体との合併・編入や廃止により自治体が消滅
人口減少社会の課題解決に自治体が取り組むべき対策
地方自治体が人口減少対策を考えるとき、以下のような課題に直面することが多いでしょう。
- 若者世代が求める仕事と地域産業にギャップがある
- IT・デジタル推進体制が不十分
- 多様な働き方の選択肢が不足している
総合して、地域DXの推進・支援が重要です。自治体の運営から変え、子育て・若者・移住者・企業誘致などにフォーカスした対策を取ることが求められます。
自治体の内部で業務効率化を図る
自治体が人口減少社会に対応するためには、自動化できる業務を効率化し、政策立案や住民とのコミュニケーションといった重要な業務に集中できる環境を整備することが大切です。
リモートワークを導入することで、災害時にも業務を継続できるだけでなく、子育て世代もキャリアを中断せずに働くことが可能になります。また、Web会議システムやビジネスチャットツール、クラウドストレージを活用すれば、ペーパーレス化を推進する効果も期待できます。
さらに、AIチャットボットによるFAQ対応や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した定常業務の自動化も検討する価値があります。
近隣自治体との広域連携を進める
自治体の広域連携も検討の余地があります。防災・観光などの施策を立案・実施する際、近隣自治体との連携が必要になることも多いでしょう。
近隣自治体で同じシステムを利用して業務を標準化すると、全体のコストを低減でき、連携の円滑化や生産性向上に役立ちます。
システムを共通化する際は、業務フローの棚卸しが必要です。このプロセスで近隣自治体と課題や対策などの情報共有が進み、政策や業務フローを見直すきっかけにもなります。
シビックテック団体など民間とも連携する
シビックテック団体など、民間との連携も注目されています。シビックテック(CivicTech)とは、市民がテクノロジーを活用して行政の課題や社会問題を解決する取り組みです。
自治体が抱える子育て、教育、防災、衛生といった課題は、地域の住民や企業がITを使って解決したいと考えている場合もあります。自治体がただ苦情を受け付けるのではなく、アプリ開発に強い若者や企業に対し、保育園や幼稚園、各種行政サービスのデータを共有することで、地域の利便性を向上させるサービスを拡充し、新たな仕事や雇用を生み出すことが可能です。
さらに、任期付き職員制度を活用し、ICTの専門家など外部の人材を自治体に採用することも有効な手段として考えられます。
若者・女性や移住希望者にとって魅力的な環境を整備する
過疎化が進む地方自治体のよくある悩み・課題として、「進学や就職を機に若い世代が転出してしまう」「転出した住民が地元に戻ってこない」ということを挙げられます。一方で、ライフステージの変化による地元へのUターンを考える女性は一定数おり、首都圏在住の現役世代が地方移住を選択するケースもあります。
そこで以下のような取り組みにより、若者・女性や移住希望者にとって魅力的な環境を整備することが重要です。
- 地域DXの取り組みの推進や支援の強化
- 若い世代が就職したい職業・産業の誘致
- 子どもの保育料・医療費の完全無料化など子育て支援の強化
- テレワークやフレックスタイム制度など柔軟な働き方の導入推進
- 起業・創業を支援する取り組みや、ICT分野における人材育成の取り組みの強化
- サテライトオフィスなど遠隔で働けるワークプレイスの拡充
- 地域の魅力や地方創生テレワークなどの情報発信
企業の労働人口減少対策にはリモートワークの活用が重要
人口減少は企業の存続や競争力の維持にも大きな影響を与えます。この問題は都市部の企業も無縁ではありません。リモートワークやサテライトオフィスを活用して、多様な人材の活躍に向けた柔軟な働き方を整備することで、企業の人材確保・定着や地域経済の活性化など好循環を生むことが可能です。
多様な人材を確保・定着させる環境整備が必要
情報サービス業をはじめ多くの業界で、需給ギャップ・人手不足はすでに深刻化しています。企業や社会におけるDXは、より少ない労働力でより充実したサービスを提供・享受するために重要な取り組みです。しかしDX推進を担う人材(DX人材)の確保・定着に課題を抱え、離職率の高さに悩まされる企業も珍しくありません。
労働者の高齢化や人口減少もあり人材の質的・量的な不足感が年々増す一方、労働者の意識としては「ワークライフバランスの重視」「高齢者の労働意欲の高まり」といった変化もあります。
- 現職のまま育児や介護と両立して働きたい
- 育児や介護のために実家に引っ越したい
- 配偶者の転勤に伴う移住先でキャリアを中断せず働きたい
- 趣味やプライベートの充実のため地方移住したい
- 就業のために地元を離れたくない
- 定年を過ぎても働きたい
このようなニーズ・制約のある多様な人材を確保・定着させ、企業で活躍できる環境を整備するには、働き方や雇用制度の見直しが必要です。
「遠隔地勤務制度」や「ふるさとテレワーク」は有力な選択肢
多様な人材がどこからでも働ける柔軟な働き方として、従来のテレワークの枠組みをより柔軟にした「遠隔地勤務制度」や、総務省が推進する「ふるさとテレワーク」を挙げられます。
- 遠隔地勤務制度:リモートワークを前提に、居住地の制限などを撤廃し、通勤圏外に居住して育児や介護と両立しながら働ける制度
- ふるさとテレワーク:地方に移住者用のサテライトオフィスを整備し、都市部の企業の仕事を地方移住者も変わらずできるようにする取り組み
こういった制度・取り組みにより柔軟な働き方を可能とする環境を整備することで、高度なスキルを持つ地方移住者や経験豊富な高齢人材など、多様な人材を確保・定着しやすくなるでしょう。
リモートワークなどICT活用で地方創生に成功した自治体の事例3選
人口減少対策・地方創生の中核的な施策といえるのが、リモートワークやサテライトオフィスなどのICT活用です。現役世代の起業や就業機会を自治体の取り組みにより支援し、地方と都市部をつなぐ働き方を選択しやすい環境を整えることが求められます。成功事例からヒントを得て、応用できる施策を検討しましょう。
「起業家タウン」を目指す茨城県取手市
茨城県取手市は人口減少対策・地方創生の取り組みとして、一般社団法人とりで起業家支援ネットワークと連携し、職業選択の1つとして起業が当たり前になる街を目指す「起業家タウン構想」に取り組んでいます。
「起業家タウン取手」を目指す事業の愛称は「ワタシの街の創業支援Match(マッチ)」と名付けられました。Matchでは創業・起業を支援する仕組みとして以下のような多角的な支援策を展開し、すでに200名以上の起業家が誕生しています。
- レンタルオフィスMatch-hako(マッチ バコ):Matchの中核的施設である起業支援型のレンタルオフィス
- 取手起業登録カードMatch-card(マッチ カード):Match-hakoの利用割引や、市内で起業する際の補助金を受けられる、起業家を認定するカード
- 起業師範Match-adviser(マッチ アドバイザー):商工会経営指導員や中小企業診断士などが、起業前後の悩みについて無料相談・助言を行う
- 起業応援団Match-supporter(マッチ サポーター):取手市内で活躍している事業者が起業応援団として登録し、先輩起業家が新人起業家を応援
「奇跡の田舎」と呼ばれる徳島県神山町
徳島県神山町は地方創生の好モデルとして知られ、「奇跡の田舎」とも呼ばれます。若い世代の移住が増え始めたきっかけとなったのは、国内外のアーティストを招き町内で創作活動をしてもらう「神山アーティスト・イン・レジデンス」です。高速インターネット回線の整備、クリエイターが安価に滞在できるオフィス開設なども進めました。
現在はIT企業を中心に多様な働き方を実現しているさまざまな企業のサテライトオフィスが点在し、テクノロジー・デザイン・起業家精神を学ぶ「神山まるごと高専」も注目されています。
「起業の島」として注目される新潟県佐渡市
「起業の島」として行政・Web系の業界から注目されている、新潟県の離島・佐渡市の事例です。
出生数が少なく若者の転出にも悩まされていた佐渡島は、佐渡島での起業支援や佐渡島への企業誘致支援を行うボランティア団体「NEXT佐渡」と連携し、「起業成功率ナンバーワンの島」を掲げてスタートアップや企業誘致に力を入れています。
積極的な誘致支援策により、多数のスタートアップ企業が佐渡島で創業またはサテライトオフィスを開設しました。シェアオフィスやインキュベーションセンターは高い稼働率で運営されており、若い世代の雇用創出にも成功しています。
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「Zoom Workplace」でリモートワークの基本ツールを一本化
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【関連記事:Zoomを使うには?主な機能や参加・主催の方法を分かりやすく解説】
【関連記事:テレビ会議とWeb会議の違いとは?両対応の「Zoom Rooms」のメリット】
「モバイル閉域接続」で安全かつ手間要らずのリモートアクセス
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【関連記事:VPN接続とは?いまさら聞けない基本を仕組みから接続方法まで解説】
「かんたんWi-Fi」でサテライトオフィスのフリーWi-Fi整備
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【関連記事:アクセスポイントとは?LANの仕組みや機器の機能も一挙解説】
まとめ
人口減少は過疎化が進む地方自治体を直撃する問題です。生産年齢人口の減少や東京一極集中の加速が見込まれる中、地域DXやサテライトオフィス誘致など、若者・女性や移住希望者にとって魅力的な環境を整備する取り組みが求められます。
一方、都市部の企業にとっても人口減少問題は無縁ではありません。遠隔地勤務制度やふるさとテレワークなど、多様な人材を定着させる環境整備が求められます。
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